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20話 未リア充のすゝめ

 先輩が目を覚ましたと聞いて、ホームルームが終わってすぐ、保健室に駆け込んだ。保健室には赤哉さんが居て、赤哉さんの座っている隣のベッドには、先輩が横たわって、微笑んでいた。西日が差して、赤哉さんも先輩も赤く染まって見えて、一層青春を見せつけられている気分になる。

「……先輩、大丈夫?」

「うん。心配かけてごめんね」

先輩は精一杯腕を伸ばして、俺の前髪をわしゃわしゃと撫でた。本当は頭を撫でたかったのかもしれない。赤哉さんは余裕綽々、という顔をして、俺のことを見つめていた。

「二本木」

先輩は手を下ろして、俺のことをじっと見つめた。いつにない真剣な顔で、もしかしたら赤哉さんから乗り換えてくれるんじゃないか、とさえ思った。

「最高に、大原賢だったよ。ありがとう」

じわりと目の前の景色がにじんで、先輩が見えなくなった。正直、二週間前まで、“ANGELS”なんてアイドル、興味が無かったから知らないにも等しかった。でも、あんなに純粋な目で、“信頼を取り戻す”なんて、意気込んでいる先輩を見たら、やるしかないじゃん。だって好きな人の言うことだもん。

「選んで、正解だったっしょ」

大原賢の動画を、何本も漁って、ずっと見ていた。やる気が無くて、とんちんかんで、でもちゃんと決めなきゃいけない時はビシっと出来る。まさに俺みたいな人だった。だから、先輩は俺を大原賢役にしたんだと思った。

「大正解だったよ」

踊っているときの大原賢は、男の俺が見てもすごく格好良くて、これになりたい、と思った。だから柄にもなく一生懸命頑張った。先輩の為でもあった。恥かかせないように、って。最後の練習で“もうちょっとやり込んで”って言われた時は、カッとなって言っちゃいけないこと言ったけど、緑音さんに言われた。“先輩の推しは大原賢なんだ”って。“大原賢を二本木にしたのは、お前が信用されてる証だ”って。

 俺はありがとう、より、ごめんねの方が言いたかったけど、言わせてもらえなかった。先輩があんなに清々しい表情をしているのに、ごめんねという言葉で、台無しにしたくなかった。したくなかったし、出来なかった。

「二本木」

校舎から出ようという時、緑音さんに呼び止められた。どこか心配そうな表情を浮かべた緑音は、

「白川先輩と、話せたか?」

と聞いてきた。先輩も先輩で、最後の練習の日は追いつめられていただろうし、俺も俺で感情的になってしまったから、ちゃんと仲直り出来たか、心配しているのかもしれなかった。

「ばっちり仲直りしたよ。……だーいじょーうぶ」

緑音さんに踵を返して、家に向かって歩き出した。いつまでも折り合いの付かない恋心を引っ提げて。もしかしたらこの気持ちを、緑音や、黄色さんなら知っているかもしれない、と思い当たったのは、また別の話だ。

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