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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら修羅場でした


「お久しぶりです、イヅナ。」


「ああ、久しぶりだな、セリカ。」


出会い方なのか、告白なのか、はたまたキスなのか。何故かはわからない。だが、やはり俺はセリカのことが好きなのだろう。恋は突然にとは言うが、全くその通りだ。

剣を腰に下げ、軽鎧を身に待とうその格好はとても可愛らしいとは言えない。しかし、それは彼女がこれからを生きて行くのに必要と考えたすえの姿だ。彼女らしさを感じることができる。


「セリカ、何故ここに?」


「……すみません。迷惑だとは承知しております。しかし、あなたがどこか遠くへ行き、今、会わなければもう2度とその顔を見ることが出来ないと……フィエンド大陸であなたに会い、手紙を読み、思ったのです。だから………来てしまいました。」


「そ、そうか。」


驚かされる程の行動力だ。

普段の俺ならば、何をやっているんだ、と呆れていたかもしれない。だが、相手がセリカだとそんな言葉は出てこなかった。


「ありがとな。」


「はい。」


セリカは俺の手を取り、笑顔で答えてくれた。その優しい表情に俺は思わず見惚れてしまう。正に2人だけの空間が形成されようとしていた。

が…。


「とうっ!」


俺の頭を何かが叩く。まあ、この状況で手を出す奴がいるとすれば、それは彼女しかいない。


「イヅナ様!恋人の目の前で他の女とキスするなんていい度胸ですね!」


「付き人な。」


「言い訳は聞きたくありません。」


言い訳じゃなく、事実を言ってるだけだ。


「私も詳しく聞きたいなあ〜。」


般若よこやまが俺の肩に手を置き、力を入れる。何故だろうか?俺のステータスの方が圧倒的に高いはずなのだが、痛みを感じる。


「イヅナさん?」


「ん?そう言えば、リアも居たな。」


「ひ、酷いですよ。」


「すまん。お前もここに来たのはセリカと同じ理由か?」


「まあ、そうですけど……。そんなことよりイヅナさん!そちらのセリカさん?とはどう言った関係なのか、詳しくお話ししてもらいますからね!」


俺は女性3人から事情聴取を受けることとなった。


「私も少し気になるわ。」


琴羽が横山の後ろからひょこっと顔を出す。


「俺たちは……。」


「待つしかねえだろ。」


「僕もそうするよ。」


颯太、歩、ルネは俺たちから少しだけ距離を取り、話が終わるのを待つ。後で3人には謝っておくとしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「つまり、セリカさんはフィエンド大陸で飯綱くんに助けてもらった冒険者でその時に好きになってしまって、飯綱くんもそれに応えているような状況と言うわけで。リアさんはギルドの方でそのときに飯綱くんと仲良くなったと、これであってますか?」


横山はそう言って、セリカとリアに視線を向ける。2人は間違いないと頷いた。


「……はあ〜。何で飯綱くんの周りにこんなに可愛い子が集まってるの?」


「さあな。まあ、俺からすれば嬉しい限りだが。」


横山は困った顔で溜息をついた。まあ、彼女の気持ちを考えればそれが当然なことだと分かる。

横山だけではない。皆が暗い顔や何か考え込むような顔をしている。1人を除いて。


「皆さんは大変そうですね、イヅナ様。」


俺に話しかけてきたアスモデウスの表情を見れば、一切の曇りがない、いつも通りの笑顔があった。


「お前は随分余裕そうだな。」


「だって、イヅナ様が1番好きなのは間違いなく私ですから!」


「は?」


「え?」


「「…………。」」


俺とアスモデウスはお互いを見つめ、目をパチクリと動かす。

そして、しばしの静寂。


「私のことが好きですよね?」


「さあな。」


「愛してますよね?」


「…………。」


「もう、イヅナ様ったら照れちゃって〜。」


「いや、照れてはないぞ。」


「「…………。」」


急に静かになったアスモデウス。顔を伏せたため、その表情を見ることはできないが、よく見ると体が震えている。


「イ……。」


「い?」


次の瞬間、アスモデウスが俺の服の襟元を掴み、大きく揺らした。アスモデウスの高ステータスのせいで服が今にも破けそうである。


「おい、服、服!」


「イヅナ様の馬鹿〜!!!」


必死に呼びかけ、止めようとするが、興奮状態の彼女には俺の声が届かない。


「デートだってしたじゃないですか!一緒のベッドで寝たじゃありませんか!あれは遊びだったんですか〜!」


「おい、その言い方は誤解される。」


「イヅナ。それはどう言うことですか。」


「飯綱くん?」


「イヅナさんはやっぱりもう手を出していたんですね。」


俺の知らぬ間にどんどんと状況が悪くなっていく。これ以上行けばもう収集がつかなくなってしまう。何か考えなくては。

俺はまるで浮気がバレた男であるかのように必死に打開案を考える。

歩、颯太に話をしたところで勘違いが広がって行きそうだ。それに悪ふざけもあいつらならやりかねない。ルネは………アスモデウスに言いくるめられて終わりだな。となると……何もないな。

俺はこの場を収めることが出来ない。自分の終わりを考え始めたそのときだった。予想外のところから救いの手が差し伸べられた。


「飯綱くんはそんなことしないわ。それにきっと今も必死で考えてくれてるのよ。」


琴羽の一言で全員が静かになり、視線を俺から琴羽へと移した。


「飯綱くんは優しくて、相手のことを考える。そんな人がアスモデウスさんに軽く手を出したりなんかしないわよ。一緒のベッドで寝ただけなのでしょう?そして、それにも何かしらの理由があった。違うかしら?」


「いや、合ってる。」


「それにアスモデウスさん。彼はあなたのことを1番には考えられないのよ。」


「え?何でですか?」


琴羽の言葉にショックを受けたようだ、アスモデウスの顔が青くなる。しかし、その後に続く言葉を聞き、それも変わった。


「彼は自分のことに関しては軽く物事を考えてしまう。けれど、自分の周囲の人たちのことは何よりも大切に考える。そうね、例えば自分が犠牲になって他の人が助かるならそれも良い、みたいな感じかしら。」


琴羽が言うことは本人の俺からするとわからない。ただ、周りから見れば俺はそう見えているのだろう。


「だから、誰かを1番にして、それ以外の人が不幸になることをどうしても考えてしまうのよ。だから、セリカさんとはキスまで来ておいて、そこから先のことは何も言えない。……飯綱くんは優しすぎるのよ。だから、アスモデウスさんが言うようなことは無いし、皆を愛そうとしてくれるはずよ。そう私は思っているわ。」


琴羽の話が終わる頃には全員が落ち着きを取り戻していた。また、全員が悔しそうに琴羽を見ていた。


「な、何かしら?」


「何か負けた気がします!」


「私も。」


「私もです。」


「私もですよ〜。」


よく分からないが、取り敢えずひと段落はついたようだ。俺はほっとし、詰まっていた息を吐き出す。

俺は優しすぎる。琴羽は言っていた。それを自覚してないわけでは無い。だが、やはり自分自身を変えることは出来ない。

意気地が無い俺は俺のことを好いてくれる彼女たちを選ぶことができない。彼女たちのことも考えてはいるだろう。しかし、それだけではない。怖いのだ。自分と彼女たちのこと関係を変えてしまうことが。

この世界にきて、沢山のことをやってきた。それは間違いなく、誰かの人生を変えている。だが、それは別に良い。俺は所詮は小さい存在だ。大きなことを考えたところでどうにもならないし、どうも思わない。

だが、手の届く範囲ならば話は変わる。身近なものだからこそ、慣れ親しんだものだからこそ、心が揺らぐのだ。

けれど、それももう終わりだ。俺は彼女たちとも向き合っていこう。それが彼女たちのためになる筈だから。


「悪いな、セリカ、リア、それに横山と琴羽もだな。気持ちを知っておきながら、俺は何も出来てない。だが、決めた。俺はこれからの為にも真剣に考え、向き合うことにする。時間はかかる。けれど、待ってほしい。まあ、その間に俺に愛想が尽きたなら別だがな。」


「「「「「そんなことない(よ、わ、です、)。」」」」」


迷わず全員がその一言を言える。全く、俺には勿体ない奴らばかりだ。


「くだらないことを聞いたな。すまん。それよりももう一度街を見て回ろう。リアもセリカも来たしな。もっと楽しくなるだろ?」


俺の提案に彼女たちはお互いを見合い、笑い合う。


「そうですね、一先ずはそうしましょう。」


「うん、そうだね。あれ?それよりも何で飯綱くんが私の気持ちを知ってるかの方が気になるような……。」


「結衣、気にしたら負けよ。」


「わ、私は別にイヅナさんのことを好きだとは言っていませんよ。」


こうして俺たちは再び、街を散策することとなった。歩たちと合流し、大通りへと向かう。

大通りももう手前と言うところでアスモデウスが話しかけて来た。


「イヅナ様、何で先ほど『悪いな。』と言ったとき、私の名前が出なかったんですか?私、恋人ですよ?」


「付き人だろ?まあ、アスモデウスはいつもふざけたこと言うからな。所構わずに好きと言う相手を真剣に考えたりはしない。」


「私の気持ちが本当だったとしてもですか?」


「冗談だろ?」


「………そ、そんなわけ無いじゃないですか〜。本気で愛してますよね、イ・ヅ・ナ・さ・ま♡」


「それゃどうも。」


俺はふざけるアスモデウスをいつも通り、対応する。明るく、振る舞う彼女。この世界で俺を近くで見守ってくれていた存在。しかし、だから、だからこそ、俺は気づかなかった。否、気づこうとしなかった。最も変わりたくない関係だったから。

アスモデウスはその後、俺の後ろを静かに歩いていた。














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