112)教師ユニ、キレる
始業と同時に2階の教室に窓から飛び込んで来たティア。
まだ、息が荒い彼女は髪の毛もボサボサで、脇には何やら沢山の何かが詰め込まれた布袋を抱えている。
右手は今だ白い包帯が巻かれたままだった。
「ふぅ……何とか間に合ったわ……。リナとジョゼも朝は有難う! さぁ席に付きましょう」
「お、おう」
「……えーっと……」
「「「「「…………」」」」」
ティアはそう話したが、お礼を言われたリナとジョゼは戸惑いながら返す。
対してクラスメイト達は窓から現れたティアに驚き固まっていた。
ティアはそんな様子に構わず何事も無く席に付こうとしたが……。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ティアちゃん、貴女……窓から出て来たよね!?」
「……はい、寮から一直線で突っ走って……最後は、ジャンプして窓に飛び込みました。私が考えに考えた最短ルートで、ギリギリ始業前に着く筈ですが、何か問題が……? は!? もしかして間に合いませんでした!?」
女性教師のユニに詰め寄られたティアは自分が責められる理由が分らず、遅刻したと思い逆に聞き返すが……。
「い、いえ、そ、その事じゃ無く……」
「え? 遅刻の事じゃ無い? 後は……何で怒られてるの? も、もしかして……この布袋!? だ、駄目です! これは大事なモノで……!」
「ち、ちがーうぅ! 気にするトコ、そこじゃ無いのー! 入ってくる場所が違ーう! はぁはぁ……、ふぅ……も、もう良いです……、席に付いて下さい……。明日からは時間に余裕を持って……正しい所から、教室に入って下さいね……」
ユニとしては窓から教室に入らないで、と分って欲しかったのだが、ティアには全く伝わらず諦めて彼女に着席を促す。
対してティアは元気に返事するが……。
「はい! やっぱり、この窓より教壇側の窓がの方が直線的に近いって事ですね! 流石先生、教えてくれて有難う御座います! 明日からは、もう遅れない様に最短ルートを極めます!」
「キー!! わ、私は! 窓から入って来ないでって事言いたいの! 分った!? 分ったら、さっさと席に付きなさい!」
「は、はい……」
不毛な発言を繰り返すティアに対し、教師のユニは甲高い悲鳴を上げて激怒した。
叱られたティアは大きな布袋を抱えながらスゴスゴと席に着く。
そんなユニとティアのやり取りを見ていたレナンが呟く。
「……やっぱり……変だよ……朝が起きれず遅刻するなんて……。以前はそんな事無かったのに……」
「え? 変だと思う所、ソコですか!? やっぱりアルテリア伯爵家の人達は……どこかおかしい……」
レナンの言葉に、ソーニャは呆れた顔を浮かべて答えるのであった。
窓から登場したティアの所為で混乱した教室だったが、此処で教師のユニが頑張って落ち着きを取り戻し、クラスの皆に話し掛ける。
「あー……コホン……。皆さん、ちょっとしたハプニングが有りましたが……さぁ、授業を始めましょう!」
ユニはそう言って一限目を開始したのだった。
◇ ◇ ◇
教師のユニは一限目の授業である王国近代史を行っていた。
授業を受けている皆は真摯な態度で受講している者や眠たそうな顔で受けている者など……様々だったがユニは優しく丁寧に授業を進めている。
「……そんな訳で近年……このロデリア王国は……エイリア大陸の位置するギナル皇国より……」
授業も佳境となった時だった時だった。教室の後ろの方でおかしな音が鳴り響いた。
“ぐぅうううう!”
静まり返った教室内に響いた腹鳴音に、教室に居た全員は音がした方を振り返る。
……それはティアの座席だ。全員から見られたティアの様子はと言うと……。
口の中に何かを詰めんで、まるでリスの様に頬を膨らませていたのであった。
明らかに何かを頬張ったティアを見つめるクラスメイト達。
その中でレナンは心底心配そうな顔をしているが、その他はリナやソーニャの様に呆れるか、ジョゼの様に憐れむ表情を浮かべていた。
対するティアはまさか全員から、見つめられるとは思っていなかった様でキョトンとした顏で戸惑っているが……、何かを食べているのは間違いなく“モキュモキュ”と咀嚼している。
そんなティアの様子に女性教師ユニは額に手をやり、声を震わしながらワナワナと震えながらティアの元に近付く。
「……ティアさん……もしかして……何か食べてますか……?」
「……ふぁ、ふぁべてばぜん……」
「食ってんじゃん!! お、表で立ってろ!!」
本気でブチ切れたユニは激怒の余りキャラ崩壊して大声で叫ぶのであった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)段落見直しました