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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら進んでました

ーーー横山結衣SIDEーーー



あたりは真っ暗。まるに水中にいるみたい。体が動かないし、意識も朦朧としている。今、自分がどこにいるのかわからない。

ただ、なぜかそのとき、私は日本にいた頃のことを思い出していた。家族があり、学校があり、友達があり、とても楽しい毎日だった。それに何より彼がいたから……。

私が高校1年生のときのことです。その頃の私はクラスのみんなからよく言われていたことがありました。


『横山さんは可愛いよね。』


『そうそう、私たちと違ってねえ。』


『本当に可愛いよなあ、横山さんは。』


『本当だよなあ、付き合うならあんな人とが良いよなあ。まあ、俺たちじゃあ釣り合わねえか。』


『違えねえな。』



普通に聞いていれば褒め言葉です。彼女たちには悪意なんてものはありません。心の奥底から出た純粋な気持ちです。最初の頃は嬉しいと思いました。けど、それを何度も聞いていくうちに、私は悲しくなっていきました。

私はみんなとは違うと、言われている気がしてきたんです。これは自分勝手な考え方だとは分かってます。けれども、彼女たちの心からの言葉が私を違うと言っていると思うと、やはり悲しくなってしまいました。

ある日そのことを親友の琴羽ちゃんに相談してみました。


「ねえ、琴羽ちゃん。私ってみんなとは違うのかな?」


「何当たり前のこと言ってるのよ。」


「やっぱりそうなのかな。」


「誰1人として、同じ人間なんていないわよ。みんな違う。私だってそうよ。みんなとは違った清水琴羽と言う人間だもの。」


私は琴羽ちゃんが言いたいことは分かった。けど私が知りたいのは、相談したかったのはそう言うことじゃない。人としての、個体としての悩みではないのだから。


「そっか、そうだよね。何当たり前のこと聞いてるんだろ、ハハハ。」


「そうよ。変な結衣ね。」


私は笑顔でその話を打ち切った。これ以上話せば、私が悩んでいることで、琴羽ちゃんまで悩んでしまうかもしれない。迷惑はかけたくない。もちろん、琴羽ちゃんならそんなことを迷惑だとは言わないだろうけど、それでも私は自分の悩みを奥底に隠すことにした。

次の日も同じことを言われた。


『横山さんは可愛いよねえ。』


「みんなだって可愛いよ。」


『そんなことないわよ。私たちなんかよりも全然可愛いわ。ねえねえ、どうしたら髪の毛そんなにサラサラになるの?』


『あっ、それ私も気になる。』


「特に何もしてないって。」


『良いなあ、やっぱり私たちと違って髪質が良いのかなあ。』


『かもねえ。』


「……………。」


今日もそうだった。私はみんなと普通に話をしたいだけ。なのにみんなは私が来るといつもこんな感じだ。可愛いとは言ってくれても、そこから先、私と交じろうとはしない。まるで上部だけの関係だ。友達、何だろうか。

私は放課後、学校の屋上に来た。そして、1人寂しく、自分はどうすれば良いのかと考え、悩んでいた。


「はあ〜。」


ただ、解決策が思いつくかは別の話。ついには何も思い浮かばず、ため息をしてしまった。


「何ため息なんてしてるんだ。」


「え?」


私は突然かけられた言葉に驚きながら、後ろを振り向く。そこには顔は見たことがあるけど思い出せない男子生徒がいた。それが私と飯綱くんの出会いだった。


「えーっと、あなたは……。」


「ん?俺か?飯綱雅風だ。」


「飯綱くんか、私は横山結衣、よろしく。」


「ああ、それで何でため息なんてついてたんだ?」


「そ、それは…。」


このときの私は正直に言って飯綱くんに良いイメージを持たなかった。初対面なのにずかずかと私の中に入って来る感じは嫌だった。


「な、何でも良いでしょう。」


「俺はお人好しなんだ。相談くらいのるぞ。どうせ、俺はここでしばらく待つことになるしな。」


「………………。」


私は不本意ではあったけど、1人じゃ何も解決しなかったので飯綱くんに相談することにした。私は今までの出来事を話した。話が終わる頃には飯綱くんは不思議そうな顔をしていた。


「どうしたの?」


「いや、琴羽って言う親友がいるんだろ?」


「うん。」


「それだけじゃあ、駄目なのか?」


私は考える。確かに私には掛け替えのない親友がいる。けど、それは違う。私はみんなから線引きされているみたいで嫌なのだ。私もみんなの輪の中に入りたい。省かないで欲しい。


「えっーと。」


「そうじゃないなら、結衣は結構な強欲さだな。」


「ゆ、結衣。」


初対面の人に下の名前を呼ばれて私は動揺した。ただ、飯綱くんは別に気にした様子もなく話を続ける。


「人と人との輪の中に入りたいだけならともかく。心の内をたくさんの人に見て欲しいなんて言うやつはなかなかいないぞ?それこそ心から信頼できるやつでないとな。」


「私は別に親友が欲しいわけじゃないよ。」


私がそう答えたのを聞くと飯綱くんは何か閃いたような顔をした。


「……そう言うことか。」


「何?」


「お前は自分の本心を自分で理解できてないだけだ。」


本心?私はさっきから本心でしか話してないはず。


「お前は自分が他人と違うと言われている気がすると言ったが、それはお前が無自覚にそれが友達ができない理由と感じてるからじゃないのか?みんなと違うだから仲良くなれない。自分はもっとみんなと仲良くなってたくさん話をしたい、そんなところか?」


「そんな簡単な事じゃないよ。みんなは友達だよ。それでも違うの何か…何かが違うの。」


「自分が思い描く友達とか?」


「…………。」


私は飯綱くんに言われ、段々わからなくなってきた。私はみんなと違うと言われたくない。でも、それは何故だろう?

私は琴羽ちゃんと話して、みんな違うことはわかっていて、それは当たり前のことだと理解してる。じゃあ、何で嫌なのか。私以外はみんな同じと言うような言い方をされるから?私だけ仲間外れに感じるから?私だけ友達じゃないような気がするから?


「わからないよ。もう、難しいこと言わないで。」


「別に難しくはないと思うがな。気に障ったなら謝る。」


涙が頬を伝って流れいく。これじゃあ、まるで駄々をこねてる子供みたいだ。


「なあ、結衣。思うんだが、俺と話したお前ならその悩みを解決できると思うぞ。」


「無理だよ。今までだって悩んできてどうにもならなかったんだよ?」


「1人でか?」


「……うん。」


私がそう答えると飯綱くんはこちらに私のすぐ隣まできた。


「結衣は1人でいるとき、今みたいに話せてるか?それとも少し受け身になって話してるんじゃないか?」


「……確かにそうかもしれない。」


私はクラスにいるとき、自分から話しかけずに話しかけられるのを待っていた。でも、それは仕方のないこと。また、私とあなたは違うなんて言葉を自分から聞きになんて行きたくなかった。


「変に怯えてるから、そうなるんだ。もう少しだけ前に出てみろ。ちゃんと会話をする、それだけで良い。一方的なのは駄目だ。あと、話しかけはお前からだな。」


「そんなことで良いの?」


「そんなことを今まで試して見たか?」


私は黙って首を振る。さっき会ったばかりの飯綱くんが私のことをなぜここまでわかってくれるのだろう。とても不思議で、とても嬉しい。

少し上から目線な気もするけど、だからこそ良かったのかもしれない。いつも教室ではみんなが私のことを見上げてるような感覚だったから。


「ありがとう。何かわかった気がするよ。」


「そうか。じゃあ、俺はそろそろ帰ることにする。あいつ来なそうだしな。」


「あいつ?」


「そうだ。放課後屋上行こうぜ、とか言っておいてそれを忘れてる。多分、何処かで俺を探してるんじゃないか?」


そのとき、屋上への扉が勢いよく、開いた。


「おい、雅風!こんなところで何してるんだよ。さっさと帰るぞ。」


「ほらな、忘れてる。」


「本当だ、ハハハ。」


「な、何が可笑しいんだ?」


雅風くんの待ち人は本当に約束を忘れてるみたい。木下くんとの出会いはこんな感じだった。


「それじゃあな、結衣。」


「あっ、ちょっと待って。」


帰ろうとする飯綱くんを私は呼び止めた。どうしてもお願いしておきたいことがあったからだ。


「なんだ」


「その、今度からは苗字の方で読んでくれない。その恥ずかしくて。」


「そうか。わかった。じゃあな、横山。」


「うん、じゃあね。」


今考えてみると、このときから私は彼に想いを寄せ始めていたのかもしれない。

次の日、飯綱くんの言っていた通りのことをした。みんなに私から話しかけてみた。


「あの、昨日のドラマ面白かったね。」


「うん!そうだね、特にラストは泣けたよね。」


「そうそう、結ばれない2人が切なかったよね。横山さんもそう思うよね。」


「うん。確かにあのシーンは切なかったね。」


「でしょ!それでね。」


私はここでもう少し前に進むことにした。

私から始めるんだ。


「あの1ついいかな?」


「どうしたの?」


「その、私も名前で呼んでほしいかな〜って。」


「……そうだね。もう結構経つのに何で苗字で呼んでるんだろ。ごめんね、結衣。」


「全然気にしてないよ。」


終わったしまえばとても簡単なことだった。けれどそれに気づくことは難しい。気づかせてくれた飯綱くんは凄いと思う。私は飯綱くんに感謝しながら、友達との会話を楽しんだ。

それから気づくと、飯綱くんのことを気にかけていた。彼のことを考えなかった日はなかったし、たまに放課後屋上に呼んで話を聞いてもらっていた。楽しかった。

けど、そんなある日のこと私が飯綱くんを屋上に呼んだのに彼は来なかった。心配になり、学校中を探すと体育館の裏でボロボロになった飯綱くんを見つけた。


「飯綱くん!大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。それより約束破って悪かったな。」


「そんなこと良いよ。今は飯綱くんのほうが大事。」


私はこの日、彼が虐めを受けていることを知った。悲しくなった。私は彼を助けたい。けど、私がそう言ったことを話すと彼は決まって必要ないと言う。好きにさせておけと。

私はそう言われて、その通りにしてしまった。彼が虐められていることを知りながら、それを見過ごしていた。ボロボロになった彼を見て心配するただの偽善者になった。

高校2年になり、クラスが同じになってもそれは変わらなかった。歩くんは見かければそれを止めに入ったりしていたけど、やはり私は何もしなかった。何で私は好きになった人が傷ついているのを見ていられるのだろう。私はまた悩みを持つことになった。

そして、その悩みが解決しないまま、私たちは異世界へ行くこととなった。


「飯綱くん!」


私は今でも覚えている。あのとき、飯綱くんが私の目の前から消えた光景を。悩みをかいけつしてくれて、話を聞いてくれた優しい彼。けど、私はそんな彼に何もできなかった。

その日は涙が止まらなかった。泣いて、泣いて、叫んでいた。けれどこんなときにも飯綱くんの言葉を思い出した。


『少しだけ前に出てみろ。』


泣いている場合じゃない。進まないといけない。飯綱くんを見つけるんだ。

私はとにかく突き進んだ。訓練をやり抜いて、知識を詰め込む。確実に自分は前進していると思えた。けれど、日が経つほどに不安は募っていった。私はそんな気持ちを振り切り、飯綱くんを信じて進んでいった。

そして、彼に辿り着いた。見た目は変わっていたけど、それでも飯綱くんだった。私の好きな彼。見た目なんて関係ない。誰よりも優しくて、お人好しな彼がいるんだから。

けど、今の私はそんな彼の力になれるだろうか。木下くんや上条くんが勝てなかった相手をいとも簡単に飯綱くんたちは倒したと聞いた。私はあの2人より弱い。そして、飯綱くんよりも。


(あれ?なんか苦しい。)


突然、私は現実に引き戻された。まるで真っ暗な空間が私を押し潰そうとしているようだった。息ができない。このままじゃ意識が……。


(このまま死んじゃうのかな。)


体から力が抜けていく。もがく気にもならない。私の体はゆっくりと潰れていくんだ。


(最後に飯綱くんの力になりたかったなぁ。それに想いも伝えたかった。)


もう叶わないであろう願いを胸に私は潰れていく。もう駄目。


『少しだけ前に出てみろ。』


また聞こえた気がした。飯綱くんの声が。もう本当に終わりなのかもしれない。けど……私は。

再び体に力が入る。そして、気がつけば私は動き出していた。私は少しずつ前に進む。


(やっぱり駄目。私は決めたんだもん。飯綱くんの力になるって。だから……。)


私の先に小さな光が見えた。光目掛け、進む。手を、足を、体全体を使う。


(飯綱くん。私はあなたの言葉を信じて進むよ。これからも。あなたの力になれるそのときまで!)


「ぶはっ!」


光に辿り着くと、そこには広場があった。私はその中央の池から顔を出している。


「はあ、はあ、はあ。」


息を切らしながら辺りを見回すと入り口と同じ鏡がそこにあった。多分あれが先に進む道だ。私は池から上がり、そのまま鏡に向かった。もう立ち止まらない。進むんだ。


「追いついてみせるから、飯綱くん。」


私は鏡の中へと入っていった。



横山結衣・・・・『進歩の試練』クリア





今日からまた更新ペースを上げていきます。

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