気がついたら濁っていました
祝ブックマーク数900!!!
翌日、俺たちは勇者たちのもとへ向かった。どうやら彼らは昨日のうちに塔の中へ入っており、そこで一夜を過ごしたらしい。塔につき、門番をしている兵に事情を話すと確認をすると言った。無事に確認が取れると兵士は俺たちを案内し、エルティナや勇者たちが待機している部屋へと連れて行ってくれた。
部屋に入るや否や、歩、横山、それにルネがこちらへやって来る。
「何、先に行ったんだよ。」
「そうだよ。また、会えなくなるかと心配だったんだよ。」
「いや、まあ俺はそこまでは心配してねえが。」
「え?でも、木下くん言ってたよね?エルティナさんに『何でそんなことを許可したんだ!もしも何かあったらどう責任を取るつもりだ!』って珍しく怒鳴るからみんな驚いてたよ。」
「ちょっ!横山さん!」
「アスモデウスさん、久しぶりだね。」
恥ずかしがる歩に、笑顔の横山、アスモデウスに駆け寄るルネ。それぞれが思い思いのことを口にする。だからこそわかる。俺たちは大切に思われているのだと。それに気づいた俺は嬉しかった。
「ん?何、ニヤついてるんだ?」
「気のせいだろ。」
どうやら顔に出ていたらしい。気をつけよう。
俺は他のメンバーにも目を向ける。すると、先生を含む、数名がこの場にいないことに気づいた。
「なあ、人が少ない気がするんだが。何処にいるんだ?」
「エルダー王国だ。エルティナさんがわざわざ全員が来る必要はないって希望者だけが来たんだ。だから、先生や数名の生徒は残った。」
「成る程な。」
少し子供っぽいと思っていたエルティナだがしっかりと気遣いはできるらしい。俺は思わずエルティナの方を見てしまう。エルティナもこちらを見ていたようだ目があった。
「何よ、その意外に気遣いが出来るんだな…って言う目は。」
「よく分かったな。流石はエルティナだな。」
「よくもそこまで王女を馬鹿に出来るわね。流石、イヅナね。」
「まあな。」
一瞬俺を見る目が鋭くなったが、これ以上何かを言っても無駄だと思ったのか。目を逸らしてしまった。
そして、その隙をついてくる者がいた。
「イヅナ様!」
アスモデウスである。
「何だ?」
「ルネが犬です。」
「何を言ってるんだい?」
すかさずルネが突っ込む。
「だってそうじゃないですか。私がいなくて寂しかったんですよね?会えて震えるほど嬉しいんですよね?犬だって、寂しかったりすればあからさまに寂しそうにしますし、嬉しければ尻尾を振りますよ。ほら、ルネと似てるじゃないですか。」
「だからって僕を犬呼ばわりするのはどうかと思うよ。」
「細かいことは気にしちゃダメですよ。」
「生物の枠組みを超える大きなことだと思うよ。」
1週間ぶりに聞くが、2人のやりとりを聴くと仲が良いのだなと思う。まあ、ルネがアスモデウスに対して抱く思いと、アスモデウスが思うものは違うのだが。
その後も話をして、20分ほど経った頃、部屋の扉が開いた。
「皆様、こちらへどうぞ。ラフィーエ様がお待ちです。」
勇者たちはラフィーエとの面会へと向かった。
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「ここで少々お待ちを。扉が開きますのでそうしたらお入りください。」
そう言って案内をした者が去った。そして、少しも経たない内に扉が開いた。俺たちは指示に従い、部屋の中へと入っていく。
部屋の中は広かった。蛇がとぐろを巻いたような模様のある床にはレッドカーペットが敷かれておりその先に玉座に座るラフィーエがいた。玉座の後ろにあるガラスから月光が入り込み、ラフィーエから感じられる高貴なオーラが一層際立っている。
しかし、何故だろうか。明らかに綺麗だ。それなのに俺には今の彼女は暗く沈んでいるように見えてしまう。
そんなこと考えているとエルティナが口を開いていた。
「一刻の王女を上から見下すとは偉くなったものだな、ラフィーエ。」
「たかが100年生きた小娘と話すのじゃ、丁度良いじゃろう。」
互いの視線が混じり合う。今なら2人の間で火花が散るのが見えるかもしれないな。
「まあ、良いわ。お主たちの目的はわかっておる。【聖剣デュランダル】じゃろう?しかし…。」
「それもわかってるわよ。こっちの【聖剣カラドボルグ】と交換って言うんでしょう。けど、それは無理よ。だって、魔人と戦うのに……。」
エルティナが言葉を次々と繋ぐがそれを遮るようにしてラフィーエが口を開く。
「違う。お主は妾の考えを理解出来ておらん。」
「何よ、じゃあ【聖剣デュランダル】を渡してくれるっていうの?」
「………。」
「何か言いなさいよ。」
「妾は考えたのじゃ。」
ラフィーエはゆっくりと玉座から立ち上がり、エルティナに近づいて行く。
「【聖剣】あれは美しいものじゃ。それを持っていたケリアさえも美しく見せるほどのう。」
ラフィーエの様子がおかしい。
「そして、思ったのじゃ。何故、それを異界の者たちに、勇者に渡さねばならぬのじゃと。」
ラフィーエはエルティナの目の前まで移動すると、その手をエルティナの頰に添える。そして言った。
「よこせ、主らの【聖剣】もじゃ。」
「は?何言って……。」
キィーン。
金属同士がぶつかったような、高い音が響いた。しかし、その音を発したのは金属だけでは無かった。
俺が異空間から取り出したナイフ。それとラフィーエの爪だった。
「何のつもりだ?」
「ほう妾の一撃を止めるか、何者じゃ?」
「……それは本気で言ってるのか?」
「何故、人間風情に嘘をつく必要がある。」
そのとき、俺はラフィーエの瞳を見た。どこまでも暗く、汚れ、光のない瞳を。目の前にいる彼女は俺の知ってるラフィーエでは無かった。
「もう一度だけ言うぞ。【聖剣】をよこせ。あれは妾にこそ相応しい。」
「拒否するなら?」
「もう用は無いのう。後は別のものにでも任せるとしよう。リルカス。」
その言葉と同時に玉座の方から豚の獣人が現れた。頭に毛はなく、宝石などを付けたその高級感溢れる服でだらしない体を隠している。この豚男がリルカスなのだろう。
リルカスはゆっくりと歩きながら、口を開く。
「何でございましょうか。」
「こいつらを部屋は戻せ。」
「しかし、その方々は……。」
「戻せ。妾は疲れ…たぁ……。」
そう言うとラフィーエの体は黒く染まり、何百匹もの蝙蝠となった。天井を覆うほどの大群が、まるで一つの生き物のように纏まり、ガラスを割り外へと飛び出して言った。
リルカスはその様子を見届けると、俺たちに向かい深々と頭を避けだ。
「申し訳ありませんでした。ラフィーエ様は少々機嫌が悪いようで。」
礼儀正しい豚男。エルティナはそれを哀れそうな目で見つめる。
「あんたも大変ね。まあ、良いわ。あいつが気分屋なのは昔からよ。」
「ありがとうございます。では、申し訳ありませんが、今一度それぞれのお部屋へと移動をお願いします。」
俺たちはそうして、ラフィーエとの面会を終える。勇者たちは不快そうだった。何だあの態度は。幾ら何でも滅茶苦茶だ。そんな言葉が飛び交っていた。そして、あのリルカスと言う名の豚男を賞賛していた。
そう。だから、誰も気づいていなかった。ラフィーエの瞳が濁っていたことを。部屋を後にする俺らを不敵な笑みで見送るリルカスの姿を。
次回は日曜日の投稿となります。お楽しみに。