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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
白川栞は学園のマドンナである
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10話 悲劇のマドンナ、白川栞

 近頃、周囲の様子がおかしい。今まで仲良くしていた者同士が離れていったり、縁もゆかりも無かった奴らが仲良くしていたり。それは、三大マドンナの一人、白川栞と、“BOOKS FIVE”のリーダー格、本田赤哉が疎遠になったことと関係があるのだろうか。それは、三大マドンナの一人、白岩帯と、“BOOKS FIVE”の一員、本郷緑音が疎遠になったことと関係があるのだろうか。

「あ」

噂をすれば、白川先輩。九月六日、水曜日のことである。

 二学期の“BOOKS FIVE”スケジュールは、水曜日がカウンター業務、金曜日が一般業務。つまり今日は、白川先輩の嫌いな曜日、という訳だ。好きでもない本を、俺たち“BOOKS FIVE”の為だけに借りたり返したりする女狐が、白川先輩は嫌いなのだそうだ。

「ねぇねぇ先輩、なんかあったんでしょ」

先輩の嫌いな女狐が消えた後の図書館は、無駄に静かで、居心地が悪い。きゃあきゃあと騒ぐ阿呆な女でも、声を出していてくれた方が良い。自分の心臓の音とか、誰かの呼吸の音とか、余計な音が聞こえてしまって、苦しくなるから。

「あったら何?……二本木が解決してくれるの」

いつもよりずっと刺々しい声をしていた。こんなに心を乱されている先輩は初めてで、どんな風に扱って良いのか、わからない。

「……俺に解決は無理ですよ。だって先輩の問題だし」

先輩の手から蔵書を奪って、一番高い棚に戻すのは、これが何度目になるのだろう。そしてわざわざ生意気な口を利くのは、もう何度目になるのだろう。

「二本木って、本当に生意気」

先輩は今にも泣きだしそうだった。先輩の中の黒い何かを早いところ取り除かないと、大変なことになる。俺に突きつけられた事実はそれだけだった。いつも近くにいる癖に、赤哉さんは何をやってるんだ。栞、栞って言う癖に、こういう時はほったらかしなんて。

「でも俺は放っておかないです。……俺知ってるから。先輩が強がりなの」

今日初めて、先輩と目が合った。先輩の目には涙がいっぱい溜まっていた。

 そんな台詞は好きな子の為に取っておきなさい、と怒られた後に、目一杯泣かれた。先輩を初めて抱きしめた。見た目よりずっと痩躯で、思っているより柔らかくなかった。

「何してんの阿呆」

胸板を思い切り叩かれたから、もっと思い切り抱きしめ返してやった。同時に狡猾だと思った。弱っているときに漬けこもうとしている。でも、そうでもしないと先輩は気づいてくれないだろう。俺がどれほど、先輩が好きか。

「だって泣いてる顔、見られたいんですか?先輩」

先輩が抵抗を止めた。小さく馬鹿と呟かれた気がしたが、はっきりとは聞き取れなかった。もう他の誰も居なくなった、図書委員の為だけに用意された作業スぺースでのことだった。

 先輩が泣き止んだと思ったら、唐突に近頃の人間関係について語り始めた。それは俺の知りたいことでもあったし、別に構わなかったのだが、話すことで先輩の心は傷つかないものかと、心配でもあった。

「帯ちゃんは赤哉が好きなの。本郷のことなんかこれっぽっちも興味なくてね」

白岩帯と本郷緑音と言えば、学内一仲良しのお熱いカップルだと聞いていたが。やっぱり見た目の良い女はろくでもない中身をしているのだ。

「この間ね、帯ちゃんに赤哉が欲しいって言われたの。それで本郷のこと問いただしたの。どういうつもりだって」

先輩は時々、優しすぎる。自分のことなんかほったらかして、自分の近くにいる誰かに世話を焼いてしまうのだ。そして自分に、何かを課してしまって、自滅するんだ。きっと今回のことだって、そういうことなんじゃないのか。緑音さんのことを、守ろうとしたんじゃないのか。

「赤哉に近づく道具にしようとしただけだってさ。……私帯ちゃんのことひっぱたこうとしたの」

何故、そんな風に笑うのか。痛い目を見たのは先輩だし、緑音さんじゃないのか。

「本郷が止めたんだよ。……“それでも俺は帯が好きだ”ってさ。……もう私、どうしたらいいのか分かんなくてね」

絶対に、赤哉さんは先輩が好きで、先輩は赤哉さんが好きなんだ。それは、赤哉さんと先輩の間柄を知っている人なら、誰しも察している筈だ。なのに、先輩は白岩の為に、赤哉さんと距離を置いたって言うのか。やっぱり先輩は優しすぎる。今なら俺は、先輩の隣に立てるのではないのか。先輩の添え木になれるのではないか。

「白岩帯のこと、ちょっと見守ってやれば良いと思う。どうせ白岩じゃ、赤哉さんとは釣り合わないから」

先輩は驚いた様な顔をしていた。さっきまでの暗い感じは、無くなっていた。

「その間に悲しい思いしたり、辛い目に遭ったりしたら、俺が盾になります。……俺、先輩のこと好きだから、裏切らないです」

先輩は俺にデコピンをかましてきた。いつも赤哉さんが先輩にやっている奴だ。先輩は笑顔になった。俺が笑顔にしたのだ。

「ちょっと二本木のこと見直したかも。……ありがとう、二本木」

すっくと立ちあがる先輩の姿は、もういつも通りの先輩なのだった。基本的に表情は変わらないけど、情に厚くて、純粋な心を持っている、いつもの白川栞。きっと明日からは大丈夫だと思わせてくれるくらい、先輩の笑顔は眩しかった。

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