114)開戦
レナンを巡って火花を散らす、ティアとソーニャ……。
そんな二人とレナンの周りにいつの間にかクラスメイト達が遠目に見つめている。
それを掻き分け、ティアの友人のリナとジョゼがティアの元に駆け寄った。
「ティア、どうした!?」「大丈夫、ティアちゃん!?」
「……何でも無いよ、有難うリナ、ジョゼ……。」
駆け寄るリナとジョゼに礼を言うティア。
そんな彼女にソーニャは話し掛ける。
「……人が集まってしまったわね……。とにかく……ティア、貴女はご自分の立場を踏まえて、行動して下さい。あ、誤解が無い様に言っときますけど……貴女が破天荒な残念振りを示す事は、別に構わないの。それが……貴女の生き様でしょうから……。但し、レナンお兄様に適切な距離を置いて行動して欲しいわ」
「アンタにそんな事言われる覚えは無いわ……。私は、必ず黒騎士マリアベルをぶっ飛ばして……レナンを取り戻す」
「……すっかり以前の残念振りを取り戻した様で……。相変わらずの根拠の無い、誇大妄想ね。貴女がどんな妄想を描いて……脳内お花畑になるのは、別に構わない。……でも、私のマリアベルお姉様に害なす、と言う事なら話は別よ? ……ティア、今すぐ謝罪なさい。私の家族に関する事で……出来もしない事を言い振らされるのは……容赦は出来ない」
マリアベルをぶっ飛ばすと言ったティアに対し、ソーニャは冷静に怒りを込めて反論した。
「……妄想かどうか……直ぐに分かるわ。驚くのはアンタ達の方よ!」
「フフフ……大した自信ね……。良いでしょう、ティア……ちょっと気が引けるけど……夢見がちな貴女に対し……私が現実を教えてあげる……。
今日の午後……剣術指導の授業が有るでしょう? その場で、貴女に身の程を改めて教えてあげるわ……。マリアベルお姉様に到底敵わないって事をね」
反論したティアに向け、ソーニャは挑発する様に言い放つ。
対してティアは怒りで小腹が空いた為、布袋から取り出したマンジュを齧りながら声を低くして答えた。
「……モグモグ……ゴクン……へぇ……楽しみね……。是非、教えて貰おうじゃない!」
言い争う二人に対し、レナンが仲裁に入る。
「ソーニャ、君は現役の騎士だ。そんな君が実戦経験の無いティアに対して勝負を挑むなんてフェアじゃない。ティアもソーニャを煽るのは止めるんだ」
レナンの制止に対し、ソーニャとティアはマンジュを齧りながら各々反目しながら答えた。
「大丈夫ですよ、レナンお兄様……素人相手に本気になんて、なりませんから……。蛮勇は我が身を滅ぼしますので……彼女には自分の実力を、身を持って知って頂く必要が有ります」
「偉そうな事言ってるけど……パクパク……んぐ……私に負けて、恥掻くのはアンタの方じゃ無いの?」
「……フフフ……面白い冗談ね、ティア?」
「アハハ……冗談なんかじゃ無いわ、ソーニャ?」
ソーニャとティアは互いに言い合い、不敵に笑いながら睨み合う。
その様子にレナンは首を振りながら額に手を当て、呆れている。
そんな中、二人に声を掛ける者が居た。
「……お前らがやり合うって言うなら……この私が見届けてやるよ……」
「ちょ、ちょっとリナちゃん! と、止めなくて良いの!?」
ヒートアップする二人を見ていたリナが喧嘩の立会人を申し出て、横に居たジョゼがそれを制止した。
周りで様子を見ていたクラスメイト達はと言うと……。
「おい、残念令嬢と現役騎士のソーニャが決闘だってよ!」
「面白れぇ! 見てみようぜ!」
「……またなの? ティアさん……もう少し大人しく出来ないのかしら?」
「さぁ? でも相手が現役騎士のソーニャさんじゃ、勝負にならないんじゃない? だってソーニャさんってレナン様と一緒に任務に出てる子でしょう?」
「でも、何仕出かすか分らないティアさんなら、どうなるか分らないわよ?」
二人の様子を遠巻きに見ているクラスメイト達は各々好きな事を言っているが、ティアとソーニャの決闘に興味津々の様だ。
「リナさん。二人を煽るのは止めて下さい」
「いや、これで良いんだよ、レナン。こんなイザコザは当人同士で、一回ガチっとやり合った方が後腐れ無いんだ」
レナンは決闘を促したリナに注意するが、対してリナは彼に諭す。
そんな周囲の状況も気にせず暫く睨み合っていた二人だったが、ここでソーニャが話し出す。
「……こんな場所で言い合っていても仕方ありません……。次の授業も有りますし他の方にも迷惑ですわ。イアン先生には私の方から話しておきますので……、ティア……貴女も“準備”していて下さい」
「ええ、望む所よ! コテンパンにしてあげるわ!」
そう言い合って不敵な笑みを浮かべる二人。
こうしてティアとソーニャは決闘する事となったのであった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)段落見直しました。