悪徳領主と物語の終焉
さて早い物で、今話でコラボ企画も完結です。
最後までお楽しみ下さい(*´ω`*)
今まで以上の速度による攻防に加え、『影の下僕』による手数も加わり、形勢はこちら側へと傾き始める。
だが、『影の下僕』は私の意思によってしか動かないため、気を抜く事はできない。
自身の腕が別に何本もあるような物で、気を抜けばすぐに動きが単調になってしまう。
そうなってしまえば、サキネ程の実力者であれば、簡単に状況を打破してくる事だろう。
そうして、一切気を緩める事なくサキネを攻め立て、遂にその刃がサキネに届き始めた。
今までは紙一重で躱されていたが、余裕が無くなってきたのか、紙一枚分だけこちらの攻撃が届くようになったのだ。
そのため、サキネの服には所々に裂けている箇所見られる。
「ちょっとファ太郎!服、これ、どうしてくれんのよ!誰が縫うと思ってんの!?」
「さぁな。少なくとも私では無い事は確かだ」
服の心配をするとは、意外と余裕なのであろうか?
まぁいい、このまま気を抜かずに追い詰めていくだけだ。
そう思い、気を引き締めていると、予想もしていなかった所から攻撃が飛んできた。
「てんめぇー、何してくれとんじゃぁぁい!!」
突然飛んできた氷の弾丸に、思わず距離を置く。
それは、完全に下したと思っていたヒイロ殿からの援護射撃だった。
……しまった!!
一旦意識がヒイロ殿に向いてしまった隙を突かれ、サキネが攻勢に出る。
慌ててそれに対応しようとするも、絶妙なタイミングと間でヒイロ殿から魔術が飛んでくる。
ヒイロ殿は私達のスピードには付いてこられていないはずだというのに、何故介入ができる!?
サキネと私の戦闘は、刹那の時を刻む物で、既に常人の目に捉えられる物ではない。
ヒイロ殿はその技術やセンスにこそ目を見張る物があるが、こと直接戦闘においては並と言わざるを得ない。
しかし、現に彼は私達の動きを捉えているかのように、サキネのサポートを行っている。
…………クッ、そうか、私の速度は捉えられなくても、森羅万象の頂点の動きには合わせられるという事か。
言われて見れば、ヒイロ殿は典型的な後衛タイプであり、単独で戦闘を行うには不向き。
であれば、元々、サキネという強力な前衛がいる事が前提の戦闘スタイルなのだろう。
…………つまり、今のこの状況が、二人の本来の闘い方だという事か!!
『影の下僕』により、手数が二倍になり、一時は優勢を保ったものの、ヒイロ殿の出現により盛り返されてしまった。
完全な膠着状態。
負ける気配は感じられないが、このまま続けていても、押しきれるビジョンが浮かんでこない。
だが、森羅万象の力を得るためには、この二人を力で捩じ伏せねばならない。
その事が徐々に私を焦らしていき、遂に我慢の限界へと至る。
「ええい、小賢しい真似を……大人しく私の物になればいいのだぁぁ!」
感情に任せて『影の下僕』振り回し、叫び声を上げた。
サキネは、暴れ回る『影の下僕』から一旦距離を取ると、私の言動に呆れたように答える。
「あのね、ファ太郎。天然純度100%のアーネである私に憧れる気持ちはわかるけど、こればっかりは持つ者と持たざる者、つまり勝ち組と負け組み……それは生まれながらに決まっているのよ!!」
サキネのその言葉に、私は愕然とする。
「なん……だと!?……では、私は一生森羅万象が得られないというのか!!」
まさか、森羅万象の力が生まれながら物だとは思ってもみなかった。
これでは、より高みに昇るという私の思惑が、根本から崩れてしまう。
……クッ、とんだ道化ではないか。
相手を屈伏させてまで求めていた物が、そもそも手に入らぬ物だったとは…………
「そんな落ち込まなくても……ほら、にゃんにゃん系の店にいってお金払えばそういうプレイができるかもしれないし、ドンマイ!」
にゃんにゃん系などと意味不明な事を言われ、今まで戦っていた相手にすら馬鹿にされる始末。
何という屈辱!
かつて、これ程までの屈辱を受けた事があったであろうか!?
ファーゼスト辺境伯としてその名を轟かせた私が、このまま虚仮にされたままで良いのか!?
それならばどうするか、どうすれば良いか!
「ならばもう良い!!手に入らぬ物ならば、それは元々私には不要だったと言う事よ!」
そう、ならば森羅万象など必要ない!
「もう、遊びは終わりだ!貴様を捩じ伏せ、森羅万象よりも私の方が優れているという事を証明してやろう」
そのような物よりも、王国貴族たる私の方が上であると、知らしめてやればよいのだ!
「はぁぁぁぁぁ? 実アーネどころか義アーネもいないくせに自称アーネより優れてるとか、へそで玉露が美味しく蒸せちゃうわ!」
実アーネ?義アーネ?
一体何を言っているのだ。
今更そのような言葉で、私が惑わされると思うなよ!?
「ほざけ!先に言っておくが、これから繰り出す技は、先程までの物とは次元が違う。負けを認めるなら、今の内だぞ?」
これから繰り出すのは、我が王国の建国の英雄が使ったとされる秘奥中の秘奥。
「煽り方が足りないんじゃないの~?もしかして~ピッチャーびびってる~?」
それは、ボロボロになった古文書から、その断片を拾い集めて現代に甦らせた、私の奥の手。
「親切からの忠告だ。手加減はできん、死んでも知らんぞ」
その奥義は、一度発動すれば、受ける事も回避するも出来ない必殺の剣技。
いくら森羅万象が手に入らないとはいえ、サキネは無くすには惜しい人材だ。
「あら、死の宣告?残念ね、私はどっかの神様と違ってボス耐性持ってるから即死技とか効かないのよ!」
だが、サキネを下すためには、この技以外では不可能だ。
その事が、残念でならない。
「言ったな?」
私は雑念を捨て、魔力を開放して身体と影に力を注いでいき、今まで以上に存在感を増した『影の下僕』を身体に纏わせていく。
次第に影は人の輪郭を形取り、私の動きを追従する『影の従者』へと姿を変えた。
「臨・兵・闘・者……」
奥義に対応する文言を唱えて、精神を統一する。
奥義は、神速を用いた、九方向からの同時突進斬撃。
しかし同時に九つもの斬撃放つなど、常識で考えれば不可能。
実際、私の力量を以てしても二つが限界であった。
「……・皆・陣・列・在……」
だが私は、ある発想の転換により、この奥義の再現に成功した。
一つの刀で足りなければ、両手を使えば良いではないか。
両手で足りなければ、腕を増やせば良いではないか。
私はそれを『影の従者』にて実現させたのだ。
今、私の身体には、闇魔術で創られた二本の腕が存在し、自身の腕と合わせた四本の手には、影から創られた刀が、それぞれ握られている。
一つにつき、二つの斬撃。
二つの腕から、四つの斬撃。
二人分の腕から、八つの斬撃。
そして、残る最後の斬撃は…………
「……・前!!」
足りない分は、気合いで補えばいい!!!
私は最後の文言と共に目を見開き、脳が焼き切れそうな程の情報を処理しながら、サキネへと駆け出す。
奥義の名は『早九字』。
それぞれの印に対応する斬撃を同時に繰り出す荒業。
――即ち
臨:唐竹
兵:袈裟斬り
闘:右薙
者:右切上
皆:逆風
陣:左切上
列:左薙
在:逆袈裟
前:刺突
それは、一度放たれてしまえば防御・回避する事を許さない必殺の剣技。
もしも、この技を打ち破るには、使用者の筋力を上回る者が、同様に九つの斬撃を同時に繰り出すか、もしくは…………
私の刃が相手に届こうかという一瞬、サキネの目が大きく見開かれる。
その瞬間、私の体を衝撃が貫いた。
気が付けば私は宙を舞っており、何が起きたのか分からぬまま、空中で体勢を整え、何とか地面に着地する。
バカな……九方向からの同時斬撃を破るなど…………
『早九字』は一度発動してしまえば、破る事はほぼ不可能。
それを攻略するならば、繰り出された『早九字』の発動速度を超える『超神速』の一撃でなければならない。
それではまるで……まるで、王国に名前のみ伝わる、あの失われし伝説の秘技『あ○かける○の閃き』ではないか!?
その伝説の秘技を修得しているサキネとは、一体何者だ……
未だに闘志の衰えぬサキネを睨みつけ、その正体を探る。
その時、私の中で一つの仮説が浮かび上がり、そしてパズルのピースが埋まっていくかのように、答えが埋まっていった。
そして、全てが繋がった。
よく見れば、サキネも黒髪黒目であり、彫りの浅い顔立ちをしている。
それはつまり、我が王国の建国の英雄の血筋であるという事である。
訳有りの出自をもったヒイロ殿が、命を賭けて守る存在。
そして、森羅万象の頂点という、並々ならぬ肩書。
極めつけは、『あ○かける○の閃き』が一子相伝の秘技であるという事実……
それらから導き出される答えは一つ。
それは、サキネが建国の英雄の直系の子孫であるという事だ。
私は今、王国の歴史そのものと相見えているという事になる。
その事実に辿り付いた時、私には勝負の行方など最早どうでも良くなっていた。
伝説の秘技の、正当なる後継者と刀を合わせた。
その事実だけで、心が満たされるようだ。
「クックックッ……」
「フッ、フフフ……」
自然と笑いが込み上がる。
「フハハハハ……」
「フハ、フハハ……」
サキネも同じ気持ちなのか、二人の笑い声が重なる。
「「アーハッハッハッハ!!」」
これ程愉快な気持ちは、いつ以来であろうか。
今ならば、森羅万象の事も、素直に認める事が出来そうだ。
「森羅万象とは素晴らしいものだな」
「それが分かるって事は見所あるわね。精進なさい。」
私達は、固く手を結び、お互いの健闘を讃える。
現役の貴族たる私に対し、上から目線なのは気になる所だが、建国の英雄の子孫であれば、それも致し方ないか……
「……まぁよい。しかし、まさかあの伝説の技を再現するとは、恐れ入った」
「ファ太郎こそ、あの人をリスペクトするなんてやるじゃない!」
「むっ、あの人物の事を知っているのか!?」
建国の英雄が存在したのはもう何百年も昔の事だ。
それなのに、サキネの口振りはどこか親しげで、詳しい事まで知っている様子。
「え?あったり前じゃん。常識よ、じょーしき。むしろ知らない人なんているの?」
ひょっとしたら、こちらの世界と私達の世界とでは、時間の流れが違うのかもしれない。
「いや、私は、擦りきれてボロボロになった書物でしか知らん。だから、所々分からない部分があるのだ」
「えっ、じゃあちゃんと読んだ事無いの!?勿体無い、ファ太郎、あんた絶対、人生損してるよ!!」
「やはり、そうか……」
建国の英雄の話は、王国中で親しまれており、その逸話の多さもあって専門の研究者がいる程だ。
だが、現存する資料が少ないため、研究は難航していると聞いている。
「よし、ファ太郎、今から飯食いに行きましょ!そこで、あの人の事をみっちりと教えてあげるわ!!」
何という僥倖だろうか。
直系の子孫から、しかも世界を渡る以前の、英雄の話を聞けるなど、またとない機会である!
「よかろう、ならば支払いは私が持つとしよう」
それに、これ程の森羅万象の使い手と友誼を結べるのであれば、金貨の一枚や二枚安い物だ。
「おっ、さっすがファ太郎、話が分かるわね。朝まで語るから、覚悟しなさいよ?」
「フン、誰に物を言っている、臨む所だ!!」
挑発するような笑みを浮かべるサキネに、こちらも不敵な笑みを返す。
「「アーハッハッハッハ!!」」
自然と笑いが込み上がり、二人分の笑い声が辺りに響き渡った。
「二人とも大丈夫か!?」
そこへ、何やら物々しい格好をした子供が現れる。
「おっ、エルエルじゃん。どうしたの完全武装なんかしちゃって?」
「モブ顔の女を奴隷のように連れている貴族が二人を追っているらしいと聞いたのだが……」
この子供はエルエルと言うらしく、どうやらサキネの知り合いのようだ。
「え?何言ってるの?ファ太郎は、心の友と書いて心友よ、シンユー。つまりマブよマブ、分かる?」
サキネはそう言って、私の事をエルエルとやらに紹介した。
サキネに慣れ慣れしい態度を取るこの子供は一体何なんだ?
それに、貴族たる私を前に頭を垂れぬとは、教育がなっておらん。
「……なんだこの乳臭い幼女は?」
「この乳臭い幼女はおばあちゃんよ」
私の問いに、サキネから不思議な答えが返ってくる。
「幼女なのに、おばあちゃんなのか?」
「そうよ、幼女なのに、おばあちゃんよ」
…………この世界特有の謎かけか何かだろうか?
よく分からん。
「つまり乳臭いBBAか」
「つまり乳臭いBBAね」
適当に話を合わせていると、肯定の返事があり、どうやら間違っていなかった事が伺える。
しかし、乳臭いBBAとは、これ如何に……
「どけ、ムラサキ、そいつぶっ殺す」
突然、エルエルから凄まじいまでの殺気が吹き出し、私を包み込んだ。
そして、私が反応しきれない程の速度で超広範囲の魔術が繰り出される。
目の前が真っ赤に染まり、そこで、私の意識は途切れる事になった。
「…………ハッ!!」
思わずベットから飛び起きる。
冷静になって周りを見回せば、そこはいつもの私の寝室。
まだ明け方前なのか、部屋の中は薄暗いが、見慣れた自室を私が見間違える事はない。
びっしょりとした寝汗が服に貼り付き、その気持ち悪さを拭うように、水差しから水を一杯注いで飲み干す。
今までのは一体何だったのだろうか?
夢と一言で言ってしまえばそれまでだが、妙にリアルで生々しい、質感のある不思議な夢であった。
「森羅万象、そして伝説の秘技か…………」
いまだに手に残る感触を確かめながら、私は一言呟いた。
ふと、視線を上げると、机の上に置いてある書物が目に入る。
確かあれは、私が寝る前に読んでいた物のはずだ。
本のタイトルは確か…………
『あねおれ!~姉と弟の楽しい異世界生活~』
ヒイロ殿やサキネに良く似た姉弟が登場する、異世界冒険物語だ。
裏側も同時完結!
『あくおれ!~悪徳領主と弟の楽しい異世界生活~』
http://ncode.syosetu.com/n5495dz/
そして、今回コラボした藤原ロングウェイ先生のコメディ作品は以下の通りです。
『あねおれ!~姉と弟の楽しい異世界生活~』
http://ncode.syosetu.com/n3165cd/
全191話 完結
『あねおれファンディスク!~姉と弟のまだまだ続く楽しい異世界生活~』
http://ncode.syosetu.com/n0306db/
好評連載中
今回のコラボで興味が湧いたら、是非お読み下さい(*´ω`*)
(これで姉萌え人口がまた増える事だろう……クックックッ、フハハハハ、アーハッハッハッハ!!)