気がついたら宿屋でした
ラフィーエのもとを去った俺はアスモデウスたちと合流することにした。どこに行ったのかを確認する為アスモデウスたちの魔力などを探す。どうせ何処かの飲食店にでもいるのだろうと思っていたのだが、その考えは良い形で裏切られた。
「ん?あいつらがいるのはここか?」
俺の前にあるのは宿屋だった。そう、あのアスモデウスが何処かを歩き回っているのではなく、今日寝泊まりできる場所を確保しているのだ。俺は驚きながらもその宿屋へと入っていく。
「いらっしゃいませって、人?と言うことは、お客様はアスモデウスさんのお仲間でしょうか?」
「ああ、そうだが。」
「やっぱり!それじゃあお部屋へ案内します。あ、もう料金は頂いているので問題ありませんよ。」
「そ、そうか。」
その流れのまま俺は部屋の前まで案内された。そして、思う。可笑しい、と。あのアスモデウスが何故ここまで気の利いたことが出来るのか。最初はベルゼブもいるのだし彼女の指示ではないかと考えたが、そんな気がきくのなら初めて出会った時にエルダー王国の兵士をもっと上手く対応できたのではないか、と思いその可能性は低いと判断した。
では、何故だ?いくら考えてます理解に及ばなかった俺はゆっくりと部屋の扉を開いた。すると。
「え?キャ、キャーーー!!!イヅナ様!何見てるんですか!」
そこには下着姿のアスモデウスがいた。出るところは出てくびれもある。待ち合わせのルックスもあり、男ならば誰もが鼻の下を伸ばしてしまうのではないだろうか。俺もそこまでは行かなくとも少し照れてしまう気がする。アスモデウスで無ければだが。
ただそんな中、俺はアスモデウスを見て1つの考えが浮かんだ。それはこの流れを作る為だけに宿屋を用意したと言うものだ。そして、それが最もあり得るのではないかと思う。普段は何処か抜けているアスモデウスだが、本当に俺が必要にするときや彼女自身が決心すれば、彼女の行動は俺の想像を上回るものとなる。半分は良い方に、もう半分は悪い方に。そして、今の状況は後者だ。恐らくこの後、アスモデウスは調子にのる。
「やりましたよ、ベルゼブ!イヅナ様は私のこの姿に魅了されて声も出せませんよ。」
「むーむー(そうだね)。」
「これはこのままベッドインのチャンスではないでしょうか!」
「むーむー(そうだね)。」
予想通りだ。
「と言うことでイヅナ様、こちらにどうぞ。」
アスモデウスは俺の手を引っ張りベッドへと連れて行こうとするが、俺はその場から動かない。
アスモデウスはそんな俺を不思議そうに見るが、ハッと何かに気づいたような顔をしたかと思うと、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。
「分かりましたよ、イヅナ様。魅了されすぎて動くことも出来ないんですね?とんだ変態ですね。あ、もしかして罵られても興奮とかするんですか?じゃあ、この胸を押し当てながら、耳元で囁くように言ってあげますよ。ほらゾクゾクするでしょう?」
耳元でハアハアと息をあげながらアスモデウスは言う。だが、俺は至って冷静だった。
「なあ、アスモデウス。」
「はい?」
「俺はお前のことが好きなのは認めよう。」
「へっ!?い、いや、勿論知ってますよ。」
赤面。
「だがな。何故かお前の裸を見たり、耳元でハアハアされても何とも思わないんだよな。普段の生活で見ている姿は可愛いと思うんだが。あれは自然体だからか?」
「え、いや、その……えっ…と………。」
アスモデウスはゆっくりと俺から離れていく。まさか、いつもはグイグイ来るのにこちら側から本音を聞かされると駄目なのか?実はうぶなのかも知れない。それに……。
「その様子だと本当に照れてるみたいだな。可愛く見える。」
「うう……。もうやめて下さい……。」
アスモデウスは恥ずかしそうにしながら、毛布に包まると顔を引っ込めてしまった。少し揶揄い過ぎたようだ。
「むーむー(イヅナ様はS)?」
「さあな。だが、今のアスモデウスは可愛いとは思ったな。」
俺の言葉に毛布が飛び跳ねる。本当にあれがアスモデウスなのかと疑いたくなる反応だ。もう少し弄りたい気もするが話を変えるとしよう。
「勇者たちがここに到着するまでどれくらいかかる?」
「むー(恐らく1週間)。」
「1週間か……わかった。俺は引き続きラフィーエのところへ行ってくる。アスモデウスたちはそうだな。もしもの時に備え、この国の兵力や組織などを調べておいてくれ。」
「もしもの時ですか?」
アスモデウスが毛布からひょこっと顔を出す。
「そうだ。順調に物事が進むとは限らないしな。ラフィーエの思いは何百年も蓄積されてきたもの。その思いを捻じ曲げて勇者は【聖剣】を手に入れようとしているんだ。戦いになる可能性だってある。それに……。」
「それに?」
「何か、起こる気がするんだ。」
俺が部屋を出る前に近づいてきた男。彼からは何か良からぬ気を感じた。もしかするとラフィーエに危険が迫っているのかも知れない。
「むー(イヅナ様)。」
「何だ?」
「むー(あれ)。」
「ん?」
ベルゼブに指摘され、ベッドの上で包まるアスモデウスの方を見ると、彼女は頰を膨らませていた。
「どうしたんだ?」
「何でも有りませんよ。ただラフィーエとか言うやつのことを気にしているようなので………何でも有りません、それだけです。」
何でもあるだろ、と言いそうになったがさらに機嫌を損ねてしまうのではと思い、黙っておくことにする。アスモデウスはベッドから飛び出てベルゼブの横に着地した。そして、ベルゼブの手を取るとそのまま扉の方へと向かう。
「出掛けてきます。夕飯には戻ります。」
「むー(私も)?」
「そうですよ!」
「むーむー(あーれー)。」
勢いよく開いた扉はその反動で再び閉まる。1人部屋に残された俺は暫くその扉を眺めていたが、急に疲れを感じたのでベッドで横になることにした。
ベッドは3つ。俺はアスモデウスが先ほど寝ていたベッドから一番離れたもので寝ることにする。
「はあ〜って何か甘い香りがするな。」
無論、その正体はわかっている。アスモデウスだ。一緒にいることが多い彼女。動くと髪から香りが漂って来ることもある。そして、この香りはそれと同じである。
俺は仕方なく残されたベッドで横になる。が……。
「準備周到か。」
残り1つも同じだった。無駄に細部まで手のかかったことをして来る。
俺は諦め、そのままベッドで横になり、彼女たちの帰りを待つのだった。
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「イヅナ様が私のことを可愛いと言いましたよ!いや、これはデレ期ですね!やっぱりイヅナ様はデレ期に突入していたんですよ!この調子でいけばゴールイン間違いなし!セリカ何て目じゃ有りませんね。いよいよ、イヅナ様が私の魅力に気付いてくれたんです。嬉しいですね〜。嬉しすぎますよ。本当に嬉しくて昇天しちゃうんじゃないてますかね?そのときはどうにかして私を助けてくださいお願いします。あ、それとイヅナ様が私のことを………。」
「むー(長い)。」