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007 如月陽太2

なんだかんだでこの爺さん、いいヤツじゃん……


と思ったら、いきなり超ハードな運命が待っておりました……

 ヨウタは、いま告げられたハードな未来の展望をいったん棚上げして、ひとつの疑問点を確認することにした。


「もう一度ここでおれのまま生きたとして、次に死んだらどうなるんだ?」


「どうもならん。今度こそ輪廻の輪に入ってもらうだけじゃ。おまえさんに会うのもこれで最後じゃろうから、元の世界を希望するなら、今のうちにそう言っとけ」


「今のおれが消えるなら、どうでもいいな。このままでかまわない。あと、おれがおれのままで、というのなら、いま持っているこの力はどうなる?」


 老人はニヤッと笑った。


「これがまたややこしい話での。その力はもうおまえさんの一部じゃ。失うことはない。ただ、おまえさんがあの世界に戻ったときにどのくらいの力が使えるかは、戻ったときの年齢による。たとえば、おまえさんが十歳の子供になっていたなら、それから今のおまえさんの年齢になるまで欠かさず修練すれば、今の力そのままが使えるようになるじゃろう」


「たとえば、四十歳のオッサンになっていたら、今のおれよりも大きな力を持ってることになるのか?」


「そううまくはいかんて。上限は今のおまえさんの力と思えばええ」


「なるほど。だけど、ひとつ疑問がある。おれは十七歳の時に突然力を持つようになったんだぜ? 十歳とかだと、じつはなんの力もありませんでした、ってな罠があったり?」


「それでアタフタするおまえさんを見るのも面白そうじゃがの。しかし、それだとおまえさんはけっして今のおまえさんの力を取り戻せないことになるじゃろ。もうわしはおまえさんと顔をあわせることはないで、力を受け取る機会もないからの。それはちと気の毒じゃて、大サービスじゃ」


 ヨウタは、その理屈であれば自分に損はないはずだと思いつつ、さらに確認することにした。


「たとえば、おれが使える召喚魔法は、引き続き使えるのか?」


「使えるぞ。ただ、持っている魔力の量相応のものしか喚べんがな。そのほかの魔法もそうじゃ。最上級魔法の使い方だけを知っている、という状態じゃ。使いたければ己を鍛えろ、ということよ」


 使い方を知っていればゼロからのスタートよりも遙かにラク。ヨウタはそう割り切り、心を決めた。フライングスタートで新しい人生を始めるのも悪くないだろう。自分でも意味がわからないクレアへの執着も、ようやく吹っ切ることが出来そうな気がしてきたヨウタだった。


「わかったよ、爺さん。やってくれ。どこでも生きていってやるさ」


「……」


 ヨウタはカッコよく宣言したつもりだったが、老人は端末のディスプレイにジッと見入っていた。


「爺さん?」


「これを引き当てるとはな……。『運』? 存在の強さが引き寄せた? しかし……」


「爺さん!


「お、おう、なんじゃ?」


 老人はあわてて端末を操作した。画面が切り替わるのが見える。ヨウタが覗いてみると、巨乳系の美女の画像を使ったスクリーンセーバーのようなものが映し出されていた。パニックボタンを押したらしい。


「……爺さん……」


「見なかったことにせい。そのかわり、もうひとつありがた~い助言をやるわい」


「聞こうか」


「おまえさんは、『運』というものを、どう捉えておる?」


「どう、と言われても……よい結果が起きやすくなる、という程度にしか考えてなかったが?」


「間違いではないがの。だがな、ある局面でどういう結果が起きるかは、巡り合わせでしかないんじゃ。そういう場面は大小取り混ぜて無数にある。結果自体を覚えていないだけで、よい結果もよくない結果も同じくらい起きているものよ。しかし、右に行っても左に行っても死が待っている状況で、正面のカベが破れることがわかればどうする?」


「そりゃ、カベを破ってみるだろ」


「そういう選択肢が目の前にあらわれるのが『運』なんじゃよ。そして、カベを破る力がなければ、その選択肢も意味がなくなる。力があって初めて『運』は引き寄せられるんじゃ。それを忘れるでない」


 ヨウタにとっては、それはあたりまえのことを言われているようでもあり、反面、謎かけをされているようにも感じられた。ただ、「運」は力で引き寄せるもの、という言葉は、不思議にしっくりと心にはまった。


「どこまでかはわからないが……わかった、と言っておくよ」


「それでええ。それじゃ、グズグズしていてもしかたがないで、サッサとやるぞ。達者でな」


「ああ、なんだかんだで、感謝してるよ、爺さん」


「それなら、ここから先も楽しませてくれればええ。さらばじゃ」


 次の瞬間、ヨウタの意識は闇に沈んだ。




 そして今、ヨウタは粗末な馬車の薄暗い車内で膝を抱えていた。粗末な服、というか、ボロ布を身体に巻き付けただけの状態で、腕には奴隷紋。見回すと、ほかに子供が三人ほど。どう見ても同じ境遇である。


 ……と、自分の身体がやけにチンケなことに気づく。どうやら、ほかの子供と同年代であるらしい。だいたい、五歳か六歳、といったところ。


(栄養不良のガキンチョの奴隷か? 多少の覚悟はしていたが、ここまでかよ……。詰んでないか?)



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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