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2話 本条黄色

 放課後、図書委員の通常業務の為、図書館へ出向いた。火曜日の図書館は、黄色い悲鳴で一杯だから、あまり好きではないのだが、任された仕事は放棄出来ない。返却された蔵書の点検をして、蔵書を元の場所に戻す。私は受付に近づかない、それだけでも十分である。

「……やっぱ、火曜日って凄いな」

返却された本は、受付カウンターの下に設置されたキャスター付きラックに一時保管されることになっている。普段はラック一台分も返って来ないのだが、“BOOKS FIVE”が受付をする火曜日となると、話は別だ。ラックが何台あっても足りない程の蔵書が返却され、同時に何冊もの蔵書が貸し出される。ラックは図書館に三台しか存在しない為、途中から返却された蔵書は野積みにされる。今日の本の山は一段と高いし、数が多い。ラック三台も限界まで本が詰められて、可哀そうなことになっている。まずは蔵書の点検を、閉館時間までに終わらせるところからだ。私は最初の一冊を手に取った。

 今日は案外、蔵書の破損や汚れが見られなかった。受付の“BOOKS FIVE”が目当てで、本は何でも良い様な生徒が借りていった本だから、ということもあるだろうが、それだけではないことを、私は知っている。“BOOKS FIVE”は受付をする時、本を丁寧に扱い、破いたり汚したりしないように口添えするのだ。“BOOKS FIVE”は図書館のルールにも等しい。“BOOKS FIVE”の言うことならば、乙女たちは必ず遵守してくれる、という訳だ。

「今日は閉館!皆、気を付けて帰ってね」

受付に並んでいた列が、ようやく終わった。閉館予定時刻より十五分遅れての閉館だった。最後に貸し出しの手続きをしていった女生徒は、どうやら閉館の案内をしていた副委員長、本条黄色ほんじょうきいろのファンだったらしく、最後まで本条に手を振っていた。

 蔵書の点検は予定通り閉館予定時刻に終わった為、閉館した後は蔵書を、割り当てられた係は関係なく元の場所に戻していく。東城萩原の図書館は蔵書数日本一と名高い。普段なら通常業務に割り当てられた五人の図書委員のみで点検から収納まで行うのだが、火曜日は別。たった五人では蔵書の数が手に余る為、天下の“BOOKS FIVE”様たちも、通常業務に勤しむのである。

「ねえ、赤哉に限定パンあげたの、白川しらかわちゃんでしょ」

一台目のラックから本を戻している途中に話しかけてきたのは、野積みだった本を抱えた本条だった。本条は、赤哉と同じ三年一組に在籍していて、“BOOKS FIVE”の中でも一、二を争う人気の高さだ。明るく溌剌としていて、誰にでも優しい完璧美少年、と周囲の乙女たちは評しているが、私に言わせれば本条は“ただのチャラ男”である。

「だったら何。……開館前に本の返却頼んだお礼だけど」

「本当、赤哉と白川ちゃんって仲良しだよね。羨ましい」

ここが閉じられた後の図書館で、本当に良かったと思う。もしこんな所を“BOOKS FIVE”のファンに見られたら、と思うと鳥肌が立つし、赤哉と幼馴染であることが世間に露呈しようものなら、全力で命を狙いに来る物騒な女生徒も居るだろう。

「生まれた時からだいたい一緒だったしね。……何よ、その生温かい視線は」

本条はクスクスと笑って、私の手から蔵書を奪っていった。

「白川ちゃんって逞しい割に女子だよね。背、ちっちゃいし」

私の身長では届きそうで届かない高さの棚に、奪われた蔵書が戻っていく。黙って本条の足を踏んづけてやると、本条は両手を上げて、降参だ、と漏らすのだった。

 全ての返却された蔵書を収納し終えた時には、既に下校時刻三十分前だった。この図書館の広さと蔵書の多さ、加えて“BOOKS FIVE”の威力を思い知らされる一日である。

「白川ちゃん、お疲れ様」

本条は半笑いで、ミネラルウォーターを差し出してきた。図書委員業務専用スペースでのことだった。何か仕込まれているのは確かだったが、私が水を飲むまで、このお遊戯は終わらないことは分かっている。私は諦めて、蓋を開け、ミネラルウォーターに口を付けた。

「ッ……甘い」

「疲れた時には甘いものを、って言うだろ。特製砂糖水」

本条の悪戯は、最近優しいのか悪意しかないのか、わかりかねる。赤哉なら、センブリ茶とか、クエン酸水溶液を渡してくれるから、反応に困らないけれど。私が困った顔をしているのを、本条は嬉しそうに見つめた後、じゃあねと言い残して、図書館を去って行くのだった。

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