111)おかしなあの子
レナンとティアが再会してから5日が経過した。
授業前の教室でレナンは横に居たソーニャに向かい呟く。
「……おかしい……どう考えても、おかしいよ……」
「レナンお兄様が言いたい事は……どうせ、あのティアの事でしょう? この所……そればっかりじゃ無いですか……」
レナンの呟きに対し、義妹のソーニャは面倒臭そうな顔をして答える。
最近のレナンが言う事はティアの事ばかりだからだ。
「だってそうだろう? どう考えても最近のティアは変だ……。学園での生活は、僕も知らないけど……。それでも、アソコまでじゃ無かった筈だ……」
「……いやー大体あんなモンじゃ無いですか? 言う事は最初からアホで残念だし……その行動も……。
一時期は落ち込んで“らしさ”が無かったですが……逆に最近は、完全復活して……更にアホで残念さに拍車が掛かって、留まる所知らないって感じですよ? 絶好調じゃないですか?」
「流石にそれは言い過ぎだよ? 僕が言ってるのは……ティアの健康についてだ。
……だって一昨日も急に休んで……。昨日も授業中……急に倒れたし……。ティアの体から有り得ない異音が……」
レナンの言葉に取り合わないソーニャに対し、レナンは体の事を案じ反論した。
対してソーニャは溜息を付きながら答える。
「はぁぁぁ、全く……良いですか、レナンお兄様……。お兄様は、あのティアを美化し過ぎです……。“急に倒れた”と言われたのは唯の寝落ちですし、“有り得ない異音”は空腹から鳴る腹鳴ですよ! どう考えても健康そのものじゃないですか!」
「いや……以前はそうじゃ無かった……」
呆れながら突っ込むソーニャの言葉に、レナンは真面目な顔で答える。
対してソーニャは小さな子供に叱る様に窘める。
巨獣討伐直後に感じたレナンに対する恐怖など、ヘタレなレナンの言動により一瞬で霧散し、もはや微塵も残っていなかった。
「お兄様……。お兄様が“ティア、ティア”とその名を心配そうに呟く度に、マリアベルお姉様の耳がピクピク動いて怒ってらしゃるのを御存じ無いのですか?
ああ見えて、マリアベルお姉様は、乙女なんです。お兄様の様子を見てお姉様がお怒りになったり、落ち込んだりする度に私がお慰めしているんですよ!
そんな苦労をレナンお兄様は全くお分かりになっていません! “元”婚約者の様子が気になるのは分りますが……もう少し、お姉様のお気持ちを考えて下さい!」
「……ああ……分かった……。マリアベルの事は気に掛けておくよ……。でも、最近のティアの様子がやっぱり気になるんだ……。
右手も怪我したって言うし……今日だって授業前なのに……教室に来てないじゃないか……」
「どうせ……寝坊でもしてるんじゃ無いんですか? 右手の怪我だって……木登り? に失敗したとか……。全く何歳ですか? まぁ、私としては良かったですよ。
夏休み時は落ち込んで引き篭もっていた位でしたのに……、今は生まれ変わった様に……アホで残念さに磨きが掛かって……取っ組み合いの喧嘩までして励ました甲斐が有ると言うモノです」
「全く良く言うよ……、全部自分の所為じゃないか! でも……ティアが元気になったのには君に感謝してる」
胸を張って誇らしげに話すソーニャに対しレナンは呆れて反論しながらも最後は礼を言った。
対してレナンに急に感謝されたソーニャは大いに慌てて誤魔化す。
「ほ、本当に! あ、貴方と、貴方のお父様の言う事はズレていますね! そ、そんな事より、ほら授業が始まりますよ」
「ああ、ユニ先生が来ちゃったか……。今日もティアは休む……」
「お、お早う御座います! 遅くなりました!」
丁度担任の女性教師ユニが教室内に入ったと同じタイミングで、息を切らしながらリナとジョゼが教室に飛び込んで来た。
いつも3人で行動する彼女達だったが、何故かティアが居ない。
そんな様子を見た教師のユニがリナ達に尋ねる。
「あら? ティアさんは……今日もお休みかしら?」
「い、いえ……ギリギリまで寝てたんで……何とか起こして……もう間も無く来ると思います」
「……一緒に行こうって私達言ったんですけど……一人で“飛んだ方が”早いらしく……先に行けって……」
ユニの問いに答えた二人だったが、“飛んだ方が”と言う意味が分からない。
「……えーっと……ジョゼちゃん、今……何て言った……」
……ヒューン……
“ダン!!”
「あー、何とか間に合った!! 先生お早よう御座います!!」
教師のユニがジョゼに問い掛けている最中に、風切音と共に窓から大声で挨拶しながらティアが飛び込んで来た。
ちなみにこの教室は2階だった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)段落等見直しました。