気がついたら壁でした
突如としてできたクレーターから歩くこと丸一日。俺はまだ森の中にいた。
「しかし、この森広いな。人間だった頃ならとっくに体力が限界になってただろうな。」
俺は魔神になってから疲れというものを感じなかった。食事も睡眠も必要ないらしく、先ほどの言葉通り一日中休むことなく歩いても問題ないのだ。
「1日歩いてもやっと半分か。意外と遠いな。」
そんなことを言っていると俺の『索敵』に何かが反応した。
ちなみにこの『索敵』は前に言っていた、『アブソース』と『ウボ・サスラ』を同時に使用することによって発動するものだ。
俺は反応があった方に向かった。するとそこには禍々しい色をした一本の角を持つ熊がいた。
「見た感じは熊だが……。いったい何だこいつは?」
俺は敵について詳しくわかるスキルがないかを探した。すると、またスキルがピックアップされた。本当に便利だ。ピックアップされたスキルを確認すると
『アブソース』
またお前か…。
どうやら熊は正体を知ろうとした結果、ステータスを確認することのできるスキルがピックアップされたようだ。
実はステータスとはその生物の魂、精神、あるいは心などと呼ばれている部分に刻まれているらしく、精神を掌握することのできる『アブソース』を使えば相手のステータスを見ることくらい簡単にできるのだ。
俺は早速、目の前の熊(仮)のステータスを見てみた。
【一角熊(亜種)】
種族:魔獣
性別:なし
レベル:530
攻撃力:25000
防御力:20000
魔攻撃:8000
魔防御:10000
魔力:5000
俊敏:9000
運:20
【能力】
スキル
『威圧レベル85』
『見切りレベル60』
こんな感じだ。名前は何のひねりもない。確か、この世界の普通の人間の平均的なステータス値が500前後だった。それを考えるとこいつは強いモンスターなのだろう。
そこで俺はこの一角熊で自分の力の確認とコントロールの練習をすることにした。
「よし、とりあえずかかってこい。」
まずは、一角熊の攻撃を食らってみる。
「グオォォォ!!!」
一角熊は俺に向かって突進してきた。そして、俺にその角があたったその瞬間、
バキッ!!!
「グァァァァ!!!」
一角熊の角は折れた。それに打って変わって、俺には傷一つなかった。
「まあ、こんなもんか。」
流石に25000しか攻撃力のないやつからダメージを受けることはなかった。防御の方は確認できた。他のステータスに関してもこんな感じで圧倒することだろう。
そうなると残るは力のコントロールである。
「そもそも、俺ってどのくらい自分の力をコントロール出来てるんだ?」
試しに俺はすぐ横にある木を折るつもりで殴った。すると、木は折れたには折れたがそのまま地面に対して平行に飛んでいき、1キロほど先まで他の木々を巻き込みながら吹き飛んで行った。
「こりゃ駄目だ。」
全く力のコントロールができてなかった。だが、力のコントロールを諦めるとなると、俺の力を軽減する、つまり封印するなどといった方法に限られてくる。しかし、俺の力を封印仕切れるのかどうかも疑わしい…。
「つまり、俺に関与しないで力を抑え込めればいいってことか。」
俺は『ヨグ・ソトース』を使い、自分の周りの空間を作り変えることにした。
力の伝わりを弱くし、さらにこの空間から外の空間に向けて力が流れるとき、その力を通常の数億分の1まで弱くなるように空間を作り変えた。
「よし、こんなもんか。」
また、俺は木を殴ってみた。すると今度は、木が折れてゆっくりとその場に倒れた。成功だ。俺はこの空間を常時展開しておくことにした。ちなみに、範囲は俺の周囲0.001ミリくらいなので周りには何の害もない。
「これで、力のコントロールも大丈夫だな。じゃあそろそろ街に「グオォォォ!!!」
俺は声が聞こえた方を向いた。
「そういえばいたな。すっかり忘れてた。」
そこには、角を折られ、機嫌が悪そうな一角熊がいた。俺と目があうと同時に走ってきた。
「気絶するくらいで殴ってみるか。」
俺は間合いを一瞬でつめ、アッパーを決めた。一角熊は二回ほど空中で回転し落ちた。見事、気絶していた。
「角だけ貰ってくか。」
俺は角を拾い、再び街に向かい歩き始めた。
この後は一角熊のような魔獣に会うこともなく無事に街の近くまで行くことができた。しかし、もう少しで街が見えてくるというところで何かが視界を遮った。
「ん?何だあれ?」
俺は森と街の間に高さ2、30メートルほどの壁があることに気づいた。俺はこの壁を避けるためどこまで壁が続いているのか調べることにした。
だが、驚くべきことにこの壁は森を完全に覆っていた。 さらには、ご丁寧に結界まで張ってある。
「流石にここから街に行ったら怪しまれるよな。」
俺は仕方なく街から30キロほど離れた草原に“瞬間移動”し、街に向かう。
街の入り口には大きな門があり、何人かの衛兵が立っていた。検問を行っているようで列ができており、俺は列の最後尾に並んだ。
商人たちがみんな俺のことを見ているような気がしたが、まあ気のせいだろう。
1時間ほど待つだろうと思っていたが、衛兵たちの手際がよく、20分もしないで順番が回ってきた。
しかし、衛兵は俺を見て固まっていた。
「あの〜。大丈夫ですか?」
「へ?あっ。す、すみません。」
全くしっかりして欲しいものだ。
「 身分証、もしくはギルドカードを確認させていただきます。」
「わかりました。」
流石に俺も身分証もなく街に入れるとは思っていなかった。そこで俺は前の商人が持っていた身分証を見て、自分の身分証を作っておいたのだ。もちろん偽物である。
「……商人のイヅナ様ですね。はい、確認しました。」
「どうも。」
そして俺は異世界初の街、フォートレスへと入国した。