悪徳領主と受付嬢
『ルドルフ』ファンの皆様、ついカッとなってこの作品を企画しちゃいましたww
『あねおれ』ファンの皆様、初めまして!
私も、『あねおれ』ファンとして、もっと『あねおれ』が読みたいと思って今回の企画を立ち上げました。
予想以上のボリュームになってしまったので、ゆっくりと楽しんで頂ければと思います(*´ω`*)
気が付けば私は、知らない街の入口に立っていた。
「どこだ、ここは?」
一体何故、私はこんな場所に立っているのだろうか?
辺りを見回してみるが、私の寝室はおろか屋敷の影すら見当たらない。
「誰かいないのか?」
そう声を掛けてみるも、それに応える侍従の声は無く、ただ道行く人々の奇異の視線を集めるばかりだった。
昨夜は確か、献上された書物を読んで、それから眠りについたはずだが、どういう事だ?
どこか記憶が曖昧であり、頭は霞がかかったようにはっきりしない。
私は、寝室で寝ていたはずでは?
私は、いつの間に外に出たのだ?
何が何やらさっぱり分からないが、どうやら私は、この場に独りでいるらしい。
とにかく、このままここで立ち尽くしていてもしょうがないので、街の中で情報を集めてみる事にしようか。
そう思い、私は街の中を散策する事にした。
しばらく街の中を歩いてみるが、やはりというか、街並みに見覚えはない。
だが、良く見ればあちこちに『カタカナ』が用いられた看板が掲げられているではないか。
『カタカナ』は我が王国の、建国の英雄が使用したとされる古代文字だ。
一説によると、建国の英雄は異世界から転移してきたとされており、私はもしかしたら、気付かない間に異世界に迷い込んでしまったのではないだろうか?
そう考えれば辻褄が合う。
建国の英雄達が世界の壁を越えてやって来る事ができるなら、反対に、私が世界の壁を越えても何ら不思議ではない。
もしここが、建国の英雄達の故郷だと言うのなら、『カタカナ』が日常的に利用されている事も自然な事である。
それにしても、私自身が異世界転移をするとは、中々感慨深い物があるな。
建国の英雄達も、世界を越えた時はこのような気持ちだったのだろう。
そう言えば、その時の気持ちを表した言葉が、古文書に残っていたな。
ふむ、確か……
「シラナイ、テンジョウダ」
何を意味する言葉かは分からないが、その言葉を発すると、過去の英雄達と同じ目線になれたような気がして、どこか込み上げてくるものがある。
さて、一通り街の中を見て回って分かった事は、やはりここが異世界である可能性が非常に高いという事である。
そして、何よりも重要なのは、ここには執事も侍従もおらず、何をするにしても、自分でしなければならないという事だ。
例えここが異世界だったとしても、貴族たる私が、身の回りの事を自分でしなければならないなど、許される物ではない。
早急に下僕を探さなければ。
そう思っていると、丁度良く『ボウケンシャギルド アルゼンシブ』と書かれた看板が目に入る。
冒険者ギルドか……
幸いにも、懐の中には財布が残っており、一流の冒険者を雇う程度には金がある。
金で話が付くのであれば、それに越した事はない。
そう考え、私は冒険者ギルドの中に足を踏み入れた。
中に入ると、やはりと言うか何と言うか、雑多としており、余程暴れる冒険者がいるのか、壁や床には所々に補修の跡やへこみが見られる。
机やテーブルに至っては、どれもこれも傷だらけだ。
こういった様子を見ると、冒険者達が如何に粗暴な生物か、嫌でも理解させられる。
どこの世界でも、冒険者という人種に、それほどの差異は無いようだ。
「フン、小汚い所だな」
そう呟き、受付へと足を進めていると、何人かの冒険者達がジロジロと視線を向けて来るのを感じる。
貴族たる私に不躾な視線を送るとは良い度胸だ。
良いだろう、死にたい奴から掛かってくるといい。
そう殺気を込めて一睨みすると、皆慌てて視線を逸らし、誰一人として私と目を合わせようとしない。
フン、揃いも揃って腰抜けばかりか。
社会の底辺で生きる蛆虫のくせに、最低限の意地も張る事ができないとは……
この様子では、まともな人材は期待できそうもないな。
私は、背景と化したゴミから視線を切らし、受付カウンターへと向かう。
すると、今まで誰の姿も見えなかったのに、いつの間にか一人の受付嬢がそこには立っていた。
「こんにちわ!本日はどのようなご用件ですか!?」
むっ!?一体いつの間に現れたのだ!?
私に気配を悟らせないとは、何者だ。
一見すると、どこにでもいそうな受付嬢だが、あまりにも普通過ぎて気が付かなかった。
……この受付嬢、只者ではない!
そういえば、聞いた事がある。
一流の密偵などは、その地域に溶け込むために、あえて普通である事を装うらしい。
なるほど、そう考えてみれば、この、ふと気を抜くと背景に溶け込んでしまいそうな程の、普通の雰囲気も納得ができる。
おそらく、この受付嬢が普通である事に違和感を持つ者など、この街にはいまい。
私は、受付嬢の普通さに感心し、気を取り直して本題に入る。
「おい、この街で一番の冒険者を呼べ」
「この街で、ですか?えっと、ご用件は?薬草採取ですか?それとも迷い犬探し?」
さすがは受付嬢、この私を前にしておきながら、対応が普通だ。
だが、今は貴様の普通さに付き合っている暇は無い。
私は、早急に下僕を用意する必要があるのだ。
「聞こえなかったのか?私はこの街で一番使える冒険者を呼べと言っているのだ」
懐から金貨を一枚取り出し、カウンターの上に放り投げる。
ここが異世界だろうが何だろうが、黄金の価値に変わりはあるまい。
「ブフォ!?います!いますよ~。ヒイロさんっていうアルゼンギルド専属のおすすめ冒険者が!」
案の定、受付嬢は金貨の光に目を輝かせ、口をなめらかに動かし始めた。
「それで?」
「ヒイロ=ウイヅキさんという方でこの街で一番の魔法使いです!攻撃・防御・回復なんでもござれのオールラウンダーな上、冒険者なのにも礼儀正しくて文字の読み書きや数字にも強くて専門職真っ青です!」
ほう、魔法も使えて教養もあるとなれば、冒険者にしておくには惜しい人材だ。
掃き溜めのようなギルドだと思っていたが、中には逸材と呼ばれる者がいるらしい。
それに、この受付嬢が、ウイヅキと呼んでいた事も気になる。
「……ウイヅキ?貴族なのか?」
名字があるという事は、その冒険者はウイヅキの名を冠した領地を治める一族だという事に他ならない。
ヒイロと言う冒険者は、貴族の一員でありながら、何故、冒険者などに身をやつしているのだろうか?
「実は、どこぞの大貴族の隠し子だって噂がある人で……秘密ですよ?」
何やら訳ありの様子だが、そのような男であれば、立ち居振舞いも問題あるまい。
聞けば、貴族としての教育を受けているようなので、何かと安心して任せられる事だろうし、そこらの冒険者のように粗野で下品な言動に頭を痛めずとも良さそうだ。
「ほう、そこまでの男か……いいだろう、その男を紹介しろ」
「えっと、今日は確か西門からちょっといったところにある岩場で訓練してるとかしてないとか?」
「ならばそいつの元まで案内しろ、いいな?」
そう言って、懐から追加の金貨を一枚取り出し、カウンターの上の金貨に重ねて受付嬢へと差し出す。
「喜んでー!あ、お荷物とかあったらお持ちしますよー!?」
受付嬢は、不自然な程に自然な動作で金貨を手に取ると、そのままカウンターから出て、私を先導し始める。
金貨が受付嬢の手の中でキラリと光り、受付嬢の目がその光を反射してギラリと光った。
しばらくは私の前を歩く受付嬢だったが、歩いている内に段々と距離が近くなり、今では私の左隣を歩いていた。
「あ、あのー、もしよかったらお名前を聞かせていただけたらなって!テヘ!」
むっ、そう言えば冒険者ギルドに依頼を出しておきながら、まだ名前を名乗っていなかったな。
私とした事が、ついうっかりしていたようだ。
「……ルドルフ=ファーゼストだ」
「まぁ、素敵なお名前ですね♪」
私がそう名乗ると、受付嬢は私の名前を褒め、また数センチほど距離を詰めてきた。
……はっ、しまった!
この女は、ただの受付嬢ではない、一流の密偵もかくやという程の、普通の受付嬢。
ついうっかり名乗ってしまったが、今のやりとりだけで、私が貴族である事も、ファーゼストの地からやってきた事も伝わってしまった事だろう。
この女、男に媚びを売るメス豚のようなフリをしながら、私が何者かを探るつもりだ。
良く良く考えれば、受付嬢が自ら案内を買って出るなど不自然極まりないのだ。
受付で、あっさりと金貨を支払う私を警戒し、情報を得ようとしているに違いない。
「どこからいらっしゃったんですか?王都のほうですか?実は私の実家も王都の方なんですよー!奇遇ですね!」
やはり、間違いない。
一見、共通の話題を見出す事でお互いの距離を縮めようとする、恋愛の駆け引きのように見えるが、前提条件が異なれば、また違った意味が見えてくる。
先程私は、自分がファーゼスト領を治める一族のルドルフである事を伝えてしまったが、当然、次に出てくる疑問は、それがどこの地かという事だ。
それが、王都の近くにあるのか、それとももっと遠くにあるのか、はたまた外国か……
どの辺りに領地があるかが分かれば、その貴族がどういった派閥に属しているか、どのような立場にあるか等、得られる情報は非常に多い。
この受付嬢は、思った以上に諜報員として優秀なのかもしれない。
「ルドルフ様は独身ですか?あ、ちなみに私独身なんですよお揃いですねこう見えても料理が得意なんですよーあ、今食べてみたいとか思いました?どうしよっかなー?」
だが、いくら諜報員として優秀だとしても、この受付嬢は一つ大きな勘違いをしている。
それは、私が、何の思惑も持っていない、ただの一貴族であるという事だ。
いくら探った所で、企んでいる陰謀などありはしない。
受付嬢にとっては、距離を縮めて情報得るための行動なのかもしれないが、今の私にはとっては、発情した平民が擦り寄ってくるだけの、不快極まりない行動にしか見えない。
「ルドルフ様がどうしてもっていうなら手料理をご馳走することもやぶさかではないと言いますかーこれから私の部屋に遊びにきちゃいますかとか言っちゃいますけど誘ってるわけじゃなくて~」
諜報員に無遠慮に探られるのも不愉快だが、平民ごときが、貴族たる私と肩を並べて、対等な口を利いている事は、それ以上に我慢ができない。
一流の受付嬢と言えども、貴族との距離の測り方を間違えるとどうなるか、この機会に教授してやるとしよう。
私は唐突に振り向き、受付嬢の顔のすぐ横を狙いながら、魔力を込めて拳を突き出した。
『ドゴン』と大きな音を立てながら、拳は民家の壁に見事に埋まり、その場に受付嬢を縫い止める。
「きゃぁ!」
短く悲鳴が上がるが、構わず反対の手で『グワッシ』と顎を掴み、強制的に顔をこちらに向けさせる。
「あっ!」
受付嬢は、突然の私の行動に恐怖したのか、ぎゅっと目を閉じてこちらを見ようとしない。
今更後悔したとしてももう遅い、貴族たる私に、どのような言動を取っていたか、その報いを受けるが良い!
「喚くなメス豚!受付嬢の分際で気安く声をかけるな」
「え?」
顎に添えた手に、魔力を込めながら、ゆっくりと万力のような力を込めていく。
すると、どこからともなくミシミシと軋んだ音が聞こえ始めた。
「いはいいはい※℃*&#%ぃー!ちょ、%&*#!とても*※#&℃ツです!」
受付嬢が、何やら騒音を喚き散らし始める。
ふん、せっかく私が忠告してやっているというのに、それを大声で遮るとは、なんたる無礼であろうか。
「それとも何か?このまま顎から下を切り取って、物理的に黙らせてやろうか?どうだ、言ってみろ」
顎を掴む手をそのままに、反対の手で腰の刀に手を伸ばし、いつでも切り取れるように、鯉口を切る。
「ノー!ノーであります、サー!」
そこまでして、ようやく受付嬢は理解したようで、喚くのを止め、畏まって私に応えた。
ふん、始めからそのような態度でいればいいのだ。
諜報員として、要らぬ詮索をするからこのような結果になる。
平民は平民らしく、よけいな事を考えずに貴族の言う事を聞いていれば良いのだ。
「分かったら、黙ってさっさと歩け!!」
私は、無学な受付嬢に躾をするために、刀を鞘ごと振り上げ、そのまま臀部へと打ち下ろす。
「ヒギィィィィ!」
すると、受付嬢の口から、変わった鳴き声が上がるではないか。
クハハハハハハ!
なんだ今の声は?まるでメス豚そのものではないか。
ギルドの受付嬢なんぞよりも、家畜小屋で働いた方がよっぽどお似合いだ。
道行く人々は、受付嬢の姿を見ると、見世物でも見るような視線を投げ掛け、続いて、関わり合いたくないとばかりに、目を逸らしていく。
そんな中、受付嬢は、ギルドを出た時とは打って変わった重たい足取りで、私の前を歩き始めた。
時折、ビクビクしながらこちらを伺う様子が見られ、時々ブツブツと独り言を呟いているのも聞こえる。
「メス豚の分際で人間の言葉をべらべらと喋りおって。生意気だとは思わんか?どうだ、ほら何とか言ってみろ」
耳障りなため、その度に刀の鞘を叩きつけるのだが、一向に受付嬢は黙る気配を見せない。
「ひぃぃ!ぶひぃ!ぶひぃ!」
ただ黙って案内する事もできないなんて、とんだ受付嬢だな。
やれやれ、一体、私にあと何回叩かれれば気が済むのやら。
「ふはははは!うるさいぞメス豚、黙って歩かんか!っそら!!」
私は仕方なく刀の鞘を振り上げ、受付嬢をもう一度叩く。
「ぶっひぃぃぃぃ!」
受付嬢の鳴き声が、遠く、どこまでも響き渡っていった。
今回は裏側を、藤原ロングウェイ先生が書き下ろして下さっています。
『あくおれ!~悪徳領主と弟の楽しい異世界生活~』
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