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133)ダイオウヤイト討伐-6(窮地)

 生まれて初めて凄惨な死体を見たティアは吐き気に襲われ蹲ってしまった。そんなティアに野盗の一人が襲い掛かる。


 戦場において敵の前で蹲るなど、“殺してくれ”と言っている様なものだ。


 絶対絶命の弟子の状況にクマリはティアの下に駆け寄ろうとしたが、多くの野盗に取り囲まれ動く事が出来ない。


 野盗達は、指示を出しながら蹴散らすクマリを危険視した為か、彼女に群がり潰そうとする。



 クマリはライラとバルドが居る方を見遣ると彼女達も剣を持った野盗に囲まれていた。


 差し迫った窮地に舌打ちし、クマリは野盗を切り捨てながら大声を上げる。


 「ティア!!」

 「うぅ……は!?」


 クマリの叫び声を聞いたティアは吐き気を抑えながら顔を上げた。するとティアの眼前には血走った眼をした男が剣を振り上げていた。


 「キャアア!」


 ティアは悲鳴を上げながらも、何とか腰に据えた剣を抜き、野盗が振り下ろそうとした剣を切り上げようとした。


 “ギイン!”


 甲高い音がして剣が交わる。


 「仲間を追って来たか! 不運なガキめ、死ねぇ!!」


 野盗風の男は、叫びながら自らの剣に力を込め押し込んでくる。


 対してティアは初めて人が死ぬ所を見て激しく動揺している所に、野盗から襲われた為に迎え討つ準備が全く整っていなかった。


 (こ、怖い! でも、こんな所で死ぬ訳には!)


 ティアは恐怖で気を失いそうになりながら連れ去られたミミリや、自分が奪い返す心算のレナンの事を思い、何とか自分を奮い立たせる。



 ティアは剣で押し返しているものの、混乱の極みにある為か、彼女は秘石の力を開放する余裕が無かった。


 そればかりか、襲い掛かる野盗があの忌まわしいフェルディの姿と重なり完全に気後れし、今にも恐怖で腰が砕けてしまいそうだった。



 足は震え腰に力は入らない。そんな状況では野盗に敵う筈もなく……。


 “ギン!”


 腰の入ってないティアの剣を野盗が払い、その上ティアの腹を蹴り押す。


 “ドザァ!”

 「あぐぅ!」


 野盗に蹴り倒されたティアは尻餅を付いてしまい、彼女の剣は払われ地に転がった。


 「ティア! 早く立って逃げろ!」


 ティアの危機にクマリが叫ぶ。しかしティアは剣も手元に無く、蹴り倒されて咄嗟に立ち上がる事も出来無かった。


 対して野盗は大きく剣を振り上げ止めを刺そうとする。


 (こ、殺される!?)


 ティアは両手で顔を覆い身構えたが……。


 “ドス!!”

 「うげえぇ!」


 何か突き刺さる様な音の後に響く、野盗の叫び声。



 ティアは恐る恐る見上げると、自分を殺そうとした野盗の胸から短剣の刃先が飛び出しており、そこを中心に真っ赤な血が染み出していた。


 「う、ううぅぐ!」


 くぐもった断末魔の声を上げた野盗は力尽きて崩れ落ちる。



 野盗の背後には――真黒い異形の鎧を纏う黒騎士が右手を真っ直ぐティアの方に向けて立っていた。


 どうやら黒騎士が投擲した短剣により野盗は始末されたのだろう。ティアは自分が助かった事を安堵する事も忘れ、眼前に現れた異形の黒騎士の姿に驚いて言葉を失った。


 

 その騎士が纏う鎧は肩当や肘当てだけでなく、体中から鋭利な刃状の突起が付けられており、兜に至っては鋭利な太い角が飛び出している。



 凶悪な漆黒の鎧を纏う黒騎士は右手をゆっくりと降ろすと、背中の鞘に収まっていた身の丈程も有る大剣を構え駆け出す。


 対してティアは黒騎士が敵か味方か分らず戸惑いながら地に転がされた剣を拾って構える。


 そんなティアに構わず黒騎士は、恐るべき速さでクマリを襲っていた野盗の群れに突込み、巨大過ぎる大剣を振るう。


 “ザシュ!! ザイン!!”


 「グギャアアア!!」

 「ヒイイィ!」


 クマリを取囲んでいた多数の野盗は黒騎士が大剣を振るう度、呆気なく薙ぎ倒され血を噴き出して絶命する。


 その強さは圧倒的で、ティアにはクマリと同等、いや……それ以上に見えた。


 黒騎士が巨大な大剣を振る様は、その膂力の所為か舞を舞うか如く軽やかだ。


 野盗は取囲んで黒騎士を殺そうとしたが無駄な事だった。彼の騎士が身の丈程有る大剣で軽やかに舞うと、野盗達は武器ごと両断され地面に転がった。


 黒騎士が来襲してから、あっという間にクマリとティアの周りに居た野盗は全員死んだ。



 クマリは頭を掻きながらバツが悪そうな様子で黒騎士の方を向いて突っ立ていた。


 対してティアは自分が助かった事を理解し、我に返ってライラとバルドの方を見ると、其方には白い鎧を着た美しい女騎士が一方的に野盗達を狩っている姿が見えた。



 どうやらティア達は助けられた様だ。


 

 ティアが漸くその状況を理解した時、眼前に転がる大量の野盗の死臭が鼻に付き、堪らず嘔吐した。


 「う、うげぇ!」


 ティアは嘔吐が収まらず涙を流しながら吐き続けている。そんな様子を見ていたクマリはティアに声を掛けた。


 「……だから言ったんだ、馬鹿弟子……荷が重いってな……。それにしても……マリちゃん、今回は助かったよ……」


 クマリはティアに声を掛けた後、黒騎士の方に向き直り話し掛けた。


 「……これで借りは返したぞ、クマリ……。ククク……だが、ヒヨッ子共に随分手を焼いている様だ……」


 クマリの言葉に対して黒騎士――マリアベルは可笑しそうに笑って答えるのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話投稿は1/12(日)予定です、宜しくお願いします!

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