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001 ヨウタ・キサラギ1

はじめの数回は、ほとんど会話がありません。少しでも読みやすいように、エピソード一つ一つを短く、行間もふやしてみましたが、ちょっとお付き合いいただければ幸いです。


本日中に、もう数エピソード投稿できる見込みです。

「食事の時くらい、穏やかな気持ちで過ごさせてちょうだい! 自分の手足のめんどうも見られない人は、このテーブルに近づかないで!」


 テーブルのそばでは女生徒が一人、友達に支えられながらひたすら頭を下げている。椅子から立ち上がっているクレア・リーブフェルトは、その子を虫でも見るような目で見下ろしながらそう言った。クレアと一緒に昼食のテーブルについている四人の女の子たちは、みなクレアと同じような視線を女の子に送り、したり顔で頷いている。


 現在十歳のクレアはここ、エルミア王国高等教導院初等科の一年生である。リープフェルト侯爵家の長女であり、同学年に王族がいないため、学年内ヒエラルキーは最高ランクにある。ちなみに頭を下げている子は、エルミアの王都ミルキスで最近評判の服飾店であるタリス商会の会頭の次女、ニナ・タリスだ。貧しい家庭の出というわけではないが、貴族の令嬢でもない。クレアと同じ、初等科一年生である。

 

 クレアは侯爵家という家柄をバックにやりたい放題で、身分が劣るものを徹底的に見くだしている、ワガママな生徒だった。また、高等科に通う十五歳のエルミア王国皇太子との婚約も噂されており、リープフェルト侯爵家の国政への影響力は強まっている。クレアの容姿がすぐれており、学業成績も悪くないこともあって、周囲はそのワガママを抑えることが出来ずに手をこまねいていた。まさに悪役令嬢候補生といえる。


(違う、違うぞ,クレア! 言葉もこなれていないし、それでは誰が聞いても理不尽な自分の感情をそのままぶつけているだけじゃないか! こんな、こんな……、これではクレアがかわいそうではないか!)


 大食堂での小さな騒動を、自ら組み上げて天井に仕込んだ魔方陣から自分の研究室に送られる魔導映像で見ていたヨウタ・キサラギは、全身をぶるぶる震わせながら心の中で叫んだ。




 ヨウタ・キサラギは高等教導院初等科主任兼専任教官である。エルミア王家の秘術により異界から召喚された魔道士である彼は、召喚直後から傑出した魔法の才をみせつけ、同じく異界から召喚された勇者ハルキや他の仲間とともに、人間界を侵し始めていた魔王をみごとに討伐した。三年と少し前のことである。


 魔王の陰におびえていた全世界の人たちに光を与えた勇者一行は,彼らを送り出したエルミア王ノクスから望みのままの報酬を与えられることになった。勇者ハルキは、旅に同行した神官でノクス国王の愛娘である十八歳の第一王女セーラと結ばれ、侯爵待遇の身分と相応の年金、そしてミルキス城下の一等地にある屋敷を与えられている。


 旅をともにした騎士ケイトは弱冠二十歳にして近衛騎士団親衛隊長の地位を与えられ,また伯爵待遇で勇者の屋敷とほど近い地区に城下に屋敷を下賜された。一行の中で斥候役をつとめたアマリエは、望みにより王都の冒険者ギルドのギルドマスターとなった。住居は住み込みを希望したためギルドの建物の最上階を一人で使っている。身分はやはり伯爵待遇だ。


 ちなみにケイトとアマリエは、勇者の実質的な第二夫人および愛妾でもある。要するに、魔王討伐の旅の道中、下半身が少々緩めな勇者ハルキがパーティーの女性三人全員に手を出してしまっていたということだ。


 勇者とそのハーレムに魔道士ひとり。ギクシャクする要素は随所にあり、パーティーがうまく回るとはとても思えない状況だったといえる。だが、なんの問題も生じなかった。当初はヨウタへの接し方を決めかねていた勇者ハルキたちも、まったく変わらないヨウタの態度に「ヨウタが気にしないならいいかぁ」という感じで、そのまま魔王戦まで流れていったのである。実際、ヨウタはなんの問題も感じていなかった。


………なぜなら、ヨウタはロリコンだった。




 さて、魔王討伐の報償でヨウタが望んだのは、初等教育機関の教員職。そして、希望が叶えられない場合は出奔し、エルミアから出ると言いきった。勇者に同行した英雄に与えるにはあまりに小さい報償であり、当初はそれが希望のごく一部であると皆が思っていたが、何度問いただしても、ヨウタの希望はただそれだけだった。


………なぜなら、ヨウタは筋金入りのロリコンだった。




 それならということでノクス国王は、エルミアの初等中等教育の頂点である高等教導院の院長ポストを提示したが,ヨウタはこれにまったく興味を示さなかった。中等教育という、彼にとってはなんの価値もないものに関わる気はなかったのである。

 さりとて魔王討伐の英雄の一人を受け入れるだけの格と規模を持つ教育機関が他にあるわけでもない。紆余曲折の末、ヨウタが高等教導院初等科だけを担当する教官となることは既定事項となった。しかし、ノクス国王もさすがに英雄をいち教員としてしまうことは、功績と報償のバランスの上から禍根を残すことになり、受け入れることはできない。


 最終的にノクス国王は、初等科の主任を兼任させるとともに教導院の非常勤理事のポストを与え、それを口実に年金を増額して決着させた。伯爵待遇と屋敷の下賜はほかのパーティーメンバーと同じである。これについては、ヨウタはなにも言わずに受け取った。というか、なんの憂いもなく初等教育に携われさえすれば、あとのことはヨウタにとってどうでもよかった。


 そして、ヨウタ・キサラギ高等教導院初等科主任が誕生した。


(ヨウタは「賢者」から「ロリコン」にクラスチェンジした!)


 

お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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