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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第4章 デミア大陸編
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気がついたら会話でした①

夜都“デリン”の夜。それはありふれた光景であり、誰れもその光景を不思議に思わない。吸血鬼の女王の力により、保たれる安寧の地。人々は安心しきっている。それは街を守る衛兵達にも言えることだ。

犯罪も少なく、魔物も滅多には現れない。そんな場所を守る兵達に警戒心などほとんど残っていなかった。そう、だから気づかない。塔の中を悠々と我が物顔で歩く其の者の存在に。いや、警戒心があったとしても無理なのかもしれない。何故なら其の者は邪神なのだから。

邪神は1つの扉の前で止まった。それは塔の頂上近くにある一室の入り口だ。邪神はゆっくりと扉を開く。同時に薔薇のような香りが溢れ出てくる。


「何者じゃ?」


そこにいたのは間違いなく女王であった。椅子に座り、背を向けており顔などは見えない。だが、放たれるオーラが今まで見てきた王と言われるものたちと酷似していた。いや、ある意味ではそれをも上回っているのかもしれない。

脆弱な存在であれば跪き頭を垂れるしかない。だが、彼は違う。紛うことなき力を持つ邪神なのだから。

邪神は一歩、また一歩と吸血鬼の女王に近づく。女王も自分を前にここまで引かぬ者を警戒しないわけにはいかない。女王は振り向く。するとそこには美しい少女がいた。女王は自分をこの世で1、2番目には美しい存在だと思っている。しかし、このときは自分は、自分が考えていた美しさとは愚かで、とても醜いものなのだとすら思えてしまった。女王は何もすることが出来なかった。ただ目の前の存在を見つめることしか。

気づけばその少女は目の前にいた。そして、その口を開きこう言った。


「初めましてだな、通りすがりの冒険者だ。」


これが吸血鬼の女王“ラフィーエ・ブラディリス”と邪神“イヅナ”の出会いだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目の前の吸血鬼に軽い挨拶をしながらも、イヅナは後悔していた。この世界に来てから今まで、イヅナは気付かぬうちに問題の中心にいた。聖剣を抜き、街を救い、勇者を助け、先代の勇者から怪しまれ、認められる(?)。そして、その全てがうまくいってきた。自分を中心に世界が回り始めてるのではないかと疑いたくなるようなレベルだ。

だから、夜都“デリン”へと3人で送られることとなったときも、そうなる様な気がしていた。だからこそ、アスモデウスとベルゼブの前で自分がやるようなことを言ってしまった。

もう一度言おう。後悔している。本来、ならば【聖剣】を手に入れるべきの勇者たちが吸血鬼の女王と対面し、俺は後ろからそれを見守るべきだった。だが、勇者たちを危険な目に合わせてやりたくない、自分がどうにかするしかない。そう言った考えがこの展開を起こした。そして、何よりそうなったとしても問題無いと何処かで考えている。この邪神の力があればどうにでもなるそう考える俺がいる。だから、あのときアスモデウスたちの考えを却下しなかった。

そう考えると俺はこの力に少しばかり呑まれてるいるのかもしれない。


(そんなことありません。私がついていますから。)


久方ぶりの声が俺の頭に響いた。暖かく、何故か安心できる。そう言えばこの声は言っていたな。理性を、感情を、仲間を失わせたりはしない、と。そして、俺はそれを信じた。ならば、もうこのことをくよくよする必要も無い。それにくよくよしていても駄目だったな。それをアスモデウスに言われた。

何度も同じことを思い返している。そして、その度に仲間たちに救われている。そうか、ならば俺がどうにかなると思えるのは仲間がいるからなのかもしれない。ならば、こんなことを後悔している場合では無いな。


“仲間がやるべきだったこと?俺がやることで負担がへる。

邪神の力?あの声の主が抑えてくれる。

クヨクヨした?忘れたな。今はもう前に進むことだけを考えてる。”


俺は自分の考えをまとめると(目の前に人がいるのに何をしているのか)、いつまでも動かない吸血鬼に再び声をかけた。


「少し話をしないか?」


俺のその言葉に石化から解かれたように吸血鬼は動き出した。


「そなたは何者じゃ、どこから侵入した。」


「そんなことはどうでも良い。俺はお前と話をしたい。だから、きた。それ以外の理由はない。」


このときの俺の発言は何も知らぬが故だった。だが、それでも吸血鬼の女王、ラフィーエにとってケリアとの出会いで言われた言葉と同じそれは乾き始めた心を潤すのに十分であった。

少しの沈黙の後、ラフィーエは口を開く。


「妾と話がしたい?冒険者ごとき、それも人間であるお主が対等に口を掛けるとでも?」


「ああ。いつまでも前の恋人を待つ、一途で可愛らしい乙女となら対等に話せる。」


「何故それを。」


「エルティナが言ってたんだ。」


俺は隠すことなく言う。まあ、隠したところで無駄だろうしな。


「エルティナ……あのガキのことじゃな。と言うことはお主は勇者の仲間か何か、と言うわけか。」


「そうだ。」


「ではここに来たのは何か言伝があってのことじゃろう。しかし、自ら正体を明かすような愚か者を寄越すとは舐められたものじゃのう。まあ、それに気付けぬ、衛兵たちには呆れたものじゃが。」


次々と推理をしていくラフィーエだが、まだ俺の言ってることを信用する気は無いらしい。


「いや、違うぞ。」


「何?」


「言伝なんてない。俺はお前と話がしたいだけだ。」


「嘘をつけ、言伝が無ければ【聖剣】を盗みに来たのだろう。出なければここに来る理由がない。」


「だから理由はお前と話したいからだ、とさっきから言ってるだろう。」


「黙れ、言い訳など聞きとうないわ。」


問答無用と言うわけか。

ラフィーエはその鋭い爪を俺の首へと突き立てる。しかし、そんなもので傷つけられる俺ではない。爪に構うことなく、俺の言葉を信じてもらえるまでラフィーエを見つめ続ける。


「何故、抵抗せんのじゃ。」


「戦えば話すことは出来なくなる。」


「この喉笛を切られてもそれは同じじゃ。」


「確かにな。」


「「…………。」」


俺とラフィーエを静寂と緊張が包み込む。互いを観察し、出方を伺い、相手の真意を見極める。俺もこの空気に慣れたものだ。地球にいた頃ならば間違いなく、こんな圧には耐えられなかった。

どれほど時間が経っただろうか。漸く、ラフィーエの口元が緩んだ。それと同時に爪も首から離れていく。


「ふっ、本当に話をしに来ただけなのじゃな?」


「だから、そう言ってる。一応、言っておくが【聖剣】を狙ってるのは勇者であって俺じゃない。特に狙う理由もない。金ならそれなりに持ってるしな。」


「そのようじゃな。」


ラフィーエは俺の服装を見て言う。こう言う時に無駄に高性能で見栄えのいいマントが役に立つ。確か名前は【混沌より生まれしマント】だったかな。まあ、どうでも良いが。


「まあ、妾も仕事がひと段落ついて暇じゃったからのう。話の1つや2つしてやっても良いぞ。それに追い返したところでまたやって来そうじゃ。」


「まあな。」


俺の返答にラフィーエは声を出して笑った。


「愉快なやつじゃ。ここのところ侍女や大臣にしかあっておらなかったしのう。笑うこともなかった。久方ぶりじゃ声を出して笑えたのは。そなた名をなんと申す。」


「イヅナだ。」


「そうか、イヅナか。気に入ったぞ。イヅナ、お主には妾のことをラフィーエ、又はラフィーと呼ぶことを許そう。それで何を話すのじゃ?」


「ラフィーエの好きなようにしてくれ。」


「話がしたいと言っておいて、内容は妾にふるのか?なんとも身勝手なやつじゃ。だが、丁度愚痴を言いたい気分じゃ。その話なるとしよう。」


こうして俺とラフィーエの会話は始まった。会話と言ってもラフィーエの話を淡々と聞き、俺がたまに一言言うくらいだった。

だが、それで良い。俺は知りたかったのだ。恋人を思い、自らの役目すら利用して形見を取り戻そうとする恋するその吸血鬼が一体どのような人物なのか。

俺はラフィーエの本心を見抜こうと考えていた。だが、いつからだろうか。きっと俺はラフィーエとの会話を楽しんでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーとある付き人と愉快な仲間SIDEーーー



「イヅナ様、本当に吸血鬼のところに行ったんでしょうかね?」


「むむー(行ったんじゃない)?」


「まあ、イヅナ様なら何があっても大丈夫ですし、問題ないでしょう。」


「むーむーむー(とても付き人の言葉とは思えない)。」


「むぐぐ?むぐぐぐぐぐむぐぐぐぐ (そうですか?イヅナ様がする私の扱いより全然良いと思いますよけど)。」


「むー。むーむー(食べながら喋るのは良くない。イヅナ様に嫌われる)。」


「え?何のことですか?」


「……………。むー(イヅナ様も大変)。」













総合評価2000点突破しました!!!

これも皆様のおかげです!ありがとうございます!今度は3000、いや、5000くらい目指して頑張りましょうかね。

これからも『気がついたら魔神でした』をよろしくお願いします。

ブックマーク、評価、もお願いします。

それと次回の投稿は水曜日になります。


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