100)秘石の力
元男爵別邸の屋根に現れたティア……。
空腹で動けないと言うティアをクマリは屋根から引き擦り降ろし、リビングにて彼女にスープと干し肉を食わせながらクマリは状況を聞き出した。
「……それで……屋根伝いを飛んで爆走したは良いが……腹が減って……動けなくなったと……」
「ふぁい! ガツガツ! うぐっ ふぉれでばだじは……もぐもぐ……」
クマリの話にティアは答えるが、食べながら話す為、何を言ってるか分らない。
対してクマリはイライラしながら叫んだ。
「ええい! 食うか話すかどっちかにしな! しかし……恐ろしく喰うね……」
「バクバク! ごくん! 有難う御座います!」
呆れるクマリの言葉に干し肉を飲み込んだティアは嬉しそうに答える。
対してクマリは青筋を立てて怒って叫んだ。
「別に褒めてねぇわ! 寧ろ引いてんだよ! ふぅ……しかし……この異常な食欲……。あの書置きの通り……秘石の副作用って奴か……。後は……突如来る睡魔か……。
実戦ではどちらも致命的だな……何か対策を考えないと……。まぁ、その辺は後で考えるとして……それだけ食ったら少しは動けるだろ。
おい、ティア……表に出な。……どれだけ強くなったのか見てやろう」
「は、はい! 師匠、宜しくお願いします!」
ティアの様子を案じて呟いていたクマリだったが、秘石を取り込んだティアの実力を確認する為に彼女を外に誘った。
対してティアも師匠の気持ちに元気に答えるのだった。
◇ ◇ ◇
クマリに誘われ別邸裏庭に連れて来られたティアは木剣を持たされ、構えを取った。
クマリは昨日と同じく無手で相対する。
しかし昨日と違ってクマリに油断は無く、気を抜けばあっと言う間に地べたを這わされそうだ。
ティアは生唾を飲み込んだ後、気を強く持ち大声を掛け先攻した。
「師匠! 参ります!」
“ダッ!”
先攻したティアは右手に持った木剣を上段からクマリに対し打ち下ろす。
“ヒュン!”
「やああ!」
「甘いよ! 昨日何を学んだ!」
“ドガッ!”
「うぐぅ!」
ティアの上段切りをクマリはあっさりと躱し、足を払ってティアを転がした。
「……何だぁ、ティア……秘石を取り込んで……お前は、大喰らいの寝坊助になっただけかい? 違うだろ! 死に至る痛みを乗り越えて、手に入れた秘石の力! この私に示して見せな!!」
「は、はい!! アクラスの秘石よ! 私に力を貸して!」
クマリの叱咤を受け、ティアは右手に意識を傾ける。
すると……右手甲に融合した秘石は眩く輝き出した。
“キイイイイン!”
ティアはその輝きに伴って右手の秘石を中心に強大な力が溢れ出て来るのを感じていた。
「師匠! 参ります!!」
「応!!」
ティアは掛け声と共にクマリに駆け出した。
“ダン!!”
「うお!? な、何だ! この速度は!?」
クマリは自分に向かって駆け出したティアの脚力に驚いた。
先程とはまるで異なり、刹那にティアはクマリの懐に迫った。
ティアは右手の木剣でクマリの胴を薙ぎに掛かる。
“ビュン!!” “ガン!!”
クマリの懐で水平に薙いだティアの剣速は恐るべき速さで、クマリは思わず隠していた鉤爪で受け止めるしか無かった。
「ぐうぅ!! 何て剣圧! ヤバい!」
“ダッ!!”
クマリはティアの斬撃を両手の鉤爪で受け止めたが、強力な力で吹き飛ばされそうになり、自ら後ろに飛び体制を整えた。
「……ククク……動きは素人だが……この力、まるで凶悪な野獣だな……。昨日とはまるで……別人だ……!」
「ま、まだまだぁ!」
バックステップで距離を取り、感慨深く呟くクマリに対し、ティアは挑戦者らしく果敢に攻める。
ティアは人外の力で高く飛び上がり、木剣を高く掲げ……先程と同じく上段切りをクマリに向け放つ心算の様だ。
「やあああ!!」
“キイイイン!!”
飛び上がりながら切り掛かってくるティア。
彼女は勇ましい掛け声を上げる。そんなティアに応えるが如く、右手の秘石は眩く輝いた。
「や、やばい!!」
“バッ!!”
クマリはティアの斬撃を最大限に危険視し、風魔法を付与して高速で回避した。
対してティアの斬撃は今更方向を変えれず、クマリが先程まで居た地面に容赦なく与えた。
“ドガガアン!!”
ティアの斬撃は裏庭の地盤を砕き、大音響をを響かせた。
斬撃を喰らった地面は大きく抉られ、小さなクレータが生じた。
ティアの木剣は粉微塵に砕かれ、素手で地盤が抉られた様だ。
「……はぁはぁ……、あれ!? 何コレ?」
「ははは……お前の柔な細腕でも……此処までの力を……これが秘石の力か……!」
無我夢中で攻撃した為、何が起こったか良く分らないティアの呟きに答える様に、斬撃の衝撃で吹き飛ばされたクマリは、ぶつけた腰を摩りながら感嘆の声を上げるのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)一部見直しました!