13話 白川VS白岩-Round 3
因縁の屋上で、私と赤哉は白岩帯と対峙していた。九月二十一日の昼休みのこと。良く晴れていて、蒸し暑かった。
「栞や緑音を傷つけるなら、今後一切近づかないで貰えるかな。白岩」
赤哉はずっと、私の肩を抱いていた。帯ちゃんの顔は引き攣っていて、可愛い顔が台無し。ただ、私も赤哉も帯ちゃんの本性を分かっていたり、察していたりするから、これが白岩帯という人間の本質だと、理解しているつもりだった。
「……そんなに、栞さんが良いですか?」
帯ちゃんは既に泣いていたのかもしれない。堰を切ったように私への妬み嫉み、羨望や何かを、どろどろ、どろどろとぶちまけて、土砂崩れに巻き込まれた気分だった。
「まるで自信なんか無いから!赤哉さんに告白もせず!ただ隣で指くわえて見てただけの、ビビりの栞さんが?」
赤哉はずっと黙っていた。本郷はこの本性に気づいていながら、それでも帯ちゃんを愛していたのだろうか。どうしようもない恋愛は漫画に留まらず現実にも存在するのだ、と現実が言っている。現に帯ちゃんも、本郷も、そんな恋をしていたのだから。
「私の方が美人で器用です!それでも、それでも栞さんが良いんですか?」
赤哉の息を吸う音が聞こえた。同時に私の肩を抱く力も少しだけ強くなって、赤哉の体温が一層近くで感じられた。
「栞が何もしなかったと言うなら、それは俺も同じだ」
赤哉の声は随分と落ち着いていて、迫力があった。子どもを諭す怖い大人の様で、私は一年生の時の、本宮先生の授業を思い出した。クラス全体が騒がしくて、授業にもならなかったあの一瞬。本宮先生が静かに、“帰ったら?”と言ったの。
「栞は俺の立場を考えて、ずっと黙っていてくれたんだ」
帯ちゃんはその場に崩れ落ちて、俯いたまま動かなくなった。そして赤哉は、帯ちゃんにとどめを刺した。
「栞の優しさは誰にも否定させない。君よりもずっと栞の方が、俺には素敵に見えるよ。見た目も、中身も」
私も泣き崩れそうだった。赤哉の私への想いが、こんなにも温かくて、大きくて、嬉しい。私が蓋をしようとしていた気持ちを、赤哉も持っていたんだと思うと、今だけは、思い上がってもいいかな、と、そんなことを考えてしまう。私以外に赤哉の隣は居ない、私こそが、赤哉の相手だと。
「……ただ俺は、君の社交性も否定はしないよ。活かし方は考えものだが」
行こう、と言って私の手を引いた赤哉は、私よりもずっと大人で、気の回る格好いい人に見えた。否、見えたのではなく、そうなのだ。帯ちゃんを傷つけたままにしないのも、私をはっきり擁護するのも、全部赤哉の優しさだ。私はとんでもない大物を好きになってしまったということに、改めて気づかされて、ちょっと気落ちしたことは、一生の秘密である。
放課後、珍しく互いに業務の無かった私たちは、連れ立って歩いて、懐かしい場所を巡った。中学の通学路、子どもの頃に遊んだ公園、もうなくなってしまった駄菓子屋の跡。本郷と帯ちゃんと偶然会ったゲームセンターも。
「栞」
人通りの無い通学路の抜け道で、赤哉は私をぎゅうっと抱きしめてきた。私も抱きしめ返すと、
「ずっと傷つけてすまなかった。……何もしなかったのは俺の方なのに……」
珍しい弱音を吐きだした。赤哉は弱りきってしまって、二度と自分では立ち上がれないような、そんな雰囲気を醸していた。
「自意識過小は私の専売特許だから!赤哉が萎れてたら私はもっと萎れちゃうよ」
私が笑うと、赤哉も笑った。
「私を見つけるのは、赤哉の仕事だよ」
赤哉は私を離して、
「そうだな」
と言った。そのまま赤哉は私の手を取って歩き出した。赤哉はいつにもまして堂々としていて、私はいつになく自信に満ちていた。




