101)大火炎弾
「……信じ……られない……。コレを私が……やったなんて……」
ティアは秘石の力で自らの斬撃が起こした抉れた裏庭を見て青い顏をして呟いた。
「フン……、この程度で驚いてどうする? お前が良く知るレナン君は……高さ10mの巨獣を山ごと切り崩したんだ……。マリちゃんの必殺技も、こんな別邸なんざぶっ壊すぞ?
そんな二人に比べたら……お前の力なんて、全然大した事無い」
「……レナンはともかく……マリアベルにも……そ、そんな力が……」
クマリの言葉にティアは驚き固まった。対してクマリは彼女を叱咤する。
「オラ! 何へこたれてやがんだ、ポンコツ娘の分際で! お前がアホで残念な事なんか、生れつき分ってんだろ? 偶然か、女神の導きかは分らんけど……お前は、私と出会い……“力”を手にした。模造品で軍の横流し品だけど……。
それでも、右手に光る“ソレ”はレナン君やマリちゃんに紛れも無く届く“力”だよ。お前は漸く彼らに追い付ける場所に立ったんだ。だったら……後はアホな子のお前らしく突っ走るしか無いだろ!」
「は、はい、師匠!!」
クマリの辛辣な叱咤に、ティアは元気よく答えた。
アホアホ連発されたが、クマリなりにティアを励ましている事がティアにも良く伝わった。
「分れば良し。さぁ、お前の新しい力……もっと私に見せてみろ!」
「はい!」
◇ ◇ ◇
「い、いきます! はぁぁ!」
“キイイイイン!!”
“ブン!”
元気な掛け声と共に、小さなナイフを突き出すティア。
木剣は先程の攻撃で破壊された為、クマリが代わりに渡したモノだった。
“秘石”の力により劇的に強化されたティアの身体能力。
そのお蔭で彼女がクマリに繰り出した突きは恐るべき鋭さと威力を秘めていた。
……しかし、対するクマリは――。
「……全然ダメだ! 動きが直線的過ぎる!」
“サッ!”
“ドガァン!!”
強力なティアの突きを、クマリは絶妙なタイミングで刹那に避けた。
対するティアは勢い余って裏庭の塀に盛大にぶつかって、これを破壊した。
「うわわ……思い切りぶつかっちゃ……」
“ジャキン!”
「チェックメイトだな?」
塀を破壊したティアがオロオロしている間に、相対していたクマリはティアの首筋に鉤爪を当てて静かに伝えた。
「ひぃ! ま、参りました……」
「……これで3勝目……確かにお前の力は強くなった……。だが、素の実力や経験が全く足りていない。レナン君やマリちゃんと違ってな。
お前の攻撃は簡単に先読め出来るのさ……って、お前聞いてんの……」
「ぐうー……すぴー」
クマリは負けたティアに対し説教を講じていたが、肝心のティアを見ると……一瞬で眠りに落ちていた。
イラッと来たクマリは……迷う事無くティアの脳天に肘鉄を食らわした。
“ガン!”
「あぎゃ!! は!?」
悲鳴を上げて目を覚ましたティアにクマリはドスを効かせて迫る。
「……随分といい度胸だな? コイツで永遠に眠らせてやろうか?」
“ジャキン!”
「あわわ……、き、聞いて下さい、師匠! その、抗しがたい眠りが……」
“ぐるるううう!”
クマリに鉤爪を向けられ焦ったティアは必死で弁解したが、その際に彼女のお腹が盛大に鳴り響いた。
「……すいません」
“ぐぎゅううう!”
ティアが謝った際にも同じ事が繰り返される。対してクマリは大きく溜息を付きながら答えた。
「はぁぁ……、もう良いよ……、そこにパンが有るから齧っとけ……。喰い終わったら魔法を放ってみろ」
「ガツガツ……ふぁい!」
呆れながら話すクマリに対し、ティアは遠慮なくパンを貪りながら答えるのであった。
◇ ◇ ◇
大きなパンをあっと言う間に食べ切ったティアは元気を取り戻し、クマリの前で魔法を放つ準備をしていた。
但し、どんな効果が有るか分らない為、下級火炎魔法の火砕を天に向けて放つ様、クマリに指示された。
ティアは言われた通り右手を高く上げ、秘石に意識を送りながら声を張り上げる。
「……それじゃ、行きます! 師匠!」
「おう! 秘石の力で、お前の頼んない魔法がどうなるか見せてみろ!」
「はい!“原初の炎よ 集いて……」
“キイイイイン!“
クマリの掛け声を受け、ティアは魔法の詠唱を行う。すると同時に秘石が輝き出し、右手全体が白い光に包まれた。
「……我が敵を打ち砕け!” 火砕!」
“ゴオオウ!!”
“ドガアアアアン!!”
ティアが詠唱を終え解き放った火炎魔法は、威力は下級であり、ドアを吹き飛ばす程度の爆発力しか無いはずだったが……。
ティアがたった今放った下級火炎魔法の火砕は、直径1m位の巨大な火炎弾を生み出し――音よりも早く空に撃ち出されて……大爆発を起こしたのであった……。
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