103)久々
台風19号で被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。一日でも早い復興をお祈りしております。
木剣を構えた男性教師はレナンの前に立つ。
彼は名をイアンと言い騎士から剣技指導の教師になった。
彼は筋骨逞しい体と切り込まれたショートカットヘアの情熱的な男で、レナンの強さを肌で感じ、模擬戦を挑んだと言う訳だ。
そのイアンがレナンに向かい叫ぶ。
「レナン君! 既に実戦を経験した君の、その強さ! 私を通じて生徒達に教えてやってくれ! それでは、行くぞ! はあぁ!」
イアンは掛け声と共にレナンに切り掛かる。その太刀筋は迷い無く、元騎士だけあって鋭かった。
対してレナンは鋭い上段からの切り落としを一瞬で避けて回避した。
次いで振り落とされたイアンの剣を、レナンは木剣で薙いで弾き飛ばした。
“ガイン!”
鈍い音と共に、弾かれた剣は宙を舞った。
剣を弾かれ呆気に取られる間も無く、イアンの首筋にレナンの木剣がそっと当てられる。
「……勝負あり……で、宜しいですか?」
「ま、参った……、信じられん、一瞬で終わるとは……元騎士の名が泣くな……」
静かに勝利を告げるレナンに対し、武術指導の教官であるイアンは驚愕しながら負けを認める。
そんなイアンを前にレナンは申し訳なさそうに謝罪する。
「す、すいません……その……」
「ハハハ……俺に勝って謝る必要が有るか! 勇者とは言え、お前は気の良い奴だな! それにしても……あっさり負けちまって……俺の腕も鈍ったか……はぁ……」
軽く落ち込むイアンに対し、レナンはどう声を掛けようかと戸惑っている所に、涼やかな声が響いた。
「……落ち込まれる必要は有りませんわ……イアン先生……レナンお兄様には……どなたが挑んでも勝負になりません……。何故ならレナンお兄様の婚約者で、王国最強の英雄騎士で有るマリアベルお姉様ですら……お兄様には、勝てないのですから……」
声を発したのはソーニャだった。
ソーニャ達女子生徒は、自主練で剣を振るいながら、遠巻きにレナンと男子生徒達の勝負を見ていた。
そしてレナンの圧倒的な強さに黄色い声を上げていたが、最後の挑戦者であるイアン教官が敗北した時点で、驚愕の余り黙ってしまった。
信じられない状況に言葉を失ったという状況だろう。
いくらレナンが強くとも、剣技指導教官で、名を馳せた元騎士であるイアンを一瞬で負かすとは誰も思っていなかったからだ。
その様子はレナンに負けて転がされた男子生徒達も見ており、皆一様に呆気に取られた表情を浮かべていた。
そんな中、レナンの恐るべき強さを知っているソーニャが静かに歩み出た……と言う訳だった。
ソーニャの過度な称賛の言葉を受けて、レナンが慌てて否定しようとしたが、興奮したイアンによって遮られてしまった。
「い、いや……そんな事無い……」
「本当か!? あの英雄騎士すら凌駕すると言うのか、白き勇者は!!」
ソーニャの言葉を受け、イアンは興奮して叫んだ。対してソーニャはイアンに同調する。
「ええ、その通りですわ。イアン先生」
「そうか! 凄い奴が我が校に来たものだ! うむ、こうしては居られん! 早速学園長に相談して訓練のカリキュラムを変えねば! レナン君、ソーニャ君、君達は職員室まで来てくれ! 皆、スマンが授業は自習だ!」
イアンはそう叫んで、学園長の元へ向かって駆けて行った。
対してレナンとソーニャはやむなしに言われた通り職員室へと向かう。
歩きながら、ソーニャが朗らかに語る。
「それにしても……良かったですね、レナンお兄様! 先生にお褒め頂いて!」
「はぁぁ……、良く言うよ……ワザと先生を担いだ癖に! 絶対なんか先生から押し付けられそうだ……」
「そうですね……明日からレナンお兄様が剣技教官にさせられるのでは? 良いでは有りませんか。王国に取って強い者が増えるのは国防上望ましい事です」
無責任なソーニャの言葉に、レナンは不平を言いながら朝から気に掛けている事を呟く。
「全く冗談じゃないよ……所で……ティアは大丈夫かな……?」
「……また、それですか? 彼女は“女の子”特有の休日で、何の問題も有りません。朝から何度答えているか分っていますか?」
「でも……昨日再会したばかりなのに、いきなり休むなんて……。うん? 誰かそこに居る? ……ふぅ……クマリさん……隠れて無いで姿を見せては如何ですか?」
心配そうに話していたレナンは、廊下の角に潜む存在にいち早く気づき、声を低くして彼の者に語る。
対して呼ばれたクマリは……。
「……フフフ……相変わらず凄いね……レナン君は……」
気配を消して隠れていたが、レナンにあっさりと見破られたクマリは嬉しそうな声で、レナン達の前に姿を現したのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
次話は「104)挨拶」で10/17(木)投稿予定です。宜しくお願いします!