14話 白川VS白岩-Round 4
―――――――――――――噂が校内に出回るのは、想像を絶する早さだった。私が赤哉と正式な恋仲になったことも、二人で帯ちゃんと対峙したことも、全てが学校中に広まってしまったのだ。帯ちゃんの株はガタ落ち、本郷との仲も噂されるようになった反面、私は赤哉との恋を学校中の女子から応援されることとなった。帯ちゃんと本郷のことは避けられないにしても、私と赤哉に関しては意外だった。もっと過激なファンが多くて、私のことを恨んでいる乙女の方が多数だと思っていたから。
「……大丈夫かな、本郷」
九月二十七日、水曜日の放課後、“BOOKS FIVE”の営業時間が終了した後の、私の独り言だった。何となく、事があった後の本郷は、上の空な感じがしていたし、帯ちゃんと居るところもあまり見かけなくなった。破局しただの、本郷がずっと付きまとってるだの、帯ちゃんの方が別れ話に乗り気じゃないだの、あることないこと沢山言われて、本郷も帯ちゃんもきっと、疲れてしまっただろう。皆、心配しているはずだ。帯ちゃんのことも、本郷のことも。
「そうやって人の心配してるから、この間みたいになっちゃうんだよ、先輩」
後ろから私を驚かせにやって来たのは、二本木だった。思わずちょっと大きな声を上げてしまったが、確かに二本木の言うことにも正しさはあった。私が自分を優先できないのは、事実である。
「二本木って本当に生意気」
二本木にデコピンを食らわせようとして背伸びをすると、二本木の大きな手で背伸びを阻止された。そして二本木は、まるで大切な人が居なくなってしまったかの様な顔で、
「でもよかったね。赤哉さんも同じ気持ちで」
と言うのだった。珍しく二本木は、自分の業務に戻って行った。取り残された私は、窓の外を見つめる本郷を横目に、蔵書の点検にかかった。
水曜日の割には早く仕事が片付いた。多分に二本木の無駄口と本条のおふざけが無かったからだろう。無音の図書館はきっと、誰にとっても気まずくて、今すぐにでも出て行きたい場所だった筈だ。
「なんて顔だ。いつも表情が無いくせに暗い顔をするんじゃない」
赤哉に柄でもない冗談を言わせるくらいには、私の気持ちも切迫していた。帯ちゃんとあんなことがあって、本郷にどんな顔をすればいいというのだ。どんな顔で、本郷と仕事をしろというのだ。だが、誰も責められはしない。黙っていた私も、赤哉も、そして気持ちを現実にしてしまった帯ちゃんも。
「大丈夫。二人は二人の中で、解決できるよ」
赤哉はいつも通り、心に余裕がたっぷりで、堂々としているのだった。まるでこの間の帰り道が嘘の様。でもそれも、赤哉の優しさなのだろう。不安定な私が、ずっと同じ場所に留まっていられるようにするための。
「待つしかない、よね」
中央係を“BOOKS FIVE”なんてアイドルユニットみたいに売り出したことを、酷く後悔した。誰かと誰かの関係を、こんなにも拗らせてしまうことになるなんて、四月の時点で、誰が想像しただろうか。




