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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら手合わせでした

待たせたなあ。


「では、これからの勇者様たちの行動についてですが、まず“デミア大陸”に渡り、エルダー国へ向かってもらいます。ここでこちらの大陸のことを学んで貰いたい。つまり、知識を得て貰います。」


「知識ですか?」


颯太が問う。きっと彼の中ではこの世界のことは既に学んでおり、必要が無いのではと考えているのだろう。しかし、それは少し甘い考えだ。


「はい。貴方たちの知識だけではあの大陸で生きていくのは難しいと思います。ステータスだけを見れば貴方たちの実力でも十分に通用します。しかしながら、それだけでは足りない。単純な力だけでは通用しません。」


『知は力なり。』と言うわけか。確かに今の勇者たちでは危ういだろう。例えば毒を持つ魔物、植物か。彼らは戦うことには少し慣れて来たように見える。しかし、相手が次にどんな攻撃をしてくるか、と言う予測が足りてない。琴羽が辛うじて『予測者』を使うことでそれが出来ている。だが、それでも彼女が予測できているのは動作のみ。その攻撃を受けた後、どうなるか、さらに言えば最初に出会ったときに相手がどのような力を使ってくるかの予測は出来ない。

俺は有り余るスキルのおかげでそれが出来るが、普通出来ることではない。だからこその知識なのだ。


「そして、知識を得た勇者様たちにはエルダー国から夜都“デリン”へと向かって貰います。」


「夜都“デリン”……じゃあ、そこに。」


「はい、【聖剣デュランダル】があります。」


勇者たちにとってはその行方をくらませた【聖剣エクスカリバー】を除けば残された最後の【聖剣】、それが【デュランダル】だ。


「ただそれを手に入れるには少々問題がありまして……。」


「問題?」


秘書は何やら困った様子だ。エルティナの方を見ても似た表情をしている。


「俺たちならどんな試練でも乗り越えて見せます!だがら、その問題を教えて下さい。それがたとえどれ程辛いものだろうと、勇者である俺たちは乗り越えていきます。」


颯太はエルティナたちに自分たちの覚悟を伝える。その拳には力が込められている。【聖剣グラム】を手にしたことで彼の中に更なる責任が生まれたのだ。この世界を救わなければならない、『守護』の力が彼にそう思わせてるのかも知れない。だが、そうだったとしてもそれが颯太の本心であることには変わりない。

真剣な顔でエルティナを見つめる颯太。しかし、その後のエルティナの答えは予想外なものだった。


「いや、あんたたちは別に良いのよ。どうしようもないから。」


「え?……そ、それは力不足ということですか?」


一瞬何を言われたかわからない様子だったが、そこは流石の颯太、すぐに理解出たようだ。だが、ショックも大きいようで少し声が震えている。


「だから違うの。どんなに力付けてもどうしようと無いのよ。」


「つ、つまり?」


「つまり、夜都の女王が【聖剣デュランダル】が欲しいなら、【聖剣カラドボルグ】と交換だって言うのよ。」


「え?」


ルネが驚く。


「【聖剣カラドボルグ】の前の使用者が“ケリア・ブラディリス”だったのよ。それでもってそのケリアの婚約者が今の女王ってなわけ。それで形見に欲しいのかわからないけど、【聖剣カラドボルグ】が欲しいらしいのよ。」


「と言うことはその女王も吸血鬼か?」


「そうよ。」


となると何百年分の思いを溜め込んでいると言うわけか。これはある意味ではどんな試練よりも難しい問題だな。

勇者たちは魔神を倒すために【聖剣】を渡すわけにはいかない。

女王は愛するものを忘れたく無い、離れたく無い、と言う思いを持ち、何百年も続く程その思いは強く硬い。おそらく女王は本当に【聖剣カラドボルグ】を差し出さなければ【聖剣デュランダル】を渡すつもりは無いだろあ。

今まで変わる事のなかった思いを果たして今の俺たちで変えることが出来るのか?

いや、今はそんなことを考えている場合では無いな。勇者たちも出来るか分からなくともやらなくてはならないのだから。


「夜都での交渉には相当苦戦すると思うわ。こちらも【聖剣】を渡すわけにはいかないし。

だから、出来るだけ早く出発したいのだけど……そうね、とは言え準備もあるし3日後でどう?」


エルティナの言葉に反対するものはいない。決まりだ。


「じゃあ、そう言うことで。私たちからは以上よ。」


エルティナは国王に視線を送り、会議を進めるように仕向ける。国王はそれに気づき、進行する。


「ここまでで質問は……イヅナ殿。」


俺は挙手をし、答えは分かってはいるが質問をする。


「俺たちの依頼の方は引き続きと考えて良いんだよな?」


「無論である。よろしく頼むぞ。」


「承知した。」


幾ら分かりきっているやり取りとは言え、確認することは大事だ。少しの勘違いなどが後々大きな影響を与える可能性もあるのだから。

俺が今までの間違いを思い返していると、その視線は無意識のうちにアスモデウスの方へと向いていた。彼女はこちらに気付く前に俺は視線を逸らす。まだ、俺自身が気にしているのか。邪神になっても心はいつまでも弱いままだと改めて感じてしまう。


「では、今日の会議はこれにて終了とする。颯太様は出発が3日後であることを他の勇者様たちに伝えて欲しい。」


「わかりました。」


「うむ、ではこれにて解散とする。」


俺たちは席を立つと、その場を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



深夜、俺がベットの上でゴロゴロしているときだった。コンコンと窓を叩く音がした。どうせアスモデウスだろ、と思いながら、窓を開けるとそこに居たのは予想外の人物だった。


「やあ、イヅナくん。こんな時間で悪いんだけど少しいいかな?」


そこにいたのはルネだった。風をおこし、器用に体を浮かせている。


「別に良いが、何をするんだ?」


「それなんだけど……僕と少し手合わせをしてくれないかな?」


手合わせ?

いつも特訓でアスモデウスと戦っているルネが俺に手合わせを願い出たことを不思議に思う。だが、逆に考えるべきだろうか。わざわざ俺に願い出た訳があるのだと。ルネは思いつきで行動するような奴ではない。なら彼は彼なりに何かを考え、その末にここに来たのではないか?だとしたら、その理由を聞かれるのは嫌だろう。


「…なら、場所を変えよう。」


「うん、元々そのつもりさ。付いて来てくれるかい?」


「分かった。」


俺は城から出るとルネの後を追い、夜の街の上を飛んでいく。もちろん、監視にはバレないよう小細工をしておいた。

少しするとこの前、アスモデウスとの一件があった例の丘までやってきた。そして、ルネはその丘を見ると。


「ここでいいかな?」


「良いぞ。」


俺とルネはそのまま丘へと降りる。夜風が吹き、とても静か。この前とほとんど変わっていない。唯一、違うことと言えば空の月が満月で無いことくらいだ。そのせいか、少しだけ辺りが暗く感じる(まあ、此方もほとんど変わらないがな)。

ルネが此方を向く。しかし、剣を構えることもなく、体に力が入っていない様子を見るとまだ、手合わせをするつもりはないらしい。


「どうした?」


「実は……この前、アスモデウスさんとイヅナくんのやり取りを聞いていたんだ。」


「……そうか。」


あの時はアスモデウスのことで頭がいっぱいだった。だから、周りが見えていなかったのだが、まさかルネがいたとは。あれを見てルネがどう感じるか、俺には全く、予想がつかない。今、俺が何を言われるかもだ。俺は少しの緊張と共にルネの話に耳を傾ける。


「泣いてたね、アスモデウスさん。」


「泣いてたんじゃない。泣かせたんだ。」


そう。あれは俺が……。


「イヅナくんがそこまで責任を感じる必要はないさ……と言っても意味はないんだろうね。……僕も似た気持ちになったから。」


今のルネの表情。後悔しているのだろうか?アスモデウスを守れなかったことを。

俺もきっとあんな風になっていたんだろう。


「イヅナくんはアスモデウスさんの気持ちに応えるつもりなのかい?」


「当たり前だ。」


俺の本心からの言葉だ。だが、ルネはその言葉の根源がどこにあるのかを知りたいようだ。


「それは……責任を取ろうと考えたからかな?」


先程までと違ったルネがそこにはいた。もしもそうならば切り捨ててやる。ルネの瞳からはそこまでの意思を感じる。実力差など関係ないというわけか。だが、それだけルネにとってアスモデウスは大切な存在なのだろう。しかし、それは俺も同じことだ。


「違うな。俺があいつを好きだと気付いたからだな。いつものアスモデウスの言葉が本心だと知って嬉しいと思っている自分がいたんだ。」


「そう。なら、安心だね。」


安心?俺は疑問に思う。


「何が安心だ。ルネ、お前はアスモデウスのことが好きなんだろ?だったら安心してる場合じゃない筈だ。」


「……安心は出来るよ。だってアスモデウスさんを必ず守ってくれる人がいてくれるんだからね。」


ルネは答える。しかし、俺が聞きたいのはそういう事ではない。俺がアスモデウスを守っているその状況が、ルネにとって安心してはならない事ではないのか?


「そうじゃなくてだ……。」


俺はそれを伝えようと話をつづける。しかし、その必要はなかった。


「けど、諦めた訳じゃない。自分の手でアスモデウスさんを守ることを……。」


俺はルネ・サテライトという男のことをなめていたのかもしれない。いや、なめていたわけではない。彼の覚悟は生半可なものではない。それは俺が邪神であり、アスモデウスが悪魔であることを知ってなお変わらぬ物なのだから。

だが、それでも心のどこかでルネは人間だから、と俺たちと線引きをしていた。別に扱っていたんだ。だが、目の前にいる彼は間違いなく俺たちと同じ域に達している。それこそ最初から力を得ていた俺よりも何もないところから自分で力を得た彼の方が先に進んでいるかもしれない。その為なら彼はどんなことでもするだろう。

アスモデウスへの思いが彼をどこまも高めるのだ。


「だから、手合わせをお願いしたんだ。僕の気持ちを知っている君に。僕のことを理解してる君にね。」


それは違うだろ。俺がお前のことを理解していなくともそうした筈だ。


「ルネ。一つ言っておくが俺とお前は好敵手ライバルみたいな者だぞ?そんな関係で俺がお前を鍛えるようなことをすると思うのか?」


馬鹿な質問をする。


「思うよ。イヅナくんがお人好しなことは知ってるからね。」


「「………。」」


静かに時間だけが過ぎていく。だが、こんな時間無駄でしかない。お互いに答えはもう分かっているのだから。

硬い表情になっていた顔も気づけば緩んだものとなっていた。


「はあ〜。分かったよ。手加減なんてしないからな。」


「ありがとう。」


俺は懐(異空間)から剣を取り出す(生成する)。

それを見てルネは【カラドボルグ】を呼び出す。


「俺の周りにはどうしてこんなに強い奴らが集まるのかね。」


「良いじゃないか。お陰で退屈しないだろ?」


「ああ、全くだ。」


俺はその夜、ルネと剣を交え続けた。彼の思いを応援する協力者として。また、彼と敵対する好敵手として。いづれにせよ、ルネ・サテライトという男を知ることの出来た良い時間を過ごせたことには変わりない。


















次回は年明けてからになると思います。

では、皆さん良いお年を。

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