最終話 ありふれた日常
来る三月六日、帝都大学の合格発表が行われた。結果を確認する方法は三つ、帝都大学の薜嘉橋キャンパスに行って掲示を確認するか、受験者用サイトで番号を入力するか、合格通知書の発送を待つか、だ。
「……赤哉、見るよ、見るよ、行くよ、入れるよ」
「栞、落ち着きなよ。……大丈夫大丈夫」
発表の為だけに現地に行くのは流石に勿体ないので、私はサイトで確認することにした。赤哉もそうしたというので、願掛けの意味も込めて。赤哉は受験の日と同じように、私の傍で背中をさすってくれた。
「1、9、7、5、2……」
エンターキーを押せば、私の人生がどうなったか分かる。受かれば天国、落ちれば地獄だ。赤哉と見つめあい、うんと頷きあうと、どんな結果であっても、大丈夫な気がしてくる。
「お願いッ」
エンターキーを押すのと同時、結果のロードが始まった。一瞬画面がフリーズした後、すぐに合否の文字が画面に踊る。
「……合格、です。…………合格です!赤哉ぁ!合格だって!すごい!すごくない?赤哉ッ」
「おめでとう、栞。……本当に」
赤哉と抱き合って喜びを噛みしめる。私たちの想いが、全て形になった。今までの全てが報われた。今はこの喜びを、二人だけで抱きしめていたかった。
しばらく二人で騒いだ後で、先生たちに結果を報告しに行こうという話になり、三日ぶりに通学路を歩いた。思えば、赤哉との距離が次第に開いていったのもこの道で、赤哉との距離がもとに戻ったのもこの道だった。
「来月からは違う街に居るんだよね、私たち」
「そうだよ。あの眩しい街で、四年過ごすんだ」
赤哉もあの受験の夜、眩しいと思っていたのだろうか。あの時赤哉は、すごく余裕があるように見えたけれど。
「俺はすごく怖がりだから、きっと手を離さないでね、栞」
赤哉の微笑みを見て、やっぱり赤哉は大きい人だと思った。私の不安をすべて飲み込む為、赤哉は下手に出たのだ。誰がどう言ったって、私は赤哉の手を放すわけがないのに。
学校で合格を報告すると、職員室では英雄扱いされた。まさか進学コースから帝都大学の合格者が出るなんて、誰も思わなかっただろう。
「どうだ!受かったぞ本宮先生!」
今日ばかりは、今まで“五月蠅い”とあしらってきた本宮先生も、
「おめでとう、白川」
笑顔でお祝いを述べてくれた。世界が私のことを、赤哉のことを祝福してくれているかのようだった。
帰り道、晴れた空を見上げて、私たちは家路についた。私たちの歩く道は変わっても、隣を歩く赤哉は、私は、変わらないと信じられる。今はこの時間が、永遠に続くと思えた。いろんなことがあった。“BOOKS FIVE”の誕生、図書だよりの制作、帯ちゃんとのこと、二本木とのこと、文化祭、沢山。
「栞」
赤哉の左手が、私の右手を捕まえた。
「帰ろう」
赤哉の手は温かかった。半歩先を歩く赤哉に引かれながら、私はいつも通りの通学路を歩いた。これからも続いていく、“いつも通り”を想像しながら。




