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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第4章 デミア大陸編
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気がついたら陰謀でした

更新遅くなりました。

今回は少し長めで色々詰め込んでいます。読みづらかったら申し訳ありません。

後日、俺は再び塔を訪れた。入り口は巨大な門。その両脇には兵士が待機しており、それとは別に門よりも上にある部屋の窓から常に門の方を監視している者も何人かいる。更には防御系の結界まで貼られている。

警備は厳重、侵入することなど出来ない。そう思わせるほどだ。しかし、俺には関係のないことだった。俺はこの前と同様ラフィーエの部屋、その周辺に誰もいないことを確認すると『瞬間移動』を使用する。俺は一瞬でラフィーエの部屋の前へと移動した。そして、そのまま扉をノックする。


「誰じゃ?」


「通りすがりの冒険者さ。」


扉が開いた、が直ぐに扉は閉じた。閉め出されたわけではない。一瞬のうちに部屋の中へと引きずりこまれ椅子に座らされた。突然の出来事に驚く俺だが、ラフィーエは関係ない様子でお茶の準備をしている。


「本当に来たのじゃな。今、紅茶を出してやるからそれまでゆっくりしておれ。」


「ああ。」


軽く返事をしている間に俺の目の前に紅茶や菓子が並んだ。とんでもない速さだ。


「待っておったぞ。ちょうど暇を持て余していたところじゃ。」


「意外と暇なことが多いのか?」


「いつも暇じゃよ。やることが無いわけではない。ただ……暇なのじゃ。」


ラフィーエは少し切なそうな表情になり、視線が下がってしまう。聞かないほうがよかったと思いつつ、俺は話題を変える。


「そうか。で、何から話す?」


「そうじゃのう。妾は話せれば何でも良いのじゃが………そうじゃ、イヅナよ、お主は料理は出来るのか?」


「それなりになら出来るぞ。」


「よし、ならば明日何か作って参れ。」


「急だな。」


その場の思いつきであろうが、俺は明日に用意できそうなものを考える。


「持ってくるならサンドイッチが良いか?ならラフィーエの好みを……。」


集中している横でラフィーエが面白そうに俺の顔を見ていた。


「面白いのか?」


「面白い、と言うよりも嬉しいじゃな。妾の為に考えてくれている、それが分かるのは嬉しいことじゃよ。イヅナくらいじゃよ、我と話すもので妾のことを考えてくれるのは。後は自分のことしか考えておらん。昔の妾と一緒じゃ。」


ラフィーエは俺と話をしているとどうしても昔を思い出してしまうらしい。それは良い思い出もあれば悪い思い出もある。楽しいと言う感情は本当なのだろう。しかし、切なくも思っているのではないか。

俺はその後も話題を変え、話を続けた。ラフィーエは笑ってくれる。そして、何かをその表情の裏に隠しているようなそんな気がした。

次の日も、その次の日も、俺は塔を訪れてはラフィーエと会話をする。何を隠しているのか知りたい。その思いは強くなっていった。それでも会話を楽しむと言うことをラフィーエが忘れさせはしなかった。一つ一つの言葉をしっかりと聞き、色々な反応をし、表情を変える。それが会話の楽しさを常に感じさせてくれた。

そして、その楽しさの中で俺は気づいた。ラフィーエは自分のことを知らないのだと。

ラフィーエと出会ってから6日程経った頃、俺はある質問をした。


「なあ、ラフィーエ。」


「何じゃ?」


「ラフィーエは今の自分をどう思っているんだ?」


「今の自分じゃと?イヅナよ。あまりに簡単な質問をしてくれるでない。それを妾が分かっていないわけがないであろう?」


「じゃあ、言ってくれないか?」


「まあ、良いじゃろう。妾は夜都“デリン”の象徴じゃよ。治める存在でもあるがな。」


「……そうか。それだけか?」


「そうじゃが、こんな質問をして何か意味はあるのか?」


「あったよ。」


「?」


ラフィーエはわけがわからないと言いたそうにこちらを見つめる。だがな、ラフィーエ。俺は今の言葉でラフィーエが自分のことを理解出来ていないのだと分かったよ。彼女は自分を知らない。それこそこの夜都“デリン”に住む人々と同じ程しか。

いや、彼女は長い年月を生きてきた吸血鬼。だからこそ忘れてしまったのかもしれない。ケリアと過ごしていた時にいた自分と言うものを。

残念なことに今の彼女は自分を道具のようにしか見ていない。彼女が先ほど言ったことは役割に過ぎない。俺の質問の仕方も悪かったが、後で自分がどう言った吸血鬼なのかと聞いても同じだった。

ラフィーエはケリアとの出会いで自分がどう言った吸血鬼なのかを知り始めた。しかし、その記憶は長い年月で風化している。彼女は知らないうちに過去の自分に戻りつつあった。自分は上に立つ存在。他の人々は下の存在。その見方はまるで盤面に並ぶ駒を見るのと似ている。ラフィーエは自分も他人も駒として見ていた。唯一、ケリアだけは違った。彼は1人の吸血鬼として彼女の中にいる。だからこそ、彼女はケリアの形見である【聖剣カラドボルグ】を求めるのだろう。手にする為ならば自分さえ差し出す気もする。ラフィーエはそんな状態なのだった、と思う。

だが、今は違う。俺がいるのだ。会話をして彼女は言った、楽しかったと。彼女は笑った、まるで少女のように。彼女は語った、その内に潜めた思いを。それは彼女の記憶から消されたものを少しずつであるが思い出させる。


「なあ、ラフィーエ。ケリアと出会って自分は変わったと思うか?」


「当たり前じゃ、と言いたい。じゃが、もう数百年も前の話、思い出せぬ。ケリアのことは覚えていてもそのときの妾のことは覚えてはおらぬのじゃ。」


「そうか。」


「じゃが……。」


ラフィーエは視線を逸らしながら答えた。


「もしかしたら今の妾と同じようなことを思ったのかもしれんのう。」


思い出させてやりたい。それが彼女の言葉を聞いて思ったことだった。 しかし、そんな願いとは裏腹に俺に出来ることは限られていた。


「しかし、イヅナよ。ちと質問が多くはないかのう。まあ、別に良いのじゃがな。妾もその……答えたばかりでは……。」


「わかったよ。じゃあ、今度はラフィーエが質問してくれ。」


「そうか、では……。」


楽しそうに話すラフィーエ。もしも夜都“デリン”に住まうものたちがこの様子を見ても、彼女がこの街を治めている存在だと気付かないかも知れない。それ程までに彼女の表情は優しく、どこか幼さを感じるものだった。しかし、そんな表情も一瞬で崩れてしまう。


「まだ遠いが、誰か来たな。」


「その様じゃのう。残念じゃが、今日はここまでじゃな。明日も来るのか?」


「ああ、だが明日は恐らく正面から入ることになる。」


「と言うことは……。」


「そうだ。勇者たちが到着した。」


そう言いながら俺は街の方に目を向ける。その視線の先に彼らはいた。結界の前に佇み入国の手続きを踏んでいる勇者たちが。


「そうか。では、今日で終わりじゃな。」


「いや、そんなことはない。」


「そうなのか?」


「ああ、俺に一つ目的が出来たからな。その為にはラフィーエとまだまだ話さなきゃならない。」


「【聖剣】か?」


「いや、もっと価値のあるものだ。」


「もっと価値のあるもの?」


「まあ、ラフィーエがそれに気づくのはもう少し先になるかもしれないが、それでもきっと気づいてくれると信じる。」


「お主は何を。」


「そろそろ誰かくる。話の続きはまた通りすがったときに。」


俺は『瞬間移動』を使いその場を後にした。残されたラフィーエは考える。【聖剣】よりも価値のあるものなど夜都“デリン”にあるのかと。数百年生きて来たがそんな話は聞いたことも無かった。そして、気づくこともなかった。イヅナにとってのラフィーエという存在の価値を。

考えるラフィーエの元にあの豚男がやってきた。彼は扉をノックし、部屋へと入ってきた。


「ラフィーエ様、勇者様御一行が到着されましたぞ。」


「知っておる。」


「流石、ラフィーエ様。それでいつ頃面会にしましょうか。」


「明日ならばいつでも良い。」


「わかりました。そう伝えておきましょう。」


豚男はそう言いながら部屋を後にしようとする。が、何かを思い出したかのようにラフィーエのもとに戻る。


「おおっと、忘れるところでした。ラフィーエ様に勇者様からお近づきの印にとこのペンダントを受け取っておりました。」


そう言って豚男は懐から紫色の宝石で飾られたペンダントを取り出した。


「私から見てもなかなかの代物ですぞ。特にこの宝石の奥に吸い込まれるような感覚、堪りませんなあ。きっと、ラフィーエ様が身につけられたらもっと輝くこと間違いありません。」


「つけろと言うのか?」


「いえ、ただその方が印象も良くなりますし、何よりお似合いになるかと…。」


ラフィーエはため息をしながら渋々、ペンダントを手に取る。ラフィーエはこの豚男が嫌いだった。話し方が気にくわない。何よりラフィーエを見る目が気に入らなかった。だからこそ、ラフィーエは早くこの男と離れる為に、さっさとこの話題を終わらせようと、ペンダントを受け取り、身につけた。だが、空が間違いだった。


「なん…じゃ……。」


ペンダントを身につけた途端、視界が真っ暗に染まり始めた。体の自由もきかない。間違いなく、原因はペンダント。そして、それを渡したのは…。

ラフィーエは豚男を探す。しかし、見つける前に視界は完全に奪われた。そして、身体中の感覚が消えていく。


(何じゃ、一体何が起こっているのじゃ!)


ラフィーエは必死に思考する。しかし、そのラフィーエの思考さえも何かに侵食されていくような気がした。


(妾は……何を……どうすればまた……。)


薄れゆく意識の中、ラフィーエは声を振り絞る。


「た…けて……イ……ナ。」


ラフィーエの意識は完全に失われた。まるで魂が抜かれたかのように動かなくなったラフィーエ。

そして、それをいやらしい笑みを浮かべながら見つめる豚男。


「ブヒ、成功しましたね。全く、油断しすぎですよ。これはほぼ不死であるが故の気の緩みですかねえ。まあ、気を張っていたところで魔人様から頂いたこの『傀儡のペンダント』に掛かれば同じでしょうけどね。ねえ、ラフィーエ。そうは思いませんか?」


「………。」


「あ、そうでしたね。あなたは喋れないんですかね。まあ、いいでしょう。これで私たちの邪魔をするものはいなくなったわけですから。いや〜楽しみですよ。勇者たちがいったいどんな末路を辿るのかがね、ブヒヒヒ、ブヒヒヒ。」


塔には邪悪な笑い声が響いた。耳障りに思うものはいた。しかし、異変には気づかない。

豚男はラフィーエに命じる。


「では、行きますよ、付いて来なさい。」


「………。」


夜の都で蠢く巨大な陰謀は着実に進行していた。



















次回は木曜日に更新します。

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