013 ショタコンキラーのロリコン
誇り高きロリコンのヨウタの運命やいかに!?
如月陽太としての十七年とヨウタ・キサラギとしての五年強を通じて、ヨウタが外見的にポジティブな評価をされたことは一度としてない。ヨウタ自身もそれを気にすることはあまりなかった。というか、外見に限らず、彼は外部の自分に対する評価をいっさい無視していた。ヨウタにとっては、自分自身で設定した価値基準がすべてだったのだから。
だがいま、はからずも美少年となってしまった自分を見て、ヨウタは戸惑った。彼は、恵まれているとはいえなかった自分の外見が、一方で彼が自分の世界に思う存分に浸ることを助けてもいたことを認識している。だが、この外見でそれが可能なのか、ヨウタには判断できない。未知の世界なのだ。
(ヒルデやシルヴィアの反応を見る限り、今までみたいに放っておいてもらえるかどうかは……)
そこまでヨウタが考えをめぐらしたところで別室の扉が開き、シルヴィアがヒルデを従えて姿をあらわした。姿見の前にいるヨウタに目をとめ、歩み寄ってくる。
「鏡が珍しいかしら? そこに映っているのがあなたよ。こんなに可愛い顔をしているなんて、自分でも知らなかったのではなくて?」
シルヴィアはヨウタの肩口に顔を寄せるとそう囁き、細い指で軽く彼の頬に触れた。おそらく食器以上に重いものに触れたことがないであろう、滑らかな指先だった。強めに香ってくる香水に頭が少しクラッとくる。あまり家族の団らんとは縁のなさそうな香りだった。
自分の顔を自分で認識していない、というのは、この時代の貧民層の子供には珍しいことではない。あるていど豊かな家でなければ鏡など見る機会はないし、少なくとも色気づいてくるまでは見栄えを気にする生き方などしないものだ。とりあえず、ヨウタは頷いておいた。
「それじゃ、食事を済ませてくるわね。ヒルデがすぐに戻ってくるから、それまでここで待っているのよ?」
シルヴィアはもう一度ヨウタの頬に触れると、優雅な歩様で部屋を出て行く。そのあとをヒルデが足早に追っていった。
嵐のような展開から急に一人取り残されたヨウタは、もう一度姿見に自分を映しこませる。そこにいるのは、やはりジョージだった。以前にも思ったが、ほんとうにすべてが不自然な整い方をした子供なのだ。子供らしさと大人びた雰囲気の同居、そして、冷たく整った部品の中でみょうに潤んでいる目、みすぼらしくやせ細っているのにみょうに洗練された雰囲気を出す肢体。存在のいたるところにアンバランスが見え隠れしている。
そして、クレアのことに関してあらゆる情報を調べ上げていたヨウタは、その際にジョージについてもいくつかのことを聞き込んでいた。
(ヒルデは、クレアが授業を受けているとき、ときおりジョージとともに姿を消していた。これはおれの授業の時にもあったことだ。そして、副学長のオリビア女史、事務局筆頭のモニカ女史、おれの部下だった初等科総務主任のペトラ女史といった、学内の枢要なポストにいる熟女が、しばしば自室にジョージを引き込んでいた……)
加えて、その頃のヨウタの耳には、複数の身分の高い生徒の侍女が、貴族ではないひとりの生徒の言いなりになっているという噂が聞こえていた。男のガキンチョにも侍女にも興味がまったくなかったヨウタはその噂をただ聞き流していたが、いまになって思えば、あれもまちがいなくジョージのことだったのだと確信できる。
(あいつが今のおれと同じ立場だったとして、奴隷の身分を脱し、クレアのそばで学生として学院に通うことを許され、侯爵家があそこまでの行動の自由を学院に認めさせるなど、まっとうな手段で可能なわけがない。五年やそこらで奴隷として人並みの信頼を得るだけでも大仕事なんだ)
ヨウタの脳裏には「ショタコンキラー」というキーワードがハッキリと浮き出てきた。ジョージはシルヴィアやヒルデを皮切りに、自分のまわりの年上の女をたらし込み、言いなりにして自分の立場を強めていったに違いないのだ。攻略対象の見極めと実践は見事というしかないが、その武器は頭脳だけではない。このアンバランスに満ちた外見、そしてもうひとつの究極のアンバランスである、自身の中心に位置しているこのエクスカリバーを駆使しての結果なのだろう。
ヨウタは眩暈を感じていた。もちろん、ジョージと同じ立場に立つために、彼と同じことをする必要はない。ただ、現実の問題としてあと四、五年でクレアは学院に上がる。その時には彼女を「悪役令嬢」にするための土台は完成させておかなければならない。まっとうな方法でそんなことが出来るわけがない。ジョージのやり方は効率という意味では圧倒的だ。
クレア・リープフェルトを「まっとうに」育て上げるチャンスが転がり込んできた以上、ヨウタとしてもこれを無にする気はない。この家にしがみつき、クレアに近づき、彼女を導く立場に一刻も早く立つ。そのためには手段を選ぶ余裕などないのは明らかだ。
(ロリコンのおれにショタコンの年上を踏み台にしろとか、どんな無理ゲーだよ。しかも、エクスカリバーの存在を考えると、精神的にだけじゃなくて肉体的に支配しなきゃならないんだぞ? おれチェリーだってのに……)
そしてヨウタは、かつての力を取り戻すためには厳しい鍛錬を自分に課さなければならないことを思い出す。一日のかなりの時間を費やす必要があるかも知れないのだ。
(無理ゲーじゃなくデスゲーム?)
ヨウタは頭を抱えてうずくまった。
「あら、うずくまってどうしたの? 具合でも悪い?」
かけられた声に部屋の扉のほうを見ると、ヒルデが着替えとおぼしき衣服を腕に抱えて入ってくるところだった。
「その服では、お屋敷の中は歩けないの。着替えさせてあげるわね」
彼女が送ってきたわずかにネットリとした視線は、ヨウタにとっての無理ゲーの開始の合図にしか見えなかった。
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