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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第4章 デミア大陸編
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気がついたら会話でした②

今回のサブタイトルどうしても思いつかず、②にしました。それに合わせて前回のものに①をつけました。雑ですみません。

ラフィーエの話は愚痴から始まった。ラフィーエは夜都“デリン”に住む人々から受ける扱いに飽き飽きとしていたらしい。自分はただ結界を貼り、少しばかり長生きをしてるだけ、なのに人々はまるで神のように崇拝している。話が出来るのはこの夜都“デリン”の中枢にいるような人物ばかり、そしてその誰もが自分の機嫌を取ろうと必死。本心を話さないものとの会話が面白いわけがない。だからこそケリアと過ごした日々を色濃く思い出してしまうのだと言う。

ケリアはどんな人物だったのか、と尋ねるとラフィーエは嬉しそうに話してくれた。誰にも囚われることなく、自由で、明るく気さく。

それは小さい頃から周りから隔離され、吸血鬼をまたは闇に住まう種族を治める存在になるよう育てられあげられてきたラフィーエにとって衝撃だったらしいい。付け加えるならば出会い方も同等の衝撃を受けたと言う。

ある日突然、窓の外を見るとそこには見たこともない吸血鬼がこちらを覗いていた。そして、どうやったのかわからないが窓をすり抜けて来たのだとか。そして、彼は言ったらしい。


「一目惚れした。付き合ってくれないか?」


今は思い出しただけで笑えると言うのだが、当時のラフィーエは理解に苦しんだらしい。治めるべき存在、つまり自分よりも下に位置する者が何故、自分と付き合おうなどと思えるのか、と。

ラフィーエは考えに考えた末、ケリアを無視することにした。こんな奴の相手をする必要はない。だが、殺したり追い出したりするようでは上に立つものとしての器量が損なわれるのではないか。これは幼い頃からの教育による偏った考え方がそうさせたのだろう。だが、それは結果として2人の関係を深めることになるのだとか。

ケリアはその次の日も、また次の日もラフィーエの前に現れた。そして、無視し続けるラフィーエに話しかけ続けた。この前は何処に行った、自分より大きな魔物を倒した、そんな下らない話ばかり。だが、気がつけばそれが当たり前の光景に成る程にケリアはラフィーエのもとを訪れていた。そしてこの頃ラフィーエは疑問を持つようになり、その閉ざされ続けた口を開いたのだ。


「お主は何故、妾に話し続ける。返事もせず、会話も成り立たぬ。いや、そもそも妾に会話は必要なかろう。お主は妾よりも下の存在。上の存在たる妾の言葉を心身に受け止め、感謝するだけで良いのだ。何故、お主が妾に声をかける。」


「好きだから。」


「分からなぬ。何故、それで妾に言葉を……。」


そのときだった。ケリアの唇がラフィーエの唇に重なった。ファーストキスだった。しかし、当時のラフィーエにそんな知識はない。だが、それでも自分の中で何かが起きたのがわかった。キスをした後、体が熱くなり、何故かケリアの顔を見ることが出来ない。そんな状態のラフィーエにケリアは言った。


「上の存在である筈のあんたが今は俺よりも小さく可愛くなってる。いつもは堂々としてたのにな。でも、こう言うことが起きるのが恋で誰の常識にも当てはまらないようなことを起こすんだと思う。それでさっきのことを理解してくれないか?」


あまりに強引、あまりに一方的。だが、ラフィーエは頭を縦にしか振れなかった。それ以降、ケリアが来ることを望んでいる自分がいた。そして、気がつけばケリアとラフィーエは2人の時間を楽しんでいたと言う。


「今、考えれば妾がどれだけうぶだったか分かるのう。じゃが、今でもあの時のことを思いだそうでとすればちと顔が熱くなるのじゃ。」


「今も顔が少し赤くなってるしな。」


「まことか?」


「嘘だ。」


「………妾を弄んで楽しいか?」


「さあな。」


「むう。ええい、終わりじゃ。妾の話はもうせん。次はイヅナの話を聞かせるのじゃ。」


「ラフィーエのと比べれば少し味気ないと思うぞ?」


「構わん、妾が話せと言うておる。」


「………じゃあ、フィエンド大陸でのことから話すとするか。」


俺は今までの経緯をラフィーエに話した。勿論、俺が邪神であることは隠してだ。

だが、それでも彼女にとって俺の話はとても新鮮だったらしいい。多くの仲間がいて、信頼しあえる。助け合い、高め合い、成長できる。俺はこの世界で気づき学べたことをありのままラフィーエに話した。

彼女にとってはっきりと仲間と言えるような存在はケリアだけだった。だから、多くの者と関わり合い、成長してきた俺の体験は彼女が体験したことのないものだった。


「今の妾の周りには妾の意見を否定するものなどおらん。だから、イヅナのその体験はちと羨ましく思える。無論、始めの仲間?の行為によって齎された不幸は起きぬ方が良かったは思う。じゃが、それでこの世界にかけがえのない仲間が出来たのは羨ましいのじゃ。妾にはケリアしかおらんかった。そして、そのケリアもいない。だからせめて、せめて形見である【聖剣カラドボルグ】だけは手に入れたいのじゃ。ケリアを忘れぬためにもな。」


「そうか。」


数百年の思い。それは俺には考えられないほど、切なく、孤独なもの。誰にも語れることなく、内に挟まることしかできなかった。そんな彼女の思いに俺はまだ何も言うことなどできない。理解しきることは出来ない俺が、彼女の気持ちの何も知らない俺が何かを言う権利など持つはずが無いのだ。

だからこそ、俺はラフィーエの話を聞いた。彼女の気持ちを知るために。


「しかし、今日は楽しかったぞ。久々にまともな話ができた。満足じゃ。礼を言おう。」


「それは何より。だが、勇者たちがここに来るまで俺は暇なんだ。良ければまた来てもいいか?」


この提案には笑顔で乗るだろう。そう思っていた。だが、ラフィーエの頰を涙が伝っていった。

俺はその予想外の出来事に彼女を見つめることしか出来なかった。が、自分の涙に気づいたラフィーエが慌てて涙を拭い、言った。


「す、すまぬ。これはうれし涙というものじゃ。無論、主ならばいつでも待っておるぞ。明日もまたこの部屋で待っておろう。」


「そうか。」


うれし涙。それは本当のことでもあり、本心隠すための言い訳にも聞こえた。

そのときだった。こちらへ向かって来る足音が聞こえた。


「誰か来るみたいだ。」


「そのようじゃな。早くここを去るが良い。もし会話を聞かれていれば独り言と誤魔化しておこう。」


「助かる、ありがとう。」


「何、こちらこそ感謝するぞ。通りすがりの冒険者よ。」


「ああ、また通りすがったときはよろしくな。」


そうして俺はラフィーエの部屋を後にしたのだった。

イヅナが部屋を去ったのとほぼ同時にラフィーエの部屋にはひとりの太った男が入ってきた。その男は豚の顔を持つ獣人だ。男は豚鼻をフゴフゴと鳴らしながら、口を開く。


「ラフィーエ様。そろそろお時間ですぞ。」


「今行く。」


「くんくん、む?何やラフィーエ様以外のものの臭いがしますが、密会でもしておられましたかな?」


「たわけ、この部屋に入れるものなどいる筈がなかろう。」


「それもそうでございましたな。飛んだご無礼を。」


ラフィーエは頭を下げた豚男には反応せず、そのまま横を通り過ぎ部屋を後にした。後に残された豚男は嫌らしい笑みを浮かべる。


「ブヒ、偉そうにして居られるのも今のうちにだ。作戦が成功した暁にはお前は私のコレクションとなるのだ。ブヒヒヒ。」


夜都“デリン”。そこを治める吸血鬼の女王。彼女には危機が迫って居た。


「全ては魔人様のために。ブヒ。」







次回の投稿は日曜日です。

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