105)残念副作用
放課後――。リナとジョゼは木漏れ日亭にやって来た。
向かう前、一応ティアの自室を訪ねたが、クマリが話した通り彼女は居なかった。
クマリの話を完全に信じた訳では無かったがティアが師匠と決めた相手の為、行くだけは行ってみようと考えたのだ。
「「……お邪魔します……」」
「あー! リナとジョゼ! モグモグ……良く、んぐっ! 来てくれたね!」
恐る恐る木漏れ日亭の玄関を潜ると、満面の笑顔を浮かべたティアが、食堂のテーブルで大量の料理に囲まれながらフォークを握り締めながら手を振っていた。
彼女の口にはソースが付いている。ティアの右腕には包帯が幾重にも巻かれていた。
ティアを囲む料理は既に平らげた皿が幾つも並び、軽く3人前は食べられた後だった。
そんなティアの様子を青い顏を浮かべて、冒険者で親友のミミリと、護衛騎士のライラが呆然と見つめている。
ミミリの横では彼女の恋人であるバルドが呆れながら頬杖を付いていた。
木漏れ日亭の看板娘であるシアがティアの為の新しい食事を運び、平らげた料理の皿を引き上げる等、忙しく給仕をしている。
そんな場面を見て、木漏れ日亭に入ったリナとジョゼは戸惑い入り口付近で固まっていたが……。
「ああ、良く来たね……凄いだろ、アレ……。詳しい事はそこでがっついてる当事者から説明して貰うよ……。おい、ティア! いつまで食ってんだい! お友達が来た事だし、集まって貰った皆に事情を説明しな!」
固まっていたリナ達に対し、丁度2階から降りてきたクマリが声を掛け、次いでティアに説明を促した。
「は、はい、師匠! ……えー、集まってくれた皆、どうも有難う……。今日来て貰ったのは、この私の事なんです……」
ティアは木漏れ日亭に集まってくれた皆を前に説明を始めた。
そして立ち上がり、右手の包帯を捲って見せた。
その右手の甲には白く光る菱形の宝石が輝いている。その宝石を見た皆は驚きの声を上げた。
「! ティア様、それは!?」
「バル君、あの石、レナン君の!」
「ああ、間違いねェ」
「昨日まであんな石無かったぞ?」
「うん、そうだね……リナちゃん」
ティアが見せた右手の秘石を前に、ライラを始めとする皆が群がり、マジマジと見つめて其々思う事を話していた。
そんな中、クマリが補足説明を始める。
「……先ずはこの秘石について説明するか……。あー、アンタ達……急に呼び出して悪かったね……。ティアの右手に光るこの石は……“アクラスの秘石”……。
見覚えが有る奴も居るみたいだが……、あのレナン君の右手に光るアレと近いモンだ……。この秘石はね、私がギナル皇国で……」
クマリはティアに替わって、秘石について話し始めた。
入手した経緯から始まり、ティアに託したまでを……。
「……そんな訳で、私は自分に付ける筈だった、この秘石を……このティアに渡したのさ……。
レナン君に纏わる、この秘石は……コイツこそ持つに相応しいと思ってね……。ティア自身もそれを強く望んだんだ。エンリさんとやらの後を引き継ぐって言ってさ……。そうだろ、ティア?」
「すぴー、すぴー」
「「「「…………」」」」
真剣に話終えたクマリが、ティアに振ると、彼女はフォークを握り締めたまま眠っていた。
沈黙する皆を余所に、クマリはツカツカとティアの前に歩み寄り……迷わずその頭に拳骨を食らわした。
“ガツン!”
「あう! ……は!? も、もしかして私……寝てました?」
拳骨を喰らったティアはハッと目を覚まし辺りを見渡ながら、眼前のクマリに尋ねる。
対してクマリは声を低くして答えた。
「……ああ、盛大にね……、寝起きのトコ、悪いんだが……お嬢様、お前の残念振りを……ココに居る皆にさっさと話してくれないか……」
「は、はい! す、すいません師匠!」
クマリに恫喝されたティアは、心配そうな顔や、呆れた顔をした皆の前で自身の説明を始めた。
「皆、ゴメンね……。この秘石は師匠から授かったけど……師匠はちゃんと選ぶ様に言ってくれたわ……。だから私は、良く考えて私自身の石で取り込んだの。
エンリさんからレナンの事を託された私は、何が有ってもレナンを取り戻したい……。
そんな覚悟で、この秘石を取り込んだ。確かに秘石は物凄い力を発揮するんだけど……その、困った副作用が……」
“ぐぎゅううう!”
ティアが真摯に話している途中で彼女のお腹から場違いな音が鳴り響く。
「「「「…………」」」」
何と行って良いか分らない雰囲気が皆の中に漂い沈黙する中……。
「女将さーん、この肉炒めとパスタ大盛り、3人前追加でお願いしまーす」
ティアが朗らかに料理の追加を頼むのであった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)一部見直しました!