表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
87/164

気がついてその騎士は

少し短くなってしまいました。今回はルネの話です。


ルネはその日、満月に照らされながら、とある丘で鍛錬をしていた。

本来であれば正午に行う予定であったが、急遽予定が入ったのだ。

しかし、それでも鍛錬をする為に、わぞわざこのような場所まで来る必要があるだろうか。実を言うと、最も鍛錬に適している城の訓練場は使用を許されていない。国王から直々に休養せよとの命令があった為だ。だから、ルネは夜遅くに人が来ないようなこの場所を選んだのだった。


「こい、【聖剣カラドボルグ】。」


ルネの前に魔法陣が現れるとその中から魔力の渦を作りそれは顕現する。

【聖剣カラドボルグ】。その力は『犠牲』。己を差し出し、発揮するその力は【聖剣】の中でも破格である。だがそれ故に扱いが難しい。そして、何どもこの剣を使っているルネはそれに気づいている。

早く使いこなせるようになる。それには時間が幾らあろうと足りない。だからルネは1日たりとも無駄にしないよう、こうして鍛錬に励むのだ。

ルネは【聖剣カラドボルグ】を構え、精神を集中させる。魔力が吸収されるのが分かる。


「はあっ!」


【カラドボルグ】の力を解放し、体の動きを確かめる。

ルネは本来、構えなどの型に忠実であった。父に剣術を習い、それを次々とものにする。同い年の子たちと比べても少し優秀であったと言えよう。だが、少しだった。型に囚われているその剣は読まれやすかった。その為、一定の強さを超えた者たちにルネの剣は届かない。ルネも自分はその程度なのだと半ば諦めかけていた。

だが、そんな彼に転機が訪れた。イヅナ、アスモデウスとの出会いだ。最初はその2人の美しさにやったこともないナンパをしたことが始まり。そこから何故か勇者と戦うことが決められ、アスモデウスに特訓をしてもらった。

一言で言えば地獄だ。防御しきれない力に、目で捉えられない速さ、そして、底なしの体力。とても、型に囚われていては対応できないものだった。必死に攻撃を回避し、死なないようにすることしか出来ない。

そして、その特訓の中でルネの体にも変化が起きる。何度も切られ、死んだような状態から回復し、彼は肉体だけでなく精神までもが鍛えられた。それが彼を人間という枠組みから解き放つ。

そうして彼は順調に力をつけていった。勇者を倒し、学園に封印されていた【聖剣カラドボルグ】を手に入れた。

型に忠実で、それでいて型に囚われない。矛盾しているが彼はそう言った剣士になれたのだ。


「はあっ……はあっ……。」


鍛錬を終え、【聖剣カラドボルグ】をしまうとルネはその場に倒れこんだ。

半人となり、人間だった頃よりも体は丈夫になったが、それでも【聖剣カラドボルグ】を使えば体力の殆どを持っていかれる。


(これではまだまだだね。アスモデウスさんを守れるようになる為にも、【カラドボルグ】を使いこなさないと。)


横になりながらも、想い人のことを考えるルネ。そんな彼に聞き覚えのある声が届いく。そして、それは歌だった。


(これは…。)


ルネは何かに導かれるように歩き出した。夜風が吹き、肌寒さを感じる。しかし、この寒さは本当に風のせいなのだろうか。ルネは疑問に思った。

歌が終わると同時に、ルネはその声の下まで辿り着いた。そこにはアスモデウスが座っている。声をかけようとしたが、ふっと誰かが歩いてくるのが見え、隠れてしまった。守るべき相手を前に隠れるなど問題外だ。しかし、ルネはこのとき本能的にこの人物が誰なのか気づいたのだろう。


(イヅナくんもいる。けど、あの反応を見ると一緒に来たというわけではなさそうだね。)


ルネはその後も隠れ、2人の様子を伺っていた。が、その時だった。彼にとって考えられないことが起きる。


「何がわかったんですか?私の気持ちをですか?じゃあ、言ってくださいよ!私が今、何を考えているか!」


アスモデウスがイヅナに向かって大声を出したのだ。普段、あれだけ想いを寄せている相手に向かってのこと、もちろんこれだけでも考えられないことなのだが、問題はそこではなかった。

声を上げたアスモデウス、その表情がルネの知っているものとは全く違ったのだ。どんなときでも笑顔を絶やさない彼女。その彼女が苦しそうな顔をしている。そして、それはルネの顔を彼女と同じものにさせるのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



結局、ルネが最後まで姿を見せることはなかった。2人は互いの気持ちを確認しあい、街へと戻って行く。他のことを気にする余裕が無かったのか、体力を消費しきったルネに気づくことはなかった。


「………。」


ルネは月を眺めながら考えていた。

アスモデウスには自分では無い好きな男がいたのだ。だが、それをルネが知らぬわけがない。それでもと、彼は諦めずに、彼女を守ろうと着いてきたのだ。

彼女を助けられるだけの力を求め、隣に立つことを目標に掲げる。しかし、それでは、それだけでは駄目だった。

自分の前で泣くアスモデウス。それを見て、一体自分は何をしていているんだ、と問いかけた。

結局、自分しか見ることの出来ない、無知で、脆弱で、哀れなエゴイストでしかなかったのか。


「【聖剣カラドボルグ】。」


気づけばルネはもう一度【カラドボルグ】を取り出し、力を解き放っていた。

『犠牲』の力の代償は愚かな自分の考え。出来ぬ目標を掲げた過去の自分。そう思い、【カラドボルグ】を振り続ける。しかし……。


「はあ……はあ……。どうしてなんだい?どうして僕は自分を捨てられないんだ。出来るわけないじゃないか。」


【カラドボルグ】が代償としたのは少しばかり残った体力、気力のみ。甘い自分が『犠牲』になることはなかった。それは当たり前の話なのだ。如何に【聖剣カラドボルグ】が『犠牲』の力を持つ剣であっても、主人の了承無しに何かを代償にすることなどできない。

ルネは学園でのことをどうしても思い出してしまうのだ。

それは決死の覚悟で戦いに挑むとき…。


『僕に……守らせてくれないかい?』


『告白のつもりですか?』


『なっ!?』


『冗談ですよ。ほら、私を守ってくれるんですよね。』


『…当たり前じゃないか。』


又、特訓のとき…。


『守ってくれる存在になるなら私よりも強くなって下さいよ!全く、話になりません。』


『そこまで言われると少しきついね。』


『……わかりました。ルネ、貴方は私が悪魔だと知ってますよね?』


『それはまあ、聞いたから。』


『なら契約しましょう。』


ルネは突然の提案に混乱する。どうしたら、契約する流れになるのだろうか。


『け、契約?一体、何でかな?』


質問をするもその程度でアスモデウスが取るわけもなく、契約の儀が始まった。


『何でも良いですから!ほら!

悪魔“アスモデウス”は半人“ルネ・サテライトと契約を結ぶ。悪魔は契約者に自分同等の力を身につけさせるまで鍛錬に付き合う。半人は己の言葉が偽りのものではなかった、と証明する。

はい!これでおしまいです。』


『え?』


『私は一応、期待してるんですよ。いつの日か貴方が私を守ってくれると…。それでは!今日の特訓はここまでということで!』


アスモデウスの言葉、契約が彼を止めていた。信じてくれる人がいる。なのに自分が諦めてどうするのだ。

ルネ・サテライトは体力を使い果たし、重くなったその体をゆっくりと起こす。そして、誓う。

二度と彼女にあんな顔をさせるものか。

二度と諦めてたまるか。

そして、彼女との契約を必ず果たそう、と。その思いはルネを強くする。


《ユニークスキル『不心折者』、『契約者』を手に入れました。

ユニークスキル『不心折者』、『契約者』は現在所持するスキルに統合されました。

マスタースキル『風星之神』、『黄泉之神』を手に入れました。

なお、以下のスキルの入手により個体“ルネ・サテライト”は種族“半人”から種族“半神半人”へと進化します………進化失敗。望む形への進化を開始します。

………進化成功。個体“ルネ・サテライト”は種族“半神半魔”へと進化しました。》


届かぬ思いをその身に留め、想い人の為に剣を振る風の騎士。その決意は固く、気高く、騎士を更なる高みへと導くのであった。









描いていくうちに段々とルネが可哀想になってしまいました。

なら直せよ!とか言わないで下さいね。物語上仕方ないんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ