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97)残念令嬢爆誕

 “ドンドン! ドンドン!”


 「ティアちゃん どうしたの!? もう学校だよ!」


 「おーい、馬鹿ティア! 寝坊かよ!」



 待ち合わせ場所である寮玄関前にいつもの時間になっても顏を見せないティアを案じ、ジョゼとリナはティアの自室前に押し掛けたと言う訳だ。



 一方部屋の主であるティアは……。



 「……うーん……ジョゼとリナの声がするー…………!! え!?」


  “ガバ!”


 ティアは“アクラスの秘石”の事を思い出し慌てて飛び起き、自分の右腕を見た。


 すると――右手の甲に淡く輝く菱形の石がまるで始めから有ったかの様に融合されていた。



 「……や……やったー!!! キャー!! 私やったよー!! レナン! 私耐えたんだ!! うおー!!」



 ティアは死に至る痛みを乗り越え、秘石を手にした事を大喜びして叫んだ。



 ティアは右手を改めて見ると……左手でナイフを突き刺した傷が、すっかり癒えていた。


 痛みから逃れる為に思い切りナイフを突き刺した筈だが……、その深い刺し傷は明確な傷痕は残ったが、たった数時間で完全に治っていた。



 ティアはその事より高ぶった気持ちが、少し落ち着いて改めて部屋の様子を見渡した。


 ベッドの上には……キラキラと光る金属製の砂が乗っていた。


 よく見れば、砕けているが四角い形状に砂は盛られており、元は秘石の台座であった事が予想出来た。


 恐らくは役目を終えた際に、勝手に崩れ去る様設計されていたのだろう。


 部屋の様子は惨憺たる状況だ。机は大きくずれ、椅子も倒れている。


 ベッドの上は血だらけで、枕もボロボロになっていた。




 そんな様子にティアが呆気に取られていると、部屋の外から叫ぶ声がする。


 『ティア!? 一体どうした!』


 『ティアちゃん、此処を早く開けて!』 

 

 声の主はドアの向こうに居るリナ達だ。彼女達にはティアが大声で叫んだ理由が分らず、逆に心配を掛けた様だった。


 「リナ、ジョゼ! 私は大丈夫よ! 今、ドアを開ける……、オッと……コレは拙い……。少し……待ってね!」


 リナ達の叫びを聞いたティアは焦ってドアを開けようとしたが、右手の秘石を思い出しシートで巻いて隠した。



 そして慌ててドアを開けて二人を出迎えたが……。



 「キャー!! ティアちゃん! そ、その恰好……!」


 「お前!? な、何だよ! その血!!」


 ドアが開けられティアを見たジョゼとリナは驚愕して叫んだ。


 何故なら……ティアの姿は……髪もボサボサ、衣服も乱れており何より血塗れだった。


 右手に何やら巻いているシーツも真っ赤な血が沢山染み付いている。



 二人に叫ばれたティアは漸く自分の惨状を思い出し苦笑いしながら弁解する。


 「いやー、そのこれは……何て言うか……」



 惨状の言い訳を適当にはぐらかそうとするティアに対し、リナが思い出した様に詰問する。


 「お前、まさか!? あのクマリにやられた傷の所為か!?」


 「違う、違う! それは全然違うよ! この血は……えと……その……あの……」



 ティアが言い訳を考えてる姿を見て、ジョゼが斜め上の勘違いをしてティアを案じた。


 「……ティアちゃん……“女の子の日”が多かったんだね……辛かったでしょう?」


 「あー……あ、うん! そ、そう、そんな感じ! 痛くて、酷くて転げ回って……こんな感じになったの……。いやー、今も辛くてー! アハハ……はぁ……」


 ジョゼの勘違いにティアは内心複雑な思いで便乗した。


 

 “ティアのあの日は……”なんて噂が立たない事を切に願いながら。



 そんなティアにリナも怒りながらも同情して声を掛ける。


 「何だ……そうならそう言え! その様子じゃ学校無理そうだな……先生と寮長に言っとくよ。今日はもう寝とけ!」


 「あ、有難う……リナ……それじゃ、今日は私休む……」


 “ぐぎゅるるるるうぅ!”


 リナの心遣いにティアが感謝して話している最中に、ティアのお腹が盛大に鳴り響いた。


 「「「…………」」」


 “ぐううううぅー!”


 ティアの可愛らしい姿から予想外の大きな音が鳴った事で、その場に居た3人は固まったが(ティア本人も含め)その沈黙を破る様に、再度ティアのお腹の虫が鳴き喚いた。



 その様子に空気が読めるジョゼが精一杯フォローする。


 「……えと……ティアちゃん、色々大変だったから……晩ご飯食べて無いんだね!」


 ジョゼのフォローに対してリナが冷静に突っ込んだ。


 「昨日、“木漏れ日亭”で散々食っただろう……。まぁいいや、ティアは取敢えず食堂で何か食ってもう寝ろ! それと……色々有って大変だろうけど……あんまり“女”捨てるなよ? レナンに愛想尽かれるぞ」


 「う! だ、大丈夫よ……。偶々だ……」


 “ぐぎゅるるううぅ!”


 リナのもっともな言い分に、ティアが言い返そうとしている最中にも、彼女のお腹は鳴りやまない。


 「……もういいや、とにかく食って寝ろ! ジョゼ、行くぞ」

 

 「う、うん。それじゃティアちゃん私達行くね」


 「心配掛けてゴメ……」


 “ぐうううぅ!!”



 二人に侘びる最中にも鳴るティアのお腹に……リナは呆れた顔を浮かべ、ジョゼは同情した微笑を湛えながら二人は学園に向かった。



 一人残されたティアは明らかに昨日と異なる自分の様子に大いに焦っていた。


 彼女の腹の虫が示す通り、ティアはかつて無い程の空腹感に襲われていた。


 何でも良いから、がっつりと無性に噛り付きたい気分だった。


 こんな食欲が湧く事等、一度たりとも無かった事だ。



 それに鳴り響く腹の虫もおかしい。


 ティアはその細い体が表す様に小食で、空腹を感じる事が有ってもこんな爆音染みたお腹が鳴る事等、生まれて初めての事だった。



 (一体どういう事!? 昨日はこんな事無かったよ! それに、木漏れ日亭で食べ過ぎた位、夕飯ご馳走になった筈……! それなのにどういう……)


 “ぐぎゅるるる!”


 ティアが思案している最中にも彼女のお腹は鳴り響く。



 一刻も早く何か食わせろと叫んでいる様だった。



 「これは……絶対おかしい……やっぱり……秘石の所為?」



 ティアは流石に自らの体の異変に気が付き、昨日クマリが別れ際に渡してくれた書置きを見る。


 その書置きは秘石を齎したギナル皇国の元将校がクマリに渡したもので、彼が秘石について知り得た事が記載されているとの事だった。



 ティアは書置きを読んだ。



 「……えーっと……有った! この項目だ……。何々……

 “秘石を取り込んだ女性は……酷い飢餓状態に陥る事が有り……尚且つ突然の睡魔に襲われる事が有る……。

 代謝が異常に上昇している為なのか……。秘石が周囲から取り込むエーテルの関係なのか……詳細は不明。

 ともかく、秘石の取り込みに成功した女性達は、初期状態において沢山の食料を求め……そして、多くの睡眠を必要とした……まるで豚の様に……”

 ……成程……“豚に”って……何コレ……何か恥ずかしい女の子になりそうな……」


 “ぐぎゅるるるるー!”


 ティアの呟きに反応する様にお腹が元気よく鳴った。



 ティアは空腹に耐えながら書置きの続きを読む。


 「……何々……“私の見立てでは実験体の女性が……秘石の力を満足に発揮出来るのは……凡そ数分間のみ……。

 その後は力の発動が出来ず……場合によっては糸が切れた様に……行動不能となる……”って。

 この秘石……時間制限が有るの!?」


 “ぐるるるぅうう!”


 「だ、駄目だ……何か食べないと……本当に動けなくなりそう……」


 ティアは襲い来る空腹に耐えかね、身支度もせずに寮の食堂に向かったのだった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 


追)おかしな点を改正しました。


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