119)残念令嬢VS悪徳令嬢-4
包帯をした右手の秘石から甲高い音を放ちながら、ティアは立ち上った。
怪我等は見られないが、精神的なショック(レナンの件)を受けている所へのソーニャの攻撃……。
その2重のダメージに依る為か、足元がふらついている。
「お前、大丈夫か!」
「ティアちゃん 無理しないで!」
そんな彼女の様子に控えのリナとジョゼが声を掛ける。
対してレナンはと言うと……。
「ティア! 良く立ち上がった! ソーニャは魔法が得意だ! 気を付けて!」
ソーニャ側の控えなのに漸く立ち上がったティアに声援を送っていた。レナンの応援を聞いたティアは涙目で応える。
「う、うん! 私は絶対負けない!」
そんな二人の様子を見たソーニャは不満げに呟く。
「レナンお兄様……対戦相手のティアを応援してどうするんですか? 流石に傷付きますわよ……?」
「ごめん! ティアがピンチだから……つ、つい……」
ソーニャの不満にレナンは素直に侘びる。
「……まぁ、良いですわ。それより……ティア……貴女は良く立ち上がりましたね?」
「アンタやマリアベルには! 負けらんないわ!」
ソーニャの言葉にティアは強い口調で言い返す。
「……先程も言いましたが……貴女が幾ら頑張ろうと……無駄な事です。マリアベルお姉様は本気でレナンお兄様を愛しています。そしてお兄様の心も時を重ねるに連れ……お姉様の物となりましょう……。貴女が、此処で頑張る意味など……有りませんわ」
「……アンタがさっき言った事……私は凄くショックだったわ……。だけど! だからと言って、私が諦める理由にならない! レナンがマリアベルに惹かれるって言うなら! 私は真っ向から立ち向かって! レナンの心を取り戻す!」
ソーニャの揺さぶりに対し、ティアは強い気持ちで言い切った。
それを聞いたソーニャは……。
「フフフ……何だか、可笑しな気分です。ティア……貴女の言った言葉は……マリアベルお姉様が言った事と、全く同じです。貴女なんかとお姉様は……全く違うのに……不思議です……」
「ふざけた事言わないで! レナンを横取りした……アンタ達にそんな事言われたくないわ!」
ソーニャは愛する姉が言った事とティアの言葉が重なった為、共感を覚え柔らかい笑顔を見せたソーニャに対しティアは激高して叫んだ。
今、二人の道は重なる事は有り得ない様だった。
ソーニャが割り切って答える。
「……確かに……今の言葉は軽率だった様です。改めて勝負を続けましょう、ティア!」
「望む所よ! ソーニャ!」
ソーニャの叫びにティアも答える。次いで彼女はカバンからマンジュを取り出し、補給の為に齧る。
「うおおおお!」
そしてティアは大声で叫んで駆け出す。対してソーニャは小さな声で魔法の詠唱を唱え始めた。
秘石の力で強化されたティアは瞬く間にソーニャに迫り、大振りだが強力な上段切りを浴びせる。彼女の剣は致命傷にならない様にソーニャの右肩を狙った。
ソーニャは剣を辛うじて構え、ティアの剣を受けようとする。
「ソーニャ! 今のティアの剣は鋭い! 受けずに避けるんだ!」
レナンは、目で見てティアの剣の鋭さを予想し、ソーニャに向かい叫んだ。
それはティアの強力な斬撃に対しソーニャの細腕では受け止める事が出来ないと思った為だったが……。
“ガギイン!!”
ソーニャはティアの強化された斬撃を両手で掴んだ木剣で受け止めた。
よく見ればソーニャの体は薄く白く光っている。
「!! アンタ……その体の光は……!?」
「ぐぅぅ! 貴女の予想通り! 身体強化の魔法ですわ! はあぁぁ!」
ソーニャの体に纏う光りを見て驚くティアに対し、ソーニャは叫びながら両手に力を込めティアの斬撃を押し返して彼女を押し退けた。
「はぁはぁ……。レ、レナンお兄様の様に、多重掛けは出来ませんが……私はこの魔法も習得しています……。短期間なら、私も貴女の様に膂力を高められます!」
“ガイン! ガギン! ガン!”
ソーニャは叫んだ後、強化魔法で強化された斬撃をソーニャに浴びせる。
対してティアも木剣で受け止め、両者激しい斬り合いとなった。
卓越した剣技を持つソーニャに対し、実力不足のティアだったが秘石により反射速度と体力も増強されている為、ソーニャの鋭い剣に何とか合わす事が出来た。
「「ハアァ!」」
“ガツン!!”
ティアとソーニャは同じ様に叫んで、互いの木剣で受け合う。
「け、軽率で……残念思考の素人の癖に! 粘りますね! とっとと這い蹲りなさい!」
そう叫んで、ソーニャは自身の木剣でティアの剣を巻く様に切り上げ、木剣を跳ね飛ばした。
“ギン!”
“ヒュン! ズガ!”
ソーニャの技により、ティアの木剣はあらぬ方向に飛ばされてしまった。これは剣道で言う所の“巻き上げ”と言う技だ。
「しまった!」
「終わりです! ティア!」
木剣を飛ばされたティアは短く叫ぶ。対してソーニャは自身の剣を右下段に構え、ティアに迫るのであった……。