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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
受験と失恋、時々純愛
29/33

29話 決意表明

 勢いよく三年一組の教室の扉を開けたのは、他でもない、橙馬だった。俺や覆、赤哉には目もくれず、橙馬は白川ちゃんの目前に立つのだった。

「先輩、俺はきっとずっと、これからも先輩が好きだ」

唐突に始められた告白は、橙馬自身が自分に言い聞かせている様な言葉でもあったし、本当に白川ちゃんのことを想っているから出てくる言葉の様にも感じられた。

「これから先もずっと、先輩が俺を選ばないとしても」

橙馬は待っていた。白川ちゃんからの、“ごめんなさい”という言葉、或いはそれに該当するような“好きじゃない”という意思表示を。白川ちゃんは橙馬の言葉に、目を白黒させていたが、暫くの沈黙を経て、いつになく真剣な顔で、

「二本木の気持ちには、答えられない。ごめんね」

と言った。橙馬は満足そうな笑顔を浮かべて、

「やっぱりそうでなくっちゃね、先輩。ありがとう」

と、礼まで述べて嵐のように去っていった。橙馬の残り香が鼻を掠める。教室には再び、沈黙が訪れてしまった。しかし、居心地の悪い静寂ではなく、寧ろこれは、音を立ててはいけない、何者にも侵されてはいけない時間なのではないか、とさえ感じられた。

 最初に音を立てたのは、赤哉だった。赤哉は白川ちゃんの手を取って、腕ごと上下に揺らし始めたのだった。特に意味はないと思われたその行動だったが、みるみるうちに白川ちゃんは、大きな目に大粒の涙を湛えて、赤哉の胸に飛び込んでいったのだった。白川ちゃんの感情の機微を読み取るのは至難の業だ。それは白川ちゃんに関わった全員が感じることだと思う。だが、赤哉だけは。赤哉だけは絶対に、白川ちゃんの何かを、見落とさない。

「泣くな。大丈夫だ。……傷つけてなんかないよ」

白川ちゃんの嗚咽は、音量調節機能を失ったメガホンのような大音量で、白川ちゃんの人柄を良く表していた。なんでもかんでも自分のせいで、誰が悪いのでもないのだ、と思い込んでしまう。覆が赤哉のこういうところを見るのは、なんだかんだ初めてだったかもしれない。覆は初めて鏡を見た人のような顔をして、赤哉と白川ちゃんの様子を見ていた。

「赤哉はエスパーなんだ。白川ちゃんの心を見通すのが専門のね」

覆にそう言ってあげると、覆は“確かに”、と漏らしながら、ただ二人の様子に見入っていた。白川ちゃんはなかなか泣き止まず、赤哉は困っているようにも見えた。

 時計が四時を指したころ、白川ちゃんは赤哉の懐から這い出て、教室の外へと姿を消してしまった。暫くして戻ってきた白川ちゃんの顔は、さっきまでとは打って変わって凛々しく、そして頼もしいいつもの精悍な顔だった。

「白川栞、幸せを掴みますッ」

白川ちゃんの謎の宣言を応援するように、チャイムが鳴り響いた。赤哉は微笑ましいと言わんばかりの優しい顔で、“頑張れ”と言った。白川ちゃんの本命、帝都大学の二次試験はもうすぐそこまで来ている。もしかしたら白川ちゃんは、帝都に受かって、赤哉と同じ道を歩み、そしてのちに結婚するのが、橙馬へのせめてものお詫びになる、とでも思っているのかもしれなかった。

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