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96)命を賭けた戦い

 “ドン! ドン!”



 「ちょっと! どうしたの急に大きな声を出して! ティアさん!?」


 ティアが大きな叫び声を上げた事で、隣室の住人が、ドアを叩いてティアを呼んだ。


 「……だ、……大丈夫……うぐ……こ、転んだ……だけ……。はぁ、はぁ……」


 「……そう……それなら良いんだけど……凄く大きな声だったから、ビックリしたわ……もう寝るから静かにしてよね」



 隣室の少女はそっけなく呟くと自室に戻って行った。部屋の中から答えたティアはというと……。


 「ぜぇ、ぜぇ……ぐぎい! うぐ……ぎいい! い、痛い、痛いよぉ……。うぅ……」



 右腕に“秘石”を埋め込む為の台座を付けベッドに転がり悶えながら、自身を襲う恐るべき痛みに耐えていた。


 突然来た、隣室の住人に何とか声だけで応対したものの、その実は気絶しそうな痛みとのたうち回っていたのだ。


 (まさか……こ、こんな……痛みが……、次は……誤魔化せない……)


 ティアは襲い来る痛みの中、クマリから貰った木片を口に噛みしめる。


 痛みによる声を出さずに済む。しかし余りの痛みに声が漏れてしまう。


 「ふぐうー! ふうー! うぐぐ!!」


 ティアの右腕に有る“アクラスの秘石”は右手を入れた時から強い光を放っている。



 右腕への取り込みは時間が掛かるのか、一向に終わらない。


 右腕を襲う痛みは、今まさに“秘石”を取り込もうとしている手の甲を中心に痛み全体が右腕に広がって来る感覚だった。



 腕の内部を鋭い何かが貫いている様な痛みが継続していた。



 「ひぐ! ぐうう! ふう、ふうー!」


 ティアは口にした木片を噛み締めながら、枕に頭を埋め痛みに耐え様とした。



 しかしそんな事で破壊的な痛みは収まらない。


 “バン! バン! ダン! ドン!”


 苦しみから逃れる為、ティアはベッドの上で身を捩りながら手足を振り回し、ベッドの柱に打ち付けた。


 「ちょっと! 静かにしてよ! 眠れないじゃない!」


 大きな音を響かせた為、別な隣室の少女が壁越しでティアに文句を言う。


 その声を聞いたティアは手足を丸め、亀の様に縮こまって痛みに耐えた。



 その顔色は痛みの為か真っ青で、目を瞑った瞼からは涙が止まら無かった。


 「うううぐー! ふぅ、ふぅ! ううぅ!」



 痛みはどんどん酷くなり、右腕から体の方へ広がり始めていた。


 (誰か! 助けて! こんなの、堪えられない! お願い!)


 ティアは脳内で叫びながら、両手で自分を抱きながら体を丸めて耐えた。



 しかし脳裏にレナンの笑顔が浮かび気を取り直す。



 (ダメだ!! ココでやらなきゃ、乗り越えないと! レナンを、取り戻せない!)


 そう考え直したティアはうつ伏せになり枕を抱き抱え、迫り来る痛みと必死に戦うのであった……。




  ◇   ◇   ◇




 一体どれ位の時間が過ぎたのか、一時間なのか三時間なのかティアには分らない。



 分っているのは痛みが治まらず、しかも全身に広がったと言う事だ。


 「ふぐー! うぐー! ううう!!」


 ティアは留止め無く流れる涙を止め様ともせず、襲い来る痛みに先程と変わらずのた打ち回るだけだ。


 一体この痛みはいつ収まるのか、明日も明後日も続くのか……ティアには分らなかった。



 ――もしかしてこの痛みは収まらないのでは……? 


 

 ティアの中ではそんな疑問が湧いて出てきた。


 もう結構な時間が経って居る筈なのに……痛みは収まる所か、どんどん強くなっている。


 (痛い……もういやぁ……これ……いつ……終わるの? ……教えて神様!!)


 「うううー!!」 


 “ドガァ!”


 ティアは痛みに耐えかねて蹲っていた体を大きく動かし、気を紛わせようとした。


 ティアが手足を動かした所為で金属製の台座が付いた右手が机に当たり、大きな音を立てて机はずれ動いた。


 “ズズッ” 


 ”ボスン!“


 机がずれ動いた所為で、その上に乗っていた何ががティアの枕元に落下した。



 ――それは……クマリが右腕を切り落とす為に渡したナイフだった。



 ナイフは枕元に落ちた際、刃先を包んでいた布が捲れ、刀身が剥き出しとなった。



 それを見たティアは心が折れ、震える左手でナイフの柄を握った。


 (ダメ……痛い……痛すぎるよぅ……この……ナイフは……神様が……もう良いよって……渡してくれたんだ……)


ティアは痛みの為、一刻も自分が楽になる状況を望んでしまった。


 だから、偶然に手元に落ちて来たナイフを、都合よくも導かれた必然の様に感じてしまったのだ。


 台座と一体となった右手をベッドの上に置き、震える左手でナイフを頭上に振り上げた。


 ティアはこれ以上の全身を貫く痛みにもう我慢出来なくなった。



 台座ごと右手首を切り落とせば……この痛みを感じる事は無くなる筈だ……。



 もうティアは目先の苦しみから逃れる事しか今は考えられなくなっていた。


 「ふぅー! ふぅー!」


 ティアは少しでも痛みを忘れる為、木片を咥えたままだった。


 鋭いナイフで右手を切り落す等、普通の神経では恐怖で出来る筈も無い筈だったが……今のティアは普通では無かった。


 この痛みから離れる事が出来るなら、彼女は火の海にも飛び込むだろう。




 だから――ティアは、後先考えずにナイフを真っ直ぐ右手に突き刺した。




 “ザシュ!”



 「むぐー!!! ひぅ! ひぅ!」


 右手にナイフを突き立てたティアはくぐもった絶叫を上げてのけ反った。


 ナイフを刺した右手は焼きつく様な鋭い痛みが生じた。


 しかし……このナイフの痛みで、秘石が取り込まれる痛みは誤魔化された様に感じた。



 ティアはその事に迷い無く右腕を切り落そうと、突き立てたナイフの柄を握る左手に力を込める。


 (うう……痛い!……だけど……右手だけ……。やっぱり……この秘石は……偽物だから……ダメなんだ……私は……もう無理……これ以上は……堪えれない……)


 “ググッ”


 ティアは右手に刺さったナイフの柄を倒そうとする。そうする事で右腕は切断されるだろう。




 ――そんな時だった……。ティアの脳裏に”彼女”の声が聞こえた。




 “ど、どうか……レナン様を……お、お守り下さい……どうか……”



 それは……レナンと出会った幼き日に聞いたエンリの言葉だった。


 その声は痛みから来る幻聴かも知れない。しかし……ティアには確かに聞こえた。


 

 エンリの声を聞いたティアは――。



 “カッ”と目を見開き、ナイフを引き抜いて部屋の隅に放り投げた。


 “ガン!”


 「むぐうー!!」


 痛みで唸り声の様な叫び声を漏らしながら、右手の刺し傷を左手に持ったシーツをグルグル巻きに巻いて止血し、左手で傷を抑えながら蹲った。



 もう一度、秘石が与える痛みに立ち向かう覚悟を決めたのだ。



 (うぐ! 痛い! さっきよりずっと痛い! だけど……あの時エンリさんは……死に至る酷い怪我を! それでも……レナンを守る為に! 

 そして……あの人は……私にレナンを……託したんだ! 

 だったら! 私がやるしか……無いじゃない! 私は負けない! 絶対にやる! この秘石を私の物に!! アクラスの秘石よ! 私に従え!!)



 ティアは右手の刺し傷と相まって襲い来る秘石からの痛みに真向から立ち向かう覚悟を決めた。



 “エンリさんが出来たのなら、自分が出来なければならない。そうで無ければ命を賭けて託されたレナンを愛する資格が無い”



 ティアはそう確信し、木片を思い切り噛み締めながら襲い来る痛みに耐えた。


 「ぐう!! ふぐうー! ひう!!」


 “バタン! ドン! ガン!”


 ティアはさっきより激しい痛みに悶え苦しみ盛大に転げ回った。その事で体は壁や家具に当たり、盛大な音を立てた。


 幸いにして隣人は就寝している為か、大きな物音にも騒ぎ立てる事は無かった。



 ティアはそんな事も気に掛ける余裕も無く派手に暴れ苦しんだ。間違いなく生きるか死ぬかの最大の山場だった。


 「ぐぎぃ!! ふぅー! ひぎぃ!」


 ティアは死に至る痛みの中、悲鳴を押し殺して叫ぶ。



 しかし……彼女の強い意志で、心は燃え滾っていた。



 (絶対! 私は、生まれ変わって見せる! だから! 待っててレナン!!)


 ティアは全身を引き裂く様な恐るべき痛みに一歩も引かず立ち向かった。


 強い決意を持ちながら悶え苦しむ内に、余りの痛みでいつしかティアは気を失ってしまった。



 そんな彼女を称えるかの様に、アクラスの秘石は一際眩しく輝いたのだった……。


いつも読んで頂き有難う御座います!


追)一部修正しました!

追)一部不自然な点を見直しました!

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