表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/370

99)発動

 ティアは食堂を出た後、部屋で片付けと着替えを済ませ、正門へ向かった。


 秘石を無事取り込めた事と……自身の起きている異常についてクマリに相談する為だ。



 ティアは食堂から持ち出したパンを齧りながら呟く。


 「ダメだ……この時間でも……門番さんが見張ってるよ……」


 この寮は学園内に有り尚且つ貴族子息子女が多数住むと言う事も有り、寮の出入りは制限されていた。


 しかし、殆どの学生が学園に向かうこの時間帯なら寮の門番は居ない筈とティアは予想して、寮の正門から堂々と出ようと考えたが、ティアが考えるより厳重だった。



 「仕方ない……確か、寮の裏庭に木が有った筈……アレを登って塀を超えよう……」


 ティアは正門から出る事を諦め、裏庭の木によじ登って学園と学生寮を囲む塀を乗り越える作戦に出た。


 木登りは幼い時に散々やった為、ティアは得意だったのだ。


 そうしてティアはパンを齧りながら裏庭に向かった。




  ◇   ◇   ◇




 「……ダメだ……登れない……子供の時は木登り得意だったのに……」


 学生寮裏庭の木に登ろうしたティアだったが、大人になり体重も重くなった為か、子供の時の様に上手く登れない。


 悪戦苦闘している内に、叉も空腹に襲われたティアは鞄に入れていたパンを齧りながら呟く。


 「……うーん……、この秘石……何の役にも立たないんじゃ無いのー? お腹空いたり、眠くなるだけだよ……。秘石の力で……レナンみたいに体が白く光って飛んだり跳ねたり出来ないのかな?」



 ティアがそう溢しながら、右手の秘石に意識を傾けた時だった――



 “キイイイイイイン!!”



 突如右手のアクラスの秘石が白く輝き出し、同様に右手全体が真白く光り出した!



 「!? な、何コレ!? 秘石の力? ……凄い力が湧いてくる!」


 ティアは右手が光り出した瞬間、体の奥から強大な力が溢れて来る事を感じていた。


 ティアはさっきまで登れなかった木の幹を掴んでグッと力を入れると……。


 “ビュン!”


 “ガサガサバサ!”


 ティアは木の幹を掴んで力を込めて体を引き寄せた瞬間、あろう事か体が浮き上がり、木の枝を突き抜けて上空まで飛び上がってしまった。


 右手の腕力で自身の体を飛ばしてしまったのだ。


 「うぎゃあああ!! そ、空飛んだ!? うわ! 落ち、落ちる!!」


 木の枝を突き抜けて空まで飛んだティアは驚き叫んだが、今度は自由落下し始めた。真下は住宅の屋根だったが……。


 “ドスン!!”


 「痛た……痛くない? あんな高さから落ちて尻餅したのに! こ、これが秘石の力なの!? 凄い、凄すぎる!!」


 ティアは結構な高さから屋根の上にお尻から落ちたが、秘石との同化に体が強化されたのか不思議な事に全く痛くない。


 今だティアの右腕は光り続けており、その為か体がとても軽かった。


 ティアは試しに右足に力を込めて飛び上がると……。


 “バヒュン!”


 蹴り出したティアの脚力により、彼女は10m近い上空に舞い上がった。


 「うおおおー!! 凄い、凄いよ!! 私……と、飛んじゃってる!!」


 飛び上がったティアは自由落下で落ち始めたが、今度は尻餅を付かない様に姿勢を正して構える。



 “ダン”!“



 上手く着地したティアは、そのまま足に力を込めて又も飛び上がった。


 「うは! これなら、スグに師匠の所に行けちゃう……」



 “ぐぎゅうううう!”



 ジャンプしながら歓喜している最中に、ティアのお腹が鳴り響き、彼女は急激な空腹に襲われた。


 「こ、こんな時に!? ええい、食べながらなんてジャンプ出来ないよ! このまま向かおう!」


 ティアは空腹を抱えたまま、一刻も早くクマリの元へ行く事を決めた。



 彼女は屋根伝いを人とは思えぬ跳躍力で飛びながらクマリが居る屋敷まで向かうのであった。




  ◇   ◇   ◇




 「……アイツは……ティアは無事だろうか……。アイツの覚悟に魅せられて……私はティアに危険な真似を……」


 昼下がりの元男爵別邸のリビングで、ウロウロしながらクマリは呟いた。


 クマリとしては自分が取り込む筈だったアクラスの秘石を、ティアの強い想いに惹かれて渡してしまった事を後悔していたのだ。


 「……悩んでジッとするのは、私の性分じゃ無い。ティアの様子を見に行くか……」


 ジッとしてられ無くなったクマリは、ティアの様子を確認する為、学園へ忍び込む事を決めた。



 いつもの様に黒いローブに仮面を装着して玄関を出ると……。


 「……し、師匠……助けてー……お腹が空いて動け……」


 “ぎゅぎゅるるうう!”


 屋根の上から消え入りそうな声と、盛大なお腹の音を鳴らしたティアが、屋根にしがみ付いてクマリに助けを求めている。



 そんなティアの右手には同化したアクラスの秘石が淡く光っていたのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ