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122)着火

 模擬戦と言う建前の、ティアとソーニャの決闘はレナンの介入により幕引きとなった。



 激しさを増した二人の決闘の最中に、白い稲妻の様に彼女達の間に割って入ったレナンが戦いを止めた。


 ティアとソーニャが放った魔法は強力で、特にティアが放った巨大な火球は誰が見ても恐ろしい威力を秘めていると理解出来た。


 そのティアの魔法を弾き飛ばし、怒りで自制心を失ったソーニャを一瞬で無力化しのだった。


 ソーニャはレナンによって気絶させられ、両手を付いて動けなくなったティアも力も使い果たしたのか、そのまま気を失っている。


 死力を使い果たした二人は、レナンによって訓練場の脇に寝かされていた。



 ティアとソーニャの戦いは見学していたクラスメイト達からすれば、極めて高レベルだったが……それを瞬く間に終わらせたレナンの実力に誰もが息を飲んだ。


 「「「「…………」」」」


 

 突如終わった戦いに言葉を失い、沈黙が訓練場を支配した。そんな中、審判のイアン教師が動揺しながら声を出す。


 「も、模擬戦の勝敗は……ティア フォン アルテリア及びソーニャ フォーセル共、規約を破り危険な魔法を放とうとした! ここに居るレナンが止めねば大きな事故になっていたかも知れん! 彼の働きは実に見事だった!」


 イアンがそう叫ぶと、見学していたクラスメイト達は……。


 「「「「うおおおお!!」」」」

 「「「「キャー!」」」」


 静まり返った状況から突如割れんばかりの歓声を発した。



 ティアとソーニャの戦いも素晴らしかったが、レナンが最後に見せた電光の様な動きで全てを終わらせた、


 その姿に皆が興奮し、我を忘れたのであった。



 歓声が鳴りやまない中、レナンは審判役のイアン教師に向け静かに語る。


 「イアン先生、確かに二人は度を越した戦いと成りましたが、それ程、二人の戦いは白熱し互いの力は拮抗していたと言う事……。誰にも被害が及ばなかった事ですし、今回の件はご容赦お願いします」


 「うむ、暴走した彼女達を諫めた君が言うのならばな! 君の働きに免じて規約を犯した彼女達を咎める事はしない!」


 レナンの言葉に感じ入ったイアンが彼に答えると、レナンは頷き寝かされたティアとソーニャの下に向かう。


 クラスメイト達は興奮が冷めやらない中、レナンを口々に称えるのであった。




  ◇   ◇   ◇




 ティアとソーニャの決闘が行われたその夜……、ソーニャは姉であるマリアベルの前で謝罪していた。


 姉を中傷したティアを打ち負かす心算が、結果は派手な乱闘の結果、二人とも反則負けと言う不甲斐ない結果になった事を恥じていたのだ。



 「……申し訳御座いません……お姉様、あのティアに対し、みっともない姿を……」


 「…………」


 目を赤くしながらマリアベルに詫びるソーニャに対し、マリアベルは真剣な顔をしてテーブルの上に置かれた光る玉を見つめている。


 この球は予めリンクさせた対象から映像を映し出す魔道具で、レナンの首輪を通じて、今日のティアとソーニャの決闘の記録を余す事無くマリアベルに見せた。



 魔道具の映像を静かにじっと見る彼女は、ソーニャの謝罪も上の空で食い入るの様に二人の戦いの映像を見ている。


 「……今回は失態を晒しましたが……次こそはティアになんて遅れを取りません……ってお姉様……どうなさったのですか……?」


 ソーニャはマリアベルが自分の話を上の空で聞いている事が気になり、問い返した。


 「ククク……」

 「お、お姉様……?」


 問い返したソーニャに対し、マリアベルは面白くて仕方が無いと言った様子で笑い出す。


 それを見たソーニャは姉がなぜ笑い出したのかが分からず、様子を伺った。


 

 対してマリアベルは……


 「フフフ……アハハハハ! まさか、まさか! 取るに足らないと思っていた愚かな小娘が! かような戦いを示すとは!」


 声高く笑い大喜びした。その様子はまるで新しい玩具を見つけた子供の様だった。



 そんなマリアベルの姿を見たソーニャは戸惑い姉に話す。


 「お、お姉様……相手は、あの残念思考のティアですよ? お姉様が気に掛ける程の者では……」


 「……確かに……最初はそう思っていた……。だが、どうだ!? 現役の白騎士であるお前に、ああも食い下がる様は、荒ぶる獣の様だった! 実に、面白い!! その戦い振り、是非に肌で感じてみたいものだ!」


 ソーニャの問いにマリアベルはティアに対する強い興味を隠さず示した。

 

 ソーニャとの決闘で示したティアの戦いは英雄騎士であるマリアベルを夢中にさせたのだった。


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