田黒、マネージャー業開始。
なんかこう、新しい感じの短編小説を目指しました。
(短編とは言っても一つ一つを細かく出そうかと、書きながらですので)
人を選び取りそうな感じがプンプンするのは作者とて分かっている。
最早最初の作品がこれなのだから、人が寄り付くのか心配である。
「本当にそんな願いで良いのか? 貴重な体験なのだ、それに君が望むものであれば出来る限り用意するのだが」
白衣姿の博士が問う。隣では人一人が入れそうな真空管に何本もの太い線が差し込まれたそれは、ゴウゴウと音を響かせ、スタンバイ中であるランプがチカチカと光り、今か今かと起動の時を待っているかの様だった。
「えぇ、それが私の願いですから」
簡潔に答えた。それ以外の答えが見つからない、と言うべきだろうか。答えを聞いて博士は、調整中であろう他の若い研究者たちに声をかけた。
「量子時間転送装置スタンバイ状態解除、起動準備に入ってくれ」
「はい!」
他の若い研究者たちは元気よく返事をし、疲れていた表情が満面の笑みへと変わった。どうやら私が転送され、実験の結果を出すのがとても待ち遠しい様だ。起動準備に入ったソレは、真空管内部に電気がバチバチと走り、重厚な音を出す器械から、アニメに出てくる悪の組織が人体実験に使う器械の様な様相を呈していた
「さて、時間までには後十数分掛かる。それまでに最後の確認と行こうか」
博士の話はこうだった。
これから向かうのは、今より二十年前の世界である事。
転移と共に持っていくボタンを押せば、此方の世界に戻って来る事が出来る事。
危険な事があれば、緊急脱出は研究所側で行われる事。
通常帰還は、過去滞在のノルマが一か月以上滞在する必要がある事。
その他に関しては、幾つかの情報を事前に過去に送るため、住む場所などには困らない事。
最後に、私からのお願いについて。
「珍しい事を頼む人もいるものだね。まぁ、実験を行っている此方からすれば、過去で新しい事を行って頂けるチャンスだから、何とも言えないのだがね。あと……そうだ」
博士は続きを語りだす。過去に戻った際に起こりかねない事象が……そう、タイムパラドックス。簡単に説明すると、過去に行った自分が、その時代の自分を殺害するとする。その場合、現在の殺害した側の自分の存在はどうなってしまうのか、と言うものだ。実際に観測された結果は無い、そこで今上がっている定説で一番評価の高いものが『すり替え』説である。
すり替え説とは、過去の自分を殺した瞬間に、そこからその者と関わる全ての人間の記憶からその者の記憶が抹消され、存在しなかった場合の世界が丸々構築され、その上で人々は生きているとされる説だ。もちろん、過去に飛ぶための実験にはその者は存在しないので別の誰かが参加することになる。誰もパラドックスを立証できないからこその悪魔の証明なのだろう。
しかし、今回の実験では明らかに違う事があった。今回の実験では、模倣した過去に飛ぶのだ。外側……実験室からその模倣された過去世界を常に観測し続けることで、過去に飛んだ人物と関わった人々がどの様に変化したかを確認できる。悪魔の証明を証明する実験だという事だ。だが、殺す、という事は余りにも非人道的過ぎるので、今回は私が頼んだ、過去の自分に接触し、助言し、未来の向上を目指すものだった。正直、幼い頃から軽度の精神障害に見舞われ、それからも良い人生を送った……とはとても言い難いものだった。だから、と言うのは可笑しいが、この実験では模倣された世界の自分であっても、どうにかしてやりたい、と言うのが本音だった。
「さて、それでは準備は整ったかな?」
「はい。大丈夫です」
「そんな肩肘張らずにさ、気楽に行ってくれ」
博士は私の緊張なんかつゆ知らず、背中をポンと叩いた。
「安心してくれ、いつでもコピーワールドは此方で観測をしている。もし何かあった場合でも直ぐに帰還させる」
ニコリと笑ってくれた。おじさんの笑みではあったが、緊張を解すには丁度良い。
「そうですね、信頼しています」
「だろう! それじゃあカプセルの中に入って転移の準備を頼む!」
真空管の様な物に入り、扉が自動的に閉まる。博士が全体に指示を伝えている様だが、此方からは聞き取ることが出来ない。指示と同時に若い研究者達は慌ただしく器械の操作を始めた。此方からでも幾多に設置されているディスプレイに映るグラフの動向は見て取れた。何が何を示しているかは分からないが、基準値を指し示す様な、青や緑色を示していた。
数十秒後、博士がタブレットを此方へと運んできた。そこには、
『転移三十秒前』の文字が。映し出された文字は正確に時を刻み、二十秒、十秒と転移までの時間を縮める。同時に、自分の鼓動が早くなるのも感じる。
五、四、三、二、一、零…………。
目の前が暗く、意識が暗転した。
ふわふわとした感覚の中、多くの人が喋っている声が聞こえる。よく聞こえるのは「ありがとうございます!」や「いらっしゃいませ!」の声だろうか。どうやら飲食店に居るらしい、しかし、意識がまだ落ち着かず、ぐわんぐわんとしたような感覚に囚われていた。
「————! ———ジャー!」
とても近くで声が聞こえる。
「マネージャー!」
ハッとして答える。
「あ、すみません。ちょっとボーっとしていました……」
「大丈夫ですか? 風邪気味ですかね?」
「いえいえ、大丈夫です」
「それなら良いけど……あっ、はい只今!」
女性はお客様に呼ばれフロアへと出た。
……? 何か違和感を覚えたが、記憶の整理は直ぐに付いた。そう、転移する際に私が博士にお願いしたのだ。
この時代の自分を救う為に、飲食店のマネージャーにして欲しいと。
如何でしたでしょうか。
選び取られた方のみがこちらを呼んでいただけているかと……。
ゆっくり投稿していくつもりですので、どうぞ温かい目でお見守りくださいまし。
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多少落ち着いたら普段の事とか呟いたりしたかなとか考えてます!
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