気がついたらキスでした
お久しぶりです。
この回に出てくるキャラもお久しぶりです。
雲1つなく澄み渡る青い空。心地よく吹く風。今日は外出するには持って来いの日だ。無論、俺がそんな機会を逃すわけもなく、今は王都で1番の大通りを歩いている。
ダンジョンをから帰った俺たちの為に5日程の休養期間が与えられた。試練が如何に厳しく、壮絶だったかを、ボロボロになった俺たち(俺はそうでもないが。)を見て、国王も理解したらしい。その為、昨日はほとんどの者が城から出ることなく、体の疲れを取ることに専念した様子だった。俺は体に疲れはなかったが、1人だけピンピンしていたら勘違いされる可能性もある。その為、俺も城から出なかった。
だが、今日は違う。今朝は天気も良かったので1人でも城下町を散策しようと考えていた。まあ、アスモデウスがいるのだから、1人になることは無いとおもうが。
俺はどうせ付いて来るならと、アスモデウスに外出することを伝えると。
「あ、それじゃあ待っていてください!お城の人たちに頼んで、思わずイヅナ様がときめいちゃうような変身を遂げて見せますよ!あ、ルネも行きます?」
「僕かい?僕は……。」
「行きますよね?」
「僕…。」
「行きますよ。」
と言うことで、たまたま側を通りかかったルネが被害を受けることとなった。まあ、ルネからすればそれは不幸ではなく、幸運であるわけだが。
これで3人で行動することとなったのだが、ここで終わりではなかった。俺たちの話を横山が聞き、琴羽、歩、颯太、と伝わっていき、
「結果がこれか。」
「これとは何だ、これとは。」
歩がキレのいいツッコミをしてくれた。まあ、今はそんなことは置いておこう。
着替えを済ませ、城門の前まで来た俺の前には横山、琴羽、歩、颯太、ルネが並んでいる。
「別に誰かと一緒にでも良いとは思ってはいたが……少し多過ぎないか?」
「ご、ごめんね、飯綱くん。」
「ごめんなさい。」
横山と琴羽が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、2人が気にすることは無い。むしろ嬉しいくらいだ。ルネもアスモデウスに無理に連れてこられた身だ仕方ない。」
「ハハハ、まあ、元々行こうとは思っていたのだけどね?アスモデウスさんが言葉を遮るから。」
まあ、好きな人に誘われて断る人はいないか。まあ、それでも無理に連れてこられたことには変わりない。問題は……。
「な、何だよ!別に良いだろ?俺たち親友なんだしさ!」
「俺はどうせなら大人数で出掛けた方が楽しくなると思ったんだけど……。」
「親友?………楽しい………男が増えて?」
「「雅風、流石に酷く無いか?」」
おい、大の男2人が涙目になるんじゃ無い。俺はそんな情けない2人を笑いながら冗談だと伝えた。2人ともそれを聞いてほっとした様子だったが、きっと分かっていての一連の流れだろう。
2人のおかげで場の雰囲気が良くなった頃、それをぶち壊すかの如く大きな声を上げながら、こちらに近付いて来る者がいた。
「イヅナ様〜!!!お待たせしました〜!!!」
「遅刻だぞ…って。」
「イヅナ様〜〜〜!!!」
何を考えたのか、俺に向かって飛び込んで来るアスモデウス。普段の俺ならば、華麗にスルーだが、確かアスモデウスは城の人たちに着付けをして貰ったらしい。と言うことはあの服は城の方から貸し出されたものである可能性が高い。俺は服を汚さぬよう、仕方なくアスモデウスを受け止める。不覚にもお姫様抱っこをしてしまった。
「流石、イヅナ様。誰に見られていても、恋人を迷うことなくお姫様抱っこするなんて。でも、こんなに見られてると恥ずかしいです。」
「なら、降りろ。それと俺がお前を抱えたのは、服が汚れ無いようにするためだ。」
「もう、正直になれないところも可愛いですねえ。」
「………ルネ、助けてくれ。」
「イヅナくん。紳士の僕でも、出来ないことがあることを理解してほしい。すまない。」
「そんなことよりイヅナ様!」
アスモデウスはようやく俺から降りるとその場でくるりと回り、俺に何か言って欲しいそうにこちらを見る。先程から気づいてはいたが、赤い花柄のワンピースを着ている。服のせいか、いつもの彼女を知っていても、普段とは違い、お淑やかに見えてしまう。とにかくギャップがすごい。
「まあ、似合ってるんじゃ無いか。」
「……イヅナ様が素直に褒めてくれるなんて今日は雷でも降りますかね?」
「お前なあ。」
「冗談ですよ、冗談。」
アスモデウスは俺の腕にくっつき、そのままの状態で城下町の方へと足を進める。
「さあ、皆さん!行きましょう!」
と言うわけで、最初に戻るわけだ。
城下町の大通りは沢山の人で溢れていた。何でも、生活に必要な物がほとんど揃うと言うのだ。だが、それは決して、この通りに多くの店があるからでは無い。実はこの通りには市場所と呼ばれる場所が設けられているのだ。
織田信長の『楽市楽座』を思い浮かべて貰えば良い。ある一部の場所には店などがなく、広い空間が作られている。そこで王都の店や、他国からの商人など多数の人々が物の売買をしているのだ。ただし、場所を取るには正式な許可証や場所の貸出量、それに税も払わなくてはならない。しかし、それを差し置いても儲けがでるほどにこの大通りは賑わうのだ。
この制度を取り入れたのは何代か前の勇者だと言うが、この世界はいつから勇者召喚をしているのだろうか。
「飯綱くん。どうかした?」
琴羽が心配そうに見上げて来る。
「いや、何でもない。大丈夫だ。」
「そう?何か悩みがあるならいつでも聞くわよ?あなたの為ならそのくらい容易いもの。」
「琴羽……。ありが……。」
俺が話しているのにも関係なく、見覚えのある赤い髪を持った付き人が間に入った。
「何だ、アスモデウス。」
「な、何かしら?」
琴羽も驚いた様子でアスモデウスに問いかける。
「……別に何でもないです。ただ、2人の仲が良さげに見えただけですよ。」
明らかに不機嫌だ。それにどこかいつものアスモデウスと違うような。
「別にそんなことはないと思うのだけど…。」
「……そうですか?私から見たら、琴羽さんはもしかしたらイヅナ様のことが好きなんじゃないかな〜〜っと思えるくらい、会話を楽しんでるようには見えましたよ?」
「そうなの?琴羽ちゃん?」
おい、何故そこで横山が参戦するんだ。
2対1の不利な状況に置かれた琴羽は何も言うことなく黙ってしまってる。まさかとは思うが2人の謎の気迫に押されているわけでは無いよな。俺は琴羽の様子を伺う。
「……た…。」
「「「た?」」」
「た、た、た、楽しむわけ無いでしょ!?な、な、な、な、何を言ってるのかしら。そんな飯綱くんと話せて嬉しいなんて少しも考えてないわ。べ、別に嫌なわけじゃないわよ?」
「「「…………。」」」
想定外の慌てぶりに俺を含め3人は何も言えずにいる。
だが、あの慌て方に先程の言葉。俺は何となくだが、琴羽の心中を察した。
「琴羽ちゃん。ちょっとこっちに来て。」
「な、何?」
そう言って横山は俺に声が届かないと思う距離まで移動した。まあ、実際には聞こえたので耳を塞いだことは彼女たちには秘密だ。
「単刀直入に聞くよ。飯綱くんとダンジョンで何かあったの?」
「それは……。」
「あったんだね。」
横山にとって、その間が肯定を意味するには十分だった。
「………ええ。」
「それで惚れちゃったわけだ。」
「ほっ、惚れてなんていないわ。」
「ううん。私にはわかるよ。琴羽ちゃん変わったから。前のどこか近づききれない距離感を今は感じない。だから、琴羽ちゃんのことがよく分かるようになったの。親友として嬉しい限りだよ。」
「結衣…。」
「でも、今は恋のライバルでもあるわけだね。」
「……そうかもしれないわ。」
素直になった琴羽はすぐに事実に気づく。自分の気持ちに正直になる。飯綱雅風が好きだと。
「私、負けないから。」
「そ、そう。」
「うん!でも、今は折角のお休みだし、みんなでこの時間を楽しもうよ。」
「元々そのつもりよ。」
「よし!それじゃあ行こう!」
横山は琴羽の手を掴み、俺たちと合流した。
「話はもう良いのか?」
「うん!もう済んだよ。」
「そうか。」
「私はまだありますよ!」
「よし、それじゃあ適当に散策でもするか。」
「あれ?イヅナ様?お〜〜い。聞こえてますか?お〜〜い。」
聞きなれた声の空耳が聞こえるがきっと気のせいだろう。
「よし!それじゃあ休みを楽しむとするか。」
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「よく買ったな、歩。横山たちよりも量が多いってどういうことだよ。」
「俺も止めたんやだけどね。無駄だった。」
「僕は良いと思うよ。(嘘だけど。)」
「そうだよなあ!この光る水晶なんてカッコ良すぎだよなあ。」
(((駄目だこいつは。)))
午前中から買い物を始め、今は正午を過ぎている。あまり長い間、見て回った訳ではないが、歩の荷物の量が尋常ではなく、邪魔になった為、今は広場で休みながら今後の行動について考えているところだ。
「私たちも少し買いすぎちゃったかな?」
「そんなことないですよ。これくらいのバリエーションが無いとイヅナ様が振り向いてくれませんから。」
「そんなことはない。」
横山とアスモデウスは流行の服やアクセサリーなどを買っていた。本人たちも楽しめていたようだったし、何よりだ。
琴羽と颯太、それにルネは少し飲み食いをしただけで目立った出費はなかった。それでも、全員で過ごせる時間とあって楽しそうではあった。
そして、歩。楽しんでいたな。
「まあ、こんな荷物あっても邪魔だ。俺が収納しとくから荷物よこせ。」
「お前そんなことも出来んのか?」
「まあ、大体のことは出来るな。」
会話をしながら、歩の物を適当に、横山と(仕方なく)アスモデウスの物は丁寧に収納する。
「流石イヅナ様です。イヅナ様〜〜!!!愛してます〜〜!!!」
「はいはい。」
こいつのノリにも少し慣れてきたのか、軽く受け流すスキルが上がってきた。
スキル
『付き人流しレベル100』
ただ、このときの俺は知らなかった。受け流した言葉が数十秒後にとんでもない事件を起こす引き金となるとは。
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ーーー謎の受付嬢SIDEーーー
「イヅナ様〜〜!!!愛してます〜〜!!!」
「い、今、イヅナさんって。」
少女は声のした方へと駆け出す。
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ーーー謎の冒険者SIDEーーー
「イヅナ様〜〜!!!愛してます〜〜!!!」
「この声は聞き覚えがあります。それに今、イヅナと。」
また、彼女も声のした方へと駆け出す。
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ーーーイヅナSIDEーーー
「よし、荷物もしまい終わったし、移動するか。」
「そうだな!行くか。」
そうして、俺たちが広場を去ろうとしたその時だった。
「ん?イヅナ様あちらに手を振って近づいてくるどこかの大陸のギルドの方がいますよ?」
「ギルドの方?知り合いか?」
「はい!こう見えても私って記憶力いいんですよ。確か、名前は……“リア”です。」
「…リアか。………リア!?」
リア。それはフィエンド大陸のとある街のギルドで働く少女の名だ。だが、彼女がこんな場所にいるわけがない。必ず帰るからと伝え、待っていると彼女は答えていた。だが………。
「イヅナさ〜ん!お久しぶりです。」
あれは間違いなくリアだ。俺に再会する時にはギルド員のリーダーになると約束をしたリアだ。
「何でここにいるんだ?」
「本人に聞けばいいじゃないですか。」
「飯綱くん、あの人は誰?」
俺の横で般若……ではなく横山さんが圧をかけてくる。なんて居心地の悪い空間だろうか。
「モテる男は辛いな、雅風。」
「歩はモテないもんな。」
「うるせえ!!!」
自分から振っておいて切れるな。
そんなことを思いながら、俺はだんだんと近づいてくるリアをジッと見ていた。しかし、この場ではそれよりも更なる脅威となる存在がすぐ後ろまで迫っていることに俺は気づいていなかった。
「うおっ!」
「どうしたんですか?イヅナさ……。」
「飯綱く……。」
アスモデウスと横山が停止した。それは俺にくっつく1人の女性を見たからだ。俺もその姿を見て、一瞬だが思考が停止した。それはこの場にいないはずの人物であり、俺が会いたいと思っていた人でもあった。
「イヅナ……。」
「セリカ……。」
俺は正面から彼女の顔を見た。綺麗だ。リアには悪いが、セリカから目が離せない。
「おっ!また、新しい人ですか。モテますな……。」
「イヅナ様から離れなさ……。」
「飯綱くんその人はだ…れ……。」
「イヅナさ……ん?」
歩、意識が覚醒したアスモデウス、横山、それにリアまでもが驚きのあまり固まってしまった。それも仕方ない。俺と見つめあっていたセリカはそのまま顔をさらに近づけ、そして。
「ん…。」
キスをした。
「「「えええ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」
皆の驚きをよそに長いキスをした俺たち。まあ、俺も半分くらい意識を持っていかれているのでどのくらいの時間していたのかは定かではない。
セリカは俺の顔を再び、見つめ。
「お久しぶりです。イヅナ。」
優しく呟いた。
次回は今週の木曜日の投稿を予定してます。