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107)クマリの策

 クマリが皆に話した“国王に働いて貰う”と言う不穏な言葉に、場が緊張する。


 「……どういう意味だ、それは?」


 クマリの言葉を受け、ライラが低い声を出しながらクマリに詰め寄る。


 「落ち着きなよ! 何も国王相手に脅してレナン君を取り戻そうって訳じゃ無い。そんな事すれば……今度こそ、アルテリアは潰されるだろうし……それはレナン君が体を張って守ろうとしてる事に反するだろ? 

 幾ら私でもそれ位は分るさ! 私が言ってるのはそうじゃないよ。……約8か月後……建国祭が有るだろ? その時に行われる……国王主催の武術大会……、これに優勝すれば……国王が何でも願いを聞き届けるって話だ。

 だからな……この大会にティアが参加し……優勝して、“レナンを私の元に返して!”って堂々と国王に願い出れば良いって訳だ」 


 「「「「「…………」」」」」


 クマリの話した計画に皆が押し黙った。


 その顔は半信半疑と言った顔や、考え込む顏ばかりだったが……そんな中大声を出す者が居た。



 ――ティアだ。



 「し、師匠!! い、今の話……本当ですか!?」


 「……何だ? お前、寝てたんじゃ無かったのかい?」



 興奮して椅子から立ち上がりクマリに詰め寄るティアに対し、クマリは迫り過ぎて近いティアの頭を押し返しながら問う。



 「ついさっきまで、寝てて記憶が有りませんが……ミミリが起こしてくれたので……。

 そんな中、聞こえたんです! 師匠の……“武術大会に、優勝すれば国王が何でも願いを聞き届ける”って言葉を! こんな機会、絶対無いです! 私、絶対参加して……優勝して見せます!!」


 「……落ち着け、アホ弟子!」


 “ビシ!”


 「あう!? な、何するんですか、師匠!?」


 大興奮して迫るティアに対し、クマリは彼女の額にチョップをかました。


 対してティアは涙目で抗議する。


 「話を最後まで聞け、アホ弟子! そんな猪突猛進のアホだから、アホで単純な残念令嬢なんて言われるんだ!」


 「す、すいません……」



 クマリにアホと三回罵られたティアはシュンとして縮こまった。


 「ふぅ……見ろ、皆も固まっちまっただろ! ……それじゃ、続きを話すよ……。

 この武術大会は歴史がそれなりに古いが……、国王が“願い事”を優勝者に叶えるって言いだしたのは6~7年前からだ。

 だが、その間、誰もその願いを国王に言った奴は居ない……。何故なら昔から優勝する奴は決まってるからだよ……」


 「え? どういう事ですか……?」


 クマリの言葉に、ティアは意味が分からず問い返す。



 そんな二人のやり取りを聞いていたジョゼが思い出した様に呟く。



 「……そうだよ……私が小さい頃から……武術大会は、王都で開催されていた……。でも、優勝する人は……いつも同じだった……」


 「そうか! アイツだ! ……だから、誰も国王に願いを言えないのか……」



 ジョゼに続き、王都での生活が長いリナも誰が優勝するか分った様だ。



 「誰だ? 俺にはさっぱり分らん……。ミミリ、お前分るか?」


 「……ううん、王都の事は全然知らないから」


 アルテリアで暮らしていたバルドとミミリは誰の事か分らない様だ。



 対して騎士であるライラがその人物について分った様で、その名を呟く。


 「……そうか、国王直属騎士の黒騎士だ……。アイツの事か……」


 「そうさ、武術大会の準優勝者は……最終戦で黒騎士と戦うんだ。その黒騎士と戦って勝てば、優勝って事になる。だけど……誰一人、黒騎士に勝った奴はいない。だから、国王に願い出た奴も居ないって事だ」


 ライラの呟きに、クマリが事実を語った。


 「何だよ、そんなのインチキじゃねーか!」


 クマリの言葉を聞いたバルドが声を大にして憤慨するが……。



 「いや、インチキじゃ無いよ……。マリちゃんは八百長なんかしない。彼女は自分の剣に誇りを持ってるからね……。

 それに挑戦者がマリちゃんに負けても準優勝者となった者は、国王から破格の報奨金が出る上に……本人が望めば王国軍から高待遇で雇って貰える。

 国王側としても、強い者は国防上必要な人材だからな……。また、いい試合した奴は上流貴族から雇われたり、ソイツが冒険者だったら依頼も爆増する……。

 だから、挑戦者は優勝しなくても、挑むだけの価値は十分有るのさ……。そんな訳で参加する奴は真剣だし……皆、腕に覚えの有る猛者ばかりだ。そんな猛者相手に何故、国王は“何でも叶える”なんて言うと思う?

 ……それだけ、マリちゃんが強くて負ける事なんて有り得ないからさ。……だからこぞ、ティア……お前が、国王の眼前でマリちゃんを負かしてやるんだ!」


 「は、はい! 必ず勝って見せます!」


 “ぐぎゅるるるるう!”


 拳をグッと握りしめて熱く語るクマリに、ティアも力強く叫ぶが力を入れ過ぎた為か、彼女のお腹も盛大に鳴った。


 ティアは顔を真っ赤しながら、シアから受け取った大きなパンを齧る。


 「「「「…………」」」」


 そんなティアを呆れと同情が混じった複雑な表情を浮かべて見つめる皆だったが、理知的なリナがクマリに問うた。


 「……でも、クマリさん……最強の英雄騎士であるマリアベルに……、このアホが勝てると思いますか?」


 「ああ……まぁ勝てないだろうねー」


 ティアが勝つ事に懐疑的なリナの問いに、師匠であるクマリはあっさりと“勝てない”と言い放つのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います!


追)段落等見直しました。


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