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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
白川栞は学園のマドンナである
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8話 赤哉のマドンナ、白川栞

 ――――――――――――――プライベートの白川先輩に会うのは、珍しいことではないが、今回ばかりは完全に誤算だった。誰のテリトリーでもないと思っていたのに、何故隣町の荻坂おぎさかに白川先輩が居るのだろうか。八月八日、火曜日の出来事である。

 彼女との待ち合わせに、毎回使っている萩原市立図書館はぎはらしりつとしょかんの正面大広場に、白川先輩が現れたのは、ほんの数十秒前のことだった。そして俺の存在に白川先輩が気づいたのは、ほんの数秒前。

「本郷じゃん。何してんの」

白川先輩は、いつもより一回り大きなリュックを背負っていた。おろしたままの髪、白のピンドット柄ブラウス、紺色の膝丈スカート、黒のサンダル。いつもより背が高いから、ヒールの高さは五センチ程だろうか。可愛い、と持て囃される理由がよく分かる外見だった。

「し、白川先輩こそ」

こんなところを彼女に見られでもしたら、大変なことになる。別れる、なんてヒステリック起こされたら、俺の半年が無駄になってしまう。

「……わあ!白川栞先輩ですか?」

「はッ!な、なんてことだ、白岩帯ちゃんじゃないか」

そんな心配は、俺の杞憂に終わった。なんと俺の彼女、三大マドンナの一人、白岩帯は、三大マドンナの一人、白川栞の大ファンだったのである。

 しばらく白熱した白岩帯による白川栞の話と白川栞による白岩帯の話が続くと、決着がついたらしく、二人は笑顔で別れて行った。あんなに熱くなる白川先輩も初めて見たし、あんなに嬉しそうな白川先輩も初めて見た。

「美人だったね、栞さん」

いつのまにそんなに仲良くなったのか、白川先輩を下の名前で呼ぶ我が彼女の度胸が羨ましい。“栞さん”、なんて死んでも言えない。お前なんかが生意気だ、とばっさり切られそだから。

「帯ちゃん、って呼んでもらっちゃった。……どうしよう緑音」

「よかったな、“帯ちゃん”」

普段はちゃん付けなんかしないのに、“帯ちゃん”、なんて可愛らしく呼んだら、帯にはたかれた。まさか白川先輩にこんな現場を目撃されるなんて。一生の不覚である。

 映画を見て、映画館の近くの雑貨屋に入って、そのはす向かいのアパレルショップでペアルックのパーカーを買う。帰りがけにゲームセンターによってプリクラを撮って、それぞれの家に帰っていく、ただそれだけの、ちょっと痛々しいけど、平凡なデートのはずだった。はずだったのに。

「本郷と帯ちゃん再び!」

「本田先輩が増えた!」

ゲームセンターで、よりにもよって、本田先輩に会ってしまった。帯との関係はもう明るみに出尽くしてしまったから、せめてどんな休日を過ごしているかだけは、露見しないようにしよう、と、互いに注意し合っていたのに。

「緑音に白岩さん。お邪魔してしまって申し訳ない」

本田先輩がニヤニヤしている。あの微笑みは絶対に何かを企んでいるときの微笑みだ。その微笑みは図書だよりの編集を俺に任せてきたときの笑顔だった。

「本田先輩も、白川先輩も、受験生でしょ。何してんですか」

「図書館で勉強した帰りに偶然会ったの。赤哉は遊んでたみたいだけどね」

何を言っているんだ、と反論する本田先輩の顔が、いつもより穏やかできれいだったのは、言うまでも無かった。白川先輩は、本田先輩のマドンナなのだ。校内では三大マドンナ、なんて言われているけど、そんなの嘘に決まっている。白川先輩は、誰が何をしたって、本田先輩のものになってしまうんだ。

「栞さん、本田先輩と仲良かったんですね。知らなかった」

「図書委員にしか言ってないからね。内緒だよ、帯ちゃん」

女同士のやり取りが、密かに行われているのを聞いた。そして見た。帯の顔が、まるで親の仇を見る様な表情に変わっていったのを。そして感じた。白川先輩はそれに、気づいていないということを。

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