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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
白川栞は学園のマドンナである
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6話 三大マドンナ、白川栞

 東城学園大学附属高校には三大マドンナと称される美人が居る。一人目は一年二組の白泉覆はくせんおおい。ストレートロングの黒髪ときりっとした顔立ちが特徴の麗人である。二人目は二年八組の白岩帯しろいわおび。栗色の毛にまん丸の目で、可愛らしい子だった。三人目は三年三組の白川栞。内巻きに癖がかかった黒髪とぱっちり二重、それからぷっくりした唇。整った見た目をしているくせに、三大マドンナのうち唯一女子っぽさが無い。それでも人気の理由は、裏表のない性格と、本人の行動だろう。

 そんな三大マドンナの三人目、白川栞はこの学校の花形委員会、図書委員に在籍している。白川栞は今年度の図書委員長にして我がクラスメート、本田赤哉の幼馴染。周囲にはそのことを黙っているつもりらしいが、実は周知の事実である。ちなみに白川栞は、三大マドンナに自分がカウントされていることを知らない。つまり白川栞は超絶鈍感、なのである。

「おい、本条。原稿を上げてやったぞ、褒めろ。そして本郷に労いを忘れるなよ」

そして時々、小生意気。本当に飾り気のないサバサバ女子。これぞ白川栞である。

「白川ちゃん、結局書いてくれたんだ。有難うね。……今回ばかりは本当に」

どんなにハードな仕事を任されても、表情一つ変えずケロッとこなしてしまうのが普段の白川ちゃん。でも図書だよりの時だけは別だ。どんな図書委員も音を上げ、灰になってしまう。

「……まあ、文句は赤哉に後で沢山言っておくからいいや。文句つけたら本条から順に中央係全員にコブラクラッチかける」

白川ちゃんが半ギレ状態なのは、本来ならば広報係に振られる仕事を管理係の白川ちゃんに任せたから。本当は広報係の一年生が作るはずだったのに、まさかのポンコツ二人組に仕事を振ってしまった、ということが、原稿締め切り一週間前に発覚したのだ。だからとにかく仕事が早い人、という人選の結果、白川ちゃんと我が後輩、本郷緑音が図書だよりを制作する羽目になった、という訳。

「白川ちゃんと緑音が組んだなら完璧だよ。先生に渡しとくね、お疲れ様」

カレンダーに目をやると、今日の日付は七月二十一日。締め切りの三日前だ。つまりたった四日間で空前絶後の図書だよりを作り上げた、ということだ。やっぱり赤哉が見込んだだけあって、白川ちゃんは仕事が出来る女なのだった。

 すっかり日が長くなったからだろうが、最近白川ちゃんと赤哉が一緒に帰っているのを見なくなった。白川ちゃんの弱点は暗い場所。こればっかりは他の誰かが知っている、とは考えにくい。詳しいことは知らないが、大昔、暗いところで酷い目に遭ったことがあるとかないとか。赤哉に聞いても語ってくれなかったから、きっと二人の間の秘密なのだろう。職員室の窓から正門に向かう道を覗いていると、白川ちゃんが一人で歩いていく様子が見えたので、ふと思い出した。

紫苑しおんちゃん、今月の図書だより」

俺の本来の用事は図書委員会の顧問、本宮紫苑もとみやしおん先生に先程預かった原稿を提出すること。満面の笑顔で原稿を渡すと、

「本郷と白川に渡しておいてくれ。あとせめて“ちゃん”は止めろよ」

ご褒美をもらった。ミルクティーは確か本郷の好物で、ココアは白川ちゃんの好物だ。流石は紫苑ちゃん。生徒人気ナンバーワン教師の名に恥じぬご褒美のチョイスである。

「紫苑ちゃんは紫苑ちゃんだもん。あ、紫苑ちゃん、明日の約束、忘れないでね」

「分かってるよ。数学準備室で待ってる。……早く帰れ、お前受験生だろうが」

紫苑ちゃんは折角整った格好いい顔を台無しにするのが得意だ。基本的に無表情でやる気無さそうなのに、いざと言う時は頼りがいがある。男女問わず、紫苑ちゃんは人気者。まるで男版白川栞、って感じ。

「はいはい。帰るよ。バイバイ」

紫苑ちゃんは喫煙者なのに、今日は煙草の匂いがしなかった。また奥さんに怒られて禁煙を始めたのかもしれない。

 帰り道、街で一番大きな交差点を真っ直ぐ行くと、白川ちゃんに追いついてしまった。後ろから声をかけ、紫苑ちゃんからの贈り物を渡すと、

「本宮先生……私一生ついて行きます……ッ」

何て、柄でもない女子っぽいことを言っていた。俺の目先のライバルは赤哉じゃなくて紫苑ちゃんかもしれない、なんて、俺も柄じゃないことを考えてしまった。

「俺からもご褒美を差し上げよう」

目当ての子は、大抵モノで釣ってきた。この手が白川ちゃんには通じないのは、随分前から分かっている。それでもいつか、気づいてほしいから、俺は事あるごとに白川ちゃんにモノをあげてしまう。今日は好物のココアクッキー。

「……あんた、なんか企んでるんでしょ。赤哉に口利きしてもらおうったってそうはいかないんだからね」

企んでいない、と言えば嘘になるけれど、それは白川ちゃんの考えているそれじゃない。俺が返事に困っていると、そこそこの勢いで俺の手からココアクッキーが奪われていった。

「でもまあ、ありがとう。……本条」

珍しい、白川ちゃんの真っ赤な顔だった。今日も一日、頑張った甲斐があった、と、こんなことで幸せを感じてしまうんだから、俺は本当に、単細胞なんだな、と感じざるを得なかった。

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