106)こんなモンの人望
「ふぉんな……ばげで……ガツガツ……うぐ……ばだじは……ゴクン、こんな副作用が……」
「いや! お前ほとんど食ってるだけで何言ってるか分らんわ!」
青い顏をしながら料理を持って来た看板娘のシアから、ひったくる様に3人前の料理を取ったティア。
彼女は、恐ろしい勢いで食べながら皆に自身の副作用について説明するが、咀嚼音で殆ど何言っているか分らない。
そんなティアの説明に思わず、レナンの親友で3級冒険者のバルドが突っ込んだ。
「……うぅ……ティアちゃん……何でこんな事に……、これじゃお嫁に行けないよ……」
ティアの惨状に、彼女の親友でバルドの恋人であるミミリが悲しそうに泣きながら呟く。
「いや……大体いつもこんなモンだよ? 元々、お嫁に行けるガラじゃ無いし」
「リナちゃん……、ちょっとあんまりだよ……前はティアちゃん、もっとお淑やかだった? と思う……、多分……」
ミミリの呟きに対してティアの学友であるリナは冷静に答え、同じく学友のジョゼもフォロー? らしい事を話した。
そんな状況の中、ティアの護衛騎士であるライラは……。
「うおおお! 何て事だ! ティア様が……ティア様が……豚に!! おのれぇ、クマリ! よくもティア様をこんな目に! そこに直れ!!」
美しい金髪を振り乱しながら涙目で、クマリに向かい抜刀しようと刀を構える。
対してクマリはカウンターで気だるげに座って、ライラの相手をしようとしない。
ライラがクマリに迫ろうとした時……。
「ライラ、待って!! お願い!」
立ち上がってクマリに怒るライラに対し、ティアが両手を広げて制止した。
「……ティア……さま……」
「ライラが怒るのも……良く分る……。ゴメンね、勝手な事して……。
ううん、ライラだけじゃ無い……。リナやジョゼ……ミミリにバルド……、そして父様や兄様、メリエ姉様にも……悪いと思ってる。アレだけ迷惑掛けたのに……黙って秘石を取り込んで……。皆、勝手な事ばかりしてゴメンなさい!
でも……秘石はレナンを取り戻す為に……絶対に必要な物なの……! この石は……本物じゃ無いかも知れないけど……それでも、レナンと私を繋ぐ唯一の物なの……。
その為に、私は……自分の意志でこの秘石を取り込んだ……。師匠はダメな私に、チャンスをくれた……。だから、ライラ……師匠を責めないで……」
怒るライラに対し、ティアは目に涙を一杯に溜めながら頭を下げて懇願した。
これには流石にライラも怒りを鎮めるしか無かった。
頭を下げるティアに対し、木漏れ日亭に集まった皆も、彼女の真摯な気持ちを知って押し黙った。
「「「「…………」」」」
リナ達やミミリ達だけでなく、木漏れ日亭の女将や看板娘のシアも感じ入った様だ。
そんな中、頭を下げ続けるティアに対しライラが彼女に声を掛ける。
「……ティア様、貴女様が其処まで仰るなら……正直、腹立たしいですが……このクマリへの怒りは忘れます! ですので、どうか頭を上げて下さい!」
ライラは目を赤くしながら、ティアの両肩を抱き、今だ頭を垂れる彼女の顔を上げさせようとしたが……。
「ぐー……ぐー……」
ティアは頭を下げながら眠ってしまい……その場に居た皆が言葉を失った。
「「「「「…………」」」」」
レナンに対するティアの強い想いが伝わって感動的な雰囲気にその場が包まれていたが、ティアの居眠りで台無しとなってしまった。
立ったまま寝てしまったティアをミミリとジョゼが椅子に座らせ、何とか起こそうと体を揺する。
何とも言えない残念感が漂う中、不出来な弟子のフォローの為、クマリが皆に話し出した。
「……あー……見ての通り……極めて残念な副作用が働いちまった。
この副作用は、傍から見てると本当にマヌケだが……本人では止め様が無い様だ。この副作用を無理に妨げると……コイツの寿命が縮む。
だけど……見ての通り……大事な場面で、イキナリ落ちる様に爆睡されたり……空腹で動けなくなっちなったら、コイツ自身が危ない……。特に秘石を取り込んだ最初の内は、この副作用は顕著に働く様だ。だからこそ……君らに協力を頼みたいんだ」
クマリはそう話した後、木漏れ日亭の食堂に居る皆を見渡した。
その場にはティアの仲間以外に、女将と看板娘のシアも居た。
「……具体的に俺らは何をすれば良いんだ?」
クマリの要請に、ミミリの恋人でレナンの親友であるバルドが声を上げた。
彼は大恩有るレナンの為に、ティアを助ける心算だった。
「私だって協力するよ!」
「私もだ」
「私もティアちゃんの為になら何だってする」
バルドに次いで、ティアの親友であるミミリやリナ、ジョゼ達が一斉に名乗りを上げる。
「私は……貴女の事が信用ならん……。一度騙されてるからな……。
だが、ティア様の事は違う。先程のティア様の語られた決意……。ティア様が、その道を歩むと言うならば……従者として付き従う所存だ……」
最後にライラがクマリを睨みながら話した。
「まぁ、私も飯くらいなら協力させて貰うよ」
「私もお母さんと同じです!」
次いで関係無い筈の、女将やシアも胸を張って自らティアへの協力を名乗り出た。
「ククク……アホで残念な弟子だが……多少人望は有る様だ……。皆、礼を言うよ。
さて……今後の事だが、ティアとアンタ達には強くなって活躍して貰わなくちゃならない……。
理由は後で言うよ。それと……レナン君の事だが……彼をティアから奪ったのは他ならぬロデリア国王だ。だから……レナン君を取り戻す為に、その国王に働いて貰おうと思ってる……」
クマリは皆を見渡しながら、最後に不穏な事を話したのであった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)一部おかしな所を直しました。