127)初陣前
休日前の夜……ダイオウヤイト討伐に参加する事となったティアの仲間達は木漏れ日亭に集まっていた。
「……ダイオウヤイトか……どんな怪物だ? フフン、腕が鳴るぜ!」
「ちょっとバル君、油断したらダメだよ? その魔獣って凄く怖いんでしょう?」
鼻息の荒いバルドはレナンの親友で3級冒険者だ。
そんな彼に釘を刺したのはバルドの恋人でティアの親友である3級冒険者のミミリだ。
彼等はクマリによりダイオウヤイト討伐に呼ばれていた。
バルド達以外にはティアの護衛騎士であるライラと、ティア。そしてティアの師匠で特級冒険者であるクマリが居る。
ティアの学友であるリナやジョゼも討伐依頼に参加すると言ってくれたが、ティア自身が丁重に断った。
二人の申し出は正直有り難かったが、ティアの目的の為に冒険者になったばかりの彼女達を危険に晒せないと思ったからだ。
そんな訳でダイオウヤイトの討伐任務に参加するティアの仲間は全部で5名となった。
今日は、その5名で依頼内容の打ち合わせを行う事となったのだ。
主であるティアが危険な依頼に参加する事を許せないライラがクマリに文句を言う。
「……クマリ殿……いくらティアお嬢様の為とは言え、かような危険な魔獣討伐を行き成り行わせずとも……」
「この事は以前話した通りだ。危険を冒さない限りレナン君を取り戻す事なんて出来ないよ? そして……それを決めたのは私じゃ無い……他でも無い、ティアだ」
ライラの苦言に、クマリが静かに返答する。
「……心配してくれて有難う、ライラ……。でも私は……レナンを取り戻す為に何でもしたいの……。アルテリアでお母さまと……エンリさんにも誓いを立てたしね。ライラ、私なら大丈夫! こう見えて強くなったんだから!」
「ティア……お嬢様……」
心配するライラに、力強くティアは宣言する。対してライラは成長したティアの姿を見て涙ぐんで声を漏らした。
「ライラ、この馬鹿弟子は言って聞かせたって無駄さ。コイツがダイオウヤイトを狩るって言うなら……アンタが今する事は……コイツを守る事だ」
「き、貴殿に言われなくても分っている!」
感極まったライラを諭すクマリに対して、当のライラは怒って言い返す。
「……その意気だ。皆、聞いてくれ! ダイオウヤイトの討伐に関して説明するよ!」
そう言ってクマリはダイオウヤイトの討伐方法について説明を始める。
「……ダイオウヤイトのヤバい所は何と言っても、その長い尾節さ……。長いから問題じゃない、尾の先端から吹きかける酸液が怖いのさ。
強力な溶解力もそうだが……、恐るべきはその射程の長さだ。ゆうに20mは飛ばしてくる。
奴が動きを止めて尾を立てた時……軸線上に居るのは危険だ。次いで、頭部に有る巨大なハサミの様な触肢だが、コイツはサソリの様に振り回す事は無い……。だが逆に覆う様に前に伸ばして来る。仮にこの触肢に捕まれば命は無いと思え。
今言った通り、とにかくダイオウヤイトの全面に考えも無く立つのは危険すぎる。コイツを狩るなら横から攻めるんだ」
クマリは冒険者になって長い時を生きており、ダイオウヤイトの討伐も単独で何度か行っている。
その為、新米のティア達に適切なアドバイスが出来た。
「……細かい事は実際の討伐時に言うよ! 何も心配する事は無い、私は何度もコイツを単独で狩っている。だけどね、今回はお前達がやらないと意味が無い。私が言った通り、思い切りやって見せろ! 他の連中に、お前達の力見せ付ける心算でやってやれ!」
「「ハイ!」」「応!」「ああ」
クマリの号令にティア隊4人は其々応えるのであった。こうして冒険者としてのティアの初陣が始まった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)誤字修正しました。