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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら外でした


「君は一体、何者だ!」


「…………。」


俺は先代にすぐに返答しなかった。この世界に来てからというもの、同じような質問を幾度となくされて来た。


『お前は何者だ?』


俺は思う。これ程までに答えが決まっているものがあるだろうか、と。相手にとっては未知の存在や脅威であったとしても、本人からすれば自分は自分でしかないのだ。つまり、俺自身のことを問われてもそれは自分の考える俺であって、相手の知りたい俺ではないのだ。まあ、それが一致していることがないとは言わないが。

とにかく、俺はこいつが知りたい俺を話さなくてはならないのだ。


「……俺はそこの勇者たちの級友だよ。つまり、異世界から来た出来損ないだ。」


「出来損ない?」


「そうだ。俺は召喚に失敗して、勇者としてはこの世界に飛ばされなかった。出た場所も違ったしな。」


俺は1人だけ、別の場所に召喚された。暗く、何も感じない、寂しい場所に。そこで魔神シヴァと出会うこととなったのだ。そこで世界の真実を知り、この力を手に入れることとなった。


「俺はそこで力を手に入れただけだ。そうしなければ死んでいたからな。」


「なら、その力をどうやって手に入れたんだ。」


俺は言っても問題にならないことを選び、真実を伝える。


「譲り受けたのさ。仲間だと思っていた奴に裏切られた者からな。それ以上は話す気はない。」


先代の勇者は怯えていた。目を見れば簡単にわかるのだ。スキルとは違うフィエンド大陸で多数の魔物を狩ったときに会得した力だ。倒していくうちに魔物たちが背を向け逃げるようになっていた。目を見れば、恐怖で覆い尽くされていた。それからと言うもの、俺は相手の目を見るだけで愛の感情を軽くだが読み取れるようになっていた。特に恐怖や怯えと言った感情に敏感に反応する。

だからこそ、今の先代の勇者を見てわかった。自分以上の力を持ち、得体の知れない俺という存在に。いくらプログラムとは言え、やはり人間の記憶を継いでいればこうなる。


「な、なら、そこの2人はどうなんだ!」


先代は俺を恐れたのか、質問の対象をアスモデウスとルネに変えた。アスモデウスはそんなこと知ったことではないと興味なさそうに聞き流し、ルネは認めて貰えたことにより、気持ちが楽になっていたようだが、それが消えた。耳すら傾けることをしないアスモデウスとガチガチに緊張しているルネはあまりに対照的で思わず笑いそうになる。が、今は耐えよう。


「この2人は俺がステータスを隠蔽してるからな分からなくて当然だろ?安心しろ、俺ほどの力はない。まあそれでも勇者よりは強いがな。」


「……嘘はついてないみたいだね。」


「当然だ。そんなことをしても時間の無駄だ。俺は先代に信用して貰いたいからな。」


「…………。」


先代は俺たちを見て考える。認めるべきではないと心の中で思っているかもしれない。だが、俺たちの力を測りきれない以上、そう言うのはリスクを伴う。無数の可能性が先代の判断を遅らせているのだろう。

考え込む先代。そんな彼に1人近づく者がいた。


「なあ、そんなに考える必要無いぜ。」


「君は……確か歩くんか。」


歩が先代の肩に手を置き、口を開く。


「こいつは人を騙して利用したり、誑かしたりするような奴じゃ無い。学園でも俺たちを助けてくれた。それは親友である俺が一番理解してる。俺たちにも詳しいことはまだ教えてくれては無いが、まあ事情があるんだろ。だから俺たちは聞かない。そんでもってあんたにも聞かないで貰いたいんだ。」


歩の言葉に考え込む先代。自分は信用できなくとも共に戦う者たちが信用していると言う事実は変わらない。信頼し合うと言うことが仲間にとってどれだけ大切なのかそれを1番理解しているのは彼だろう。

先代は顔を上げ、全員の顔を見る。そして、俺たちが全員同じ気持ちと言うことを確認した。


「………わかった。君たちの詮索はもうしない。力強い信頼できる仲間がいる、と言うことにしておくよ。」


「そうして貰えると助かる。」


これで先代からも了解を得ることができた。今の俺にとって、創造神と戦うこととなるその日の為に関係を作れることは大きい。歩に感謝だな。


「話が逸れてしまったけど、【聖剣グラム】を授けようと思う。」


先代が言うのと同時に、輝きを増す【聖剣グラム】。自身を持つに相応しい相手を見つけたのだろか。


「【聖剣グラム】その力は剣でありながら『守護』。これから先、仲間たちを守り抜く為に必ず必要となるものだ。そして、その担い手として選ばれたのは……。」


【聖剣グラム】の輝きは治まるところを知らず、遂には俺たちの体を包み込んだ。


「うおっ!」


「きゃっ!」


「きゃ〜〜!イヅナ様助けて〜!」


1人を除いて、皆もこの光に慌てているようだ。俺も耐えきれずに目を閉じる。だが、それでも光を浴びているのがわかった。

全く、なぜ伝説の装備の演出はこうも激しいのか。

俺が心の中で文句を言っているうちに光は徐々に治っていく。ようやく目を開いた頃には、先代の横に【聖剣グラム】はなかった。


「君がその力を継いだか。」


先代の視線の先。そこには【聖剣グラム】を手に持つ、颯太の姿があった。


「俺が…。」


「どうした?不安でも?」


「………。いえ、不安はありません。ただ、これを持ったときイメージが流れてきたんです。あれは恐らく、魔神と戦う先代の勇者たち。」


「そうか。どうだった?」


「凄すぎるものを見ると何も言えなくなるものですね。ただ、1つ言えることがあります。僕は例えあれだけの攻撃が来ようとも、仲間たちを必ず守り抜いて見せます。」


拳を握り、覚悟を決める颯太。【聖剣グラム】もそれに呼応し、光を帯びる。その姿はまさしくお伽話に出てくる勇者そのものだった。

颯太は振り向き、剣を掲げながら俺たちに言う。


「大丈夫だ、皆。これからは僕が守る。」


「バーカ。」


颯太の言葉に言い返したのは歩だった。颯太は歩の言葉に少し不満そうだ。


「ば、馬鹿とは何だ。僕はこの【聖剣グラム】で皆を守ろうと……。」


俺は颯太の口を抑え、黙らせた。歩の言葉にはまだ続きがある。言い返すなら、それを聞いてからにして欲しかったからだ。俺は歩の方を向き、頷いて話を続けるように伝える。


「颯太。お前はこの世界を救うために召喚された勇者の1人だろ?」


「そんなことはわかって……。」


はい、黙ろうか。俺は再び、口を抑える。その間も歩は話を続ける。


「勿論、それは俺たちも一緒だ。だからな、お前が俺たちを守るんじゃねえ、俺たちで俺たちを守るんだ。上手く言えねえが、わかるよな?」


つまり歩は、自分たちは『守られる仲間ではなく、共に戦う為の仲間である。』と言いたいのだ。今の颯太の頭の中は【聖剣グラム】の『守護』と言う力のことでいっぱいだ。つまりは戦い、進むことではなく、守り、留まることを自然に考えている。初めて持ったその【聖剣】の力に圧倒されているのだ。

歩はそれにいち早く気づき、軽いジャブで目を覚まさせようとしている。そして、どうやらその甲斐もあり、颯太も気づくことが出来たみたいだ。


「……そうだよな。悪い、少し冷静じゃなかった。」


「気にすんなよ。」


歩は颯太の背中を軽く叩く。男は意外と馬鹿な生き物だからな。ああ言った行動をしてくれるだけで、不思議と気持ちに変化が現れるものだ。

颯太は【聖剣グラム】をしまい、先代へ頭を下げた。


「ありがとうございました。」


「これが僕の仕事だから、礼を言われる筋合いはないよ。むしろお礼を言いたいのは僕の方だ。君たちを見ていると、昔の仲間たちを思い出せるからね。」


先代はそう言うと、俺たちに背を向けた。威厳のあったその姿も後ろから見ると、とても小さく見えた。


「先代……。」


颯太は先代に手を差し出そうとしたが、途中でその手を止めた。プログラムとは言え、その心は1人の人間。大切な仲間たちと別れ、1人寂しく今日まで来た。そんな彼にどう声をかければ良いのか、颯太には分からなかったのだ。

そんな中、横山が颯太の隣を通り、先代の側に移動した。


「仲間を思い出したくなったら、いつでも呼んでください。その度に寂しくなってしまうかもしれないけど、それでも、嬉しくもきっと感じるかはずです。だから、いつでも呼んでください。」


「…………。」


突然のことに、先代も何を言って良いのか分からなくなり、黙ってしまった。が、すぐに慰められてるのだと気づき、笑顔で答える。


「ありがとう。君たちは本当にいい仲間たちだな。」


歩は当たり前だと言わんばかりのドヤ顔をし、横山や琴羽は少し照れているようだ。颯太は感情を露わにする琴羽の姿に見惚れている。それで良いのか【聖剣】の使い手とツッコミを入れたくなった。先代も颯太に何か言いたそうに、ジッと視線を送っている。


「……まあ、良しとするか。話が長くなったが、皆を外に送り届けるとしよう。」


そう言うと先代は杖を掲げる。すると、地面から大きな鏡が飛び出して来た。出口だ。


「さあ、これに入れば外に戻れる。」


「1つ、聞いても良いかしら。」


琴羽が手を挙げ、前に出る。


「何かな?」


「私たちはいずれ戦う魔神について何か情報は無いのかしら。弱点とか、どんな攻撃をしてくるとか。」


「ないよ。」


即答だった。


「ここで僕が何を伝えたとしても、今の魔神が当時と同じとは限らない。僕たちの知らない攻撃しかしないかもしれないし、過去使った手は通用しないかもしれない。ただ、【聖剣】は創造神様が僕たちに授けた剣だ。魔神が【聖剣】に耐性を持ったとしても、それは過去の【聖剣】の耐性であって、現在のものではない。」


「つまり、【聖剣】のみが確実な有効打を与えられる、と言うことかしら?」


「そう言うことだ。」


「王国で聞いたのことと変わらないわね。」


どうやら、これ以上の情報を得ることは難しいようだ。琴羽は先代に礼を言うと、鏡の中へと入って行った。次にルネ、アスモデウス、颯太、歩の順だ。鏡に近いものから入って行った。

続いて横山が鏡に入ろうとした時だった。先代が横山を止めたのだ。


「何ですか?」


「……いや、そのだな。………魔神を倒した後で良いから、またここに来てはくれないだろうか。……全員で。」


何だこのツンデレもどきは。

俺が先代の予想外の一言とに驚いている隣で、横山は嬉しそうにしている。


「はい、勿論です。祝賀会の会場はここで決まりですね。」


そう言って、鏡の中へと入って行った。

残ったのは俺と先代の2人。少し気まずく思った俺がさっさと立ち去ろうとする俺に、先代が一言だけ声を掛けた。


「今は信用してやる。」


俺も一言返そうとしたが、それよりも先に体がダンジョンから出てしまった。

周りにはダンジョンに入れなかった勇者や兵士たちがいた。颯太や歩たちを心配しているようだ。まあ、勇者ではない俺のもとには兵士は来るわけもなく、アスモデウスとルネがやってきた。


「楽しかったですね。」


「アスモデウスさん、それは本気で言ってるのかい?」


「本気ですよ?本気の冗談。」


「「…………。」」


アスモデウスはどこまで行ってもアスモデウスなのだと、心の底から思った俺とルネであった。


「アスモデウス!見事にダンジョンをクリアしました!褒めてください!」


「誰に言ってるんだかな。」

















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