002 ヨウタ・キサラギ2
ヨウタ・キサラギ快進撃の巻! もはや恐れるものはない……かな?
自分の意志を貫き通して願いを叶えたヨウタは勇んで高等教導院に着任していったが、彼をよく知るものの不安をよそに、その教官としての振る舞いはみごとだった。生徒とのほどよい距離感とよく練り込まれていてわかりやすい授業内容は、ほどなく生徒の絶大な支持を集めた。
生徒はもちろん少女だけではなく、ほぼ同数の少年も在籍しているが、ヨウタは決して女生徒と男生徒で態度を変えることはなかった。授業においても、それ以外においても、彼はすべての生徒に同じ笑顔で親しく接した。彼の知人たちはこの様子に逆に不審を覚えていたのだが、ヨウタからすれば当然のことをしているに過ぎなかった。
………なぜなら、ヨウタは前世での性犯罪者、及びその予備軍に向けられる視線を覚えている、冷静なロリコンだった。
ヨウタはどの生徒に対しても親身に、粘り強い指導を行った。授業のあり方について常に研鑽を怠らず、また要望があれば放課後の自分の時間や資産を犠牲にしても、希望者に授業内容を多少超えた立ち入った指導を行った。教官として彼が本格的に受け入れられるにつれ、こういった機会は飛躍的に増えていったが、しかし、あくまでも男女平等、少人数にはしても個人指導にはしないというけじめと周囲の目への配慮、生徒との間に必ず保つ一定の物理的距離……すべてが、彼を知る人を驚かせた。だが、ヨウタにしてみれば、これも当然だった。
………なぜなら、ヨウタは外聞を気にする、プラトニック指向で童○の節度あるロリコンだった。
(ヨウタは「ロリコン」から「ガーディアン」にクラスチェンジした!)
ヨウタは教導院で生徒たちを指導するだけの教官ではなかった。暇を見つけて初等科のすべての生徒の家庭を訪問し、親やその他の家族と指導のあり方について時間をかけて話し合い、生徒たちが教導院の外でも成長できるような環境を作り上げていった。生徒の親たちもヨウタの魔王討伐の功績、そしてその身分が伯爵待遇であることは承知しており、ヨウタにたいして敬意を持って接し、その助言を軽んじることもなかった。教導院での指導とそれぞれの生徒の家庭での教育が徐々に相乗効果を生んでいき、多くの生徒たちはその能力を開花させていった。
ヨウタが着任して二年後、初めてヨウタが初等科への入学当初から指導した生徒が高等科へ進学していった。ヨウタにすみずみまで配慮の行き届いた指導を受け、家庭でもそれをじゅうぶんに踏まえた教育を与えられた少年少女たちは、ほぼ全員が「教導院始まって以来の俊才」として、高等科の教員たちをたじろがせることになる。高等科では、生徒の指導を根本から見直すことが必要になり、ヨウタに恨み言を漏らす教官もいないわけではなかったが、ヨウタの英雄としてのバックグラウンドと教官としての実績が、すべてを黙らせてしまう。
(ヨウタは「ガーディアン」から「カリスマ」にクラスチェンジした!)
ヨウタの教官としての評判は当然ながら高等科にも伝わっていた。教官となって一年が過ぎるころには、彼の指導を受けたいと研究室の扉を叩くモノが少しずつ出始め、ついには高等科の学生会長を務めるエミリア・バートランドが彼のもとを訪ね、高等科の普通課程、魔法課程の成績優秀者への特別指導を依頼するという事態が生じるに及んだ。
エミリアはバートランド公爵家の長女で、容姿端麗、学業優秀の上に人望もある、その存在自体が傑出した生徒であったが、さらに向上心にもあふれ、彼女自身が心からヨウタの指導を受けることを望んでいた。エミリアは公爵家の威光をカサに着ることなく、いち生徒として礼を尽くしてヨウタに指導を乞うた。
かつてエミリアにこれほどに真摯に懇願されて実現しなかった例を、彼女の周囲の人々は知らない。彼ら、彼女らは、当然ヨウタもこれを受け入れるモノと考えていたが、ヨウタは一顧だにすることなく、この依頼を即座に断った。曰く、「そのような時間があれば、自分の本来の責務である初等科の生徒の指導に使いたい」と。
エミリアはヨウタの対応に譲歩の余地がないことを感じとり、あきらめて引き下がった。ちなみに、エミリアにとってこの一件は、自分が本心から望み、実現のために力を尽くし、なおかつ望みが叶えられなかった初めての経験だった。エミリアはこの経験を糧に、さらに人間として成長を遂げることになるのだが、それはまた別の話である。
ただ、ひとつだけエミリアの理解の外にあった要因がある。エミリアは幼少時からその容姿を称えられてきたが、その美しさは大人びた美しさであり、体型的にもメリハリが非常によく効いている。もちろん、エミリア自身は「色仕掛け」的な発想は持ち合わせていなかったが、現実の問題として、世のほとんどの男性を魅了する資質を彼女は備えていた。しかしヨウタを魅了することはかなわなかった。
………なぜなら、ヨウタはけっしてブレないロリコンだった。
そして彼の教官生活が四年目を迎えた春、クレア・リープフェルトが入学してきたのである。
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