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117)残念令嬢VS悪徳令嬢-2

 ソーニャの鋭い上段切りを後方に宙返りして飛び躱したティア。


 その人を超えた動きにクラスメイト達は歓声を上げた。


 そんな様子にティアは手を高く上げて答えた後、ソーニャに向かって果敢に攻める。



 「ソーニャ! 行くよ!!」


 “キイイン!”



 後方に飛んでソーニャから距離を取っていたティアは秘石の力を使い、跳躍して上段から切り掛かる。


 “ダン!”


 秘石の力で強化されたティアの脚力は数メートル近く飛び上がり、ソーニャに迫る。



 「くっ! バカな!」


 ソーニャは人外の動きを見せるティアに驚きながら、ギリギリのタイミングで横に転がって避ける。


 “ドスン!” 


 さっきまでソーニャが居た場所に降り立ったティアは逃げたソーニャに向かって恐るべき速さで迫る。


 対してソーニャは何とか立ち上がり、迫るティアに対して、突きを繰り出す。


 但し木剣とは言え危険な為、防護された胸を狙った。



 しかし……ティアは素早く突き出したソーニャの突きを右手の剣で払う。


 “ガイン!”



 ティアの剣筋は型も崩れ、洗練されていないが……その動きは恐ろしく速く、荒々しかった。


 その動きはまるで植えた野獣の様だった。



 「その動き……身体強化の魔法……という訳でも無さそうですね? どちらかと言えば……マリアベルお姉様の御力に近いモノを感じます。……程度は全然低いですが……」


 「何を! ゴチャゴチャと!」



 自らの突きをいなされたソーニャは、他人事の様に呟く。対して軽く扱われたティアは激高して切り掛かるが……。


 “トン!”


 切り掛かったティアに対し、ソーニャは身を低くして、彼女の懐に入り込んだ。


 そしてティアの勢いを利用して、彼女の腰に手を回し投げ飛ばした!


  “ダアン!”


 「「ティア!」」

 「ティアちゃん!」


 ソーニャに投げ飛ばされたティアは派手に訓練場の床に転がった。そんな彼女を見て、レナンとリナ達は叫ぶ。


 対して見学しているクラスメイト達はティアとソーニャが見せる激しい戦いに大興奮して居る様だ。



 「うむ! 鋭い投げ技が決まったな! どうか、ティア……降参するか!?」


 大きく投げられたティアを見て、審判のイアン教師が彼女に問う。


 対してティアの返答は最初から決まっていた。


 “キイイン!”


 彼女は投げられて仰向けに寝転がった状態から、秘石の力を借り足を真っ直ぐ延ばして跳ね起きた。


 「「「うおおおお!」」」」


 綺麗な跳ね起きが決めたティアを見学しているクラスメイト達から歓声が上がった。



 立ち上ったティアは教師のイアンに試合の続行を宣言する。


 「先生! 私は全く問題有りません! 模擬戦を続けます!」


 「おう、分った! 試合続行!」


 イアンの声によりティアはソーニャの前に立ち、剣を構えながら話す。



 「流石にやるわね……。秘石の力を使った私を投げ飛ばすなんて……」


 「フフフ……確かに貴女の身体強化魔法? みたいな技……、大したものだわ。素直に認めてあげる……。でもね……私の傍には、もっと凄いお姉様が居る……。ティア……私はね、最強と言われるマリアベルお姉様と共に戦う為、有と有り得る技を学んだわ……。剣だけじゃ無い、今、貴女にして見せた様な体術や、魔法……弓術や槍術もね……」


 「上等じゃない……、だけど……私だって……アンタ達には絶対負けない……」


 “ぐぎゅううううぅ!!”



 不敵に話すソーニャに対し、ティアも負けじと言い返すが、気合いを入れ過ぎた為か彼女のお腹は大きな音を鳴らしてしまう。



 ティアは羞恥で赤い顏をしながら“補給しまーす!”と声を上げ、脇に抱えているカバンからマンジュを複数取り出し、一度に齧る。


 「「「「「…………」」」」」



 模擬戦中なのにモキュモキュとマンジュを食べるティアに対し、その場に居た者達は、何とも言えない表情を浮かべ沈黙した。


 ちなみに模擬戦中の飲食は前例が無い為、違反とは判断されなかった。


 緊張感が台無しになった場において、ソーニャが溜息を付きながら話し掛ける。



 「ふぅ……、貴女の、残念過ぎる食欲も……どうやら、貴女が新しく得た力に関係が有りそうですね……。女性としての恥らいやプライドを捨ててまで……力を得たのは……お兄様を取り戻す為、と言う訳ですか……」


 「ふぉんなはふへへひゃい!」



 ソーニャの言葉にティアは口一杯にマンジュを入れたまま“女は捨てて無い!”と反論するが何言ってるか分らない。


 対してソーニャはティアに静かに語る。



 「……涙ぐましい執念で……素直に同情しますわ……。ですが今回ばかりは相手が悪かったですね。レナンお兄様のお相手がマリアベルお姉様で無ければ……私も応援させて頂くのに……」


 「モグモグ……ゴクン。 余計なお世話よ! 私は絶対レナンを取り戻す!」


 ティアはそう言ってソーニャに向かい剣を向けるのだった。


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