22話 白泉覆と本条黄色の再会
珍しく本条が溜息をついて窓の外を見つめているのを発見したのは、偶然ではない。各クラスの正副委員長、各常任委員会の正委員長、そして生徒会役員が一堂に会する中央委員会の臨時集会に呼ばれた赤哉を待っていた時のことだ。
「白川ちゃんが告白したんだよね、赤哉に」
唐突に本条から発せられた言葉に、私は一瞬言葉を失ってしまった。本条が自ら、他人の恋愛に首をつっこんで来るなんて。
「……何、どうしたの」
本条は窓の外のサッカー部から目を外して、私の目を見据えた。いつもと違って表情の無い本条は、美しいと思ってしまう。
「俺、恋されてるかもしれないんだよね。……白泉覆に」
「……はい?何だって」
至って真剣に、しかも自信たっぷりにそういう発言をしてしまうのが、本条の長所でもあり短所にもなり得るところだと思う。しかし本条はどこか納得がいかないような顔をしていた。
――――――――――――本条曰く、中央委員会の臨時集会が始まる前に、覆ちゃんとすれ違った時に世間話をしたらしい。“愛の名の下に罪を犯すことは”について。
「フォビアは、アマンテのことを本当に、愛していたんですよね」
「へえ、君はそう思うんだ」
“愛の名の下に罪を犯すことは”は、フォビアという庶民の女と、アマンテという上流貴族の男の恋愛物語である。私はそれよりも、脇役も脇役のアパシーが好きなのだが、それはどうでも良い話だ。フォビアは物語の最後に、アマンテに愛を告げるのだ。
「アマンテ、貴方の為ならアパシーも殺せるわ」
結局フォビアはアマンテとは結ばれない。アマンテはフォビアが抱くアマンテに対する好意を知っていながら、
「簡単に人を殺す様な人間が、この僕と結ばれるとでも思ったのかい?」
と言って、フォビアを地下牢に幽閉してしまうのだ。
「反社会的なことでも、自分の心が正しいと思ったらそれは、罪じゃないと思います。私は」
覆ちゃんはそう言った、と言うのだ。本条が再び窓の外に目をやると、午後四時を告げる予鈴が鳴った。
「覆ちゃんが、フォビアになり切ってるってこと?」
「なり切ってるは大袈裟だよ。……“私がフォビアならこうするわ”、みたいな」
本条の悩みは、至って真剣なものの様だった。これまでだって恋されることはたくさんあっただろうし、恋したことも少なからずあった筈だ。私が知っているだけでも本条の元彼女は三人居る。そんな男が今更、恋の悩みなんて、何があったと言うのだろうか。
「……年下って、好きじゃないんだよね。どっしり構えてなきゃいけなくて、疲れちゃうからさ」
全校の女子生徒に、今の言葉を聞かせてやりたかった。本条のファンは全員他の“BOOKS FIVE”に乗り換えるだろう。
「けどあの子は俺と同じ匂いがするんだ。…………俺もフォビアの愛は本当だと思うし」
本条は遠い目をしていた。今にも雨が降り出しそうな雲行きになってきた。赤哉が来るまでには、まだまだ時間が残っている。私は本条に何と声を掛けて良いのか、分からなかった。




