16話 元リア充のすゝめ
俺のことを世渡り上手だと評価している人間は、多数いる筈だ。かく言う俺自身がそうなのだから、そうに違いないと信じていた。だが今回の一件、白岩帯との破局により、その評価の信憑性が一気にガタ落ちした。帯の本性を知らない奴らからの妬み嫉みは一定数あったが、大多数は俺に同情してくれているらしい。俺は羨望も同情も間違っていると思う。俺は、あれが帯だと知っていて、恋人になろうと言ったのだから。
帯が白川先輩に対して行っていたことや、本田先輩に対して行っていたことは、学校全体の周知の事実となっていた。帯はずっと居心地が悪そうで、俺も同じだった。すぐに帯は不穏な空気に耐えられなくなって、俺に別れを告げてきた。それが間違っているとも正しいとも、俺は思わなかった。
白川先輩と本田先輩は、帯がきっかけで関係を結んだと言うのだから、それはそれでよかったのかもしれない。だが何となく、納得できなかった。俺たちの破局を踏み台に、あの二人が幸せになった様な気がして。しかしながらそんな気分も、白川先輩の心配そうな顔を見たら吹き飛んでしまった。白川先輩は本当に、人の心配が得意な人だ。
帯との破局からもう既に一週間が経つ。あの一件も、“マドンナ事変”と名が付いて、騒ぎが収まって平穏が戻った。十月六日、金曜日。俺たち“BOOKS FIVE”は一般業務にあたる日である。世間は約三週間後に迫った文化祭の準備に追われている。校内中が浮足立っている中、俺だけが沈殿している様に見える。
「帯ちゃんフったの?」
そんなド直球な、酷い言葉を掛ける人間に、心当たりは一人しか居なかった。本条黄色、その人である。
「どちらかと言うとフラれましたね。……いつかこうなるって分かってましたけど」
窓に反射した、男に男が背後から抱き着いているという地獄絵図。しかし俺には何の効き目も無い。何だか今は感情が沸かないのだ。すべてがモノクロになってしまったような。
「そう。……なーんか、あっけないよね、恋が終わる瞬間ってさ」
本条先輩にしてはあっさりした悪戯で、肩透かしを食らったようだった。本条先輩は俺から離れていくと、今度は二本木に、俺に対する悪戯と同じようなことをするのだった。
業務が終わると、地獄絵図再びで、本条先輩が俺にすり寄ってきた。本条先輩の横顔はどこか悲しげで、痛みに耐えるような表情だった。
「大失恋だよ。全く、振り向いてすらくれなかったなあ。……俺そんなに軽く見える?」
本条先輩の気持ちは、分からなくない。初恋の人には、俺も振り向いてすら貰えなかった。眼中にも入れなくて、結局振り向いてもらうより前に、帯が現れた。
「本条先輩が軽いフリしてるっていうのは知ってます。本当は激重のメンヘラですもんね」
きっと本条先輩は、白川先輩に恋をしていたのだ。違いない。俺と帯が破局したということが、せめて救いになっていれば良いが。
「緑音、お前って傷口に塩塗ってくるタイプだよね。でもそういう所好き。推せる」
本条先輩のお気に入りになる事だけは御免被るが、さっきよりも表情が柔らかくなって良かった。沈んでいるのは俺だけじゃない。きっとこの“マドンナ事変”は何人もの男女を失恋させ、そして何人もの男が失望し、何人もの女が奮い立ったことだろう。本条先輩も、その失恋した中の一人なのだ。窓の外の空は、晴れとも曇りともつかない、微妙な様子だった。晴れても曇ってもいない、どっちつかずのこの天気は、まるで俺や本条先輩の、心のモヤモヤを表している様だった。




