気がついたらデートでした
短めですが、切りがいいのでここまで投稿します。
ーーールネSIDEーーー
「これは……どう言うことだい?」
僕は自分が今見ている景色が信じられなかった。確か、僕の記憶が正しければ、“現世鏡”と呼ばれるダンジョンに入った筈だった。
ダンジョンと言えば、洞窟のようなもの、遺跡のようなもの、と様々な種類があると聞く。魔物が出て、罠があり、挑戦する者を容赦無く潰す。
僕はダンジョンに入れば、すぐに魔物が襲ってきたり、罠が発動すると思っていた。けれど、これは想定していなかった。
「どうして学園なのかな?」
そう、僕が今いるのはつい最近まで僕が通っていたカラドボルグ魔法学園だった。歴史ある校舎が建ち並ぶ、見慣れた光景だ。しかし、ダンジョンに入った筈の僕がここにいるのか分からない。
僕は取り敢えず周りの様子を確認することにした。ダンジョンに入る前まで一緒だった、アスモデウスさん、イヅナくん、それに勇者様たちの姿は見当たらない。
「……転移させられたのかな?まさか、僕は実はダンジョンの挑戦するに値しなかった……考えても分からないね。」
頭はどちらかと言えば良い方だとは思っていたけれど、こう言った場面に出くわすとあまり役立たない。
僕は取り敢えず校舎に入ろうと考え、歩き出す。しかし、そんな僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ルネ〜〜〜!」
「アスモデウスさん?」
アスモデウスさんがこちらに向かって走って来ていた。よかった。アスモデウスさんは無事だったんだ。
僕もアスモデウスさんの方へと走った。
「アスモデウスさん、無事だっんだね。」
僕はいつも通りのアスモデウスさんの姿を見て安心した。怪我などをした様子もない。まあ、僕がまだ怪我をしていないダンジョンでアスモデウスさんが怪我をするとも思えないけどね。
「無事?」
アスモデウスさんは首を傾げる。僕は何か変なことを言っただろうか?
「そうさ、イヅナくんも勇者様たちもここには居ないみたいなんだ。とにかくアスモデウスさんがいるってことはここはダンジョンってことで良いんだろうけど、何でこの学園のような見た目をしているんだろうね?」
「……何言ってるんですか?」
「え?」
アスモデウスさんが訳が分からないと言った様子でこちらを見てくる。どう言うことだろうか?
「イヅナと勇者って誰ですか?そんな人たち知りませんよ。それにここは本当に学園ですよ。私たち、ここで待ち合わせっていったじゃないですか。」
「ん?」
今度は僕が訳が分からなくなって来た。
状況を確認しよう。僕はダンジョンに入った。そして、気がついたら学園にいて、アスモデウスがきて、けれどそのアスモデウスさんはダンジョンなんて知らないと言う。
「アスモデウスさん、それは本気で言ってるのかな?」
「本気も何もルネが誘ってきたんじゃないですか。」
「いや、待ち合わせの話ではなくて…。」
「昨日ルネが『僕たちも付き合い始めて結構経つし、デートにでも行ってみないかい?』って言ったからこうしてるんですよ。」
「………え?」
僕の頭の中が真っ白になった。
(付き合っている?僕とアスモデウスさんが?いつから?え?)
僕は少し混乱状態になってしまう。
僕の一方的な好意がいつの間に成就してしまったんだろうか。
僕はアスモデウスさんの顔を見る。やはり不思議そうにこちらを見ている。
「ルネ、大丈夫ですか?」
「………だ、大丈夫だよ。」
僕がアスモデウスさんと付き合う。本当に嬉しいことだ。僕の憧れであり、師匠であり、守っていきたい人である彼女と共に道を歩んでいけるのだから。
しかし、何故だろうか。筈なのに喜ばない。
そう言えば、僕はここに何のために来ていたのだろうか。そうだ、アスモデウスさんと約束をして来ていたんだった。
「早く行きましょう!」
「う、うん。そうだね。」
僕はアスモデウスさんに手を引かれながら、街へと足を踏み出した。
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「ルネ、このケーキ美味しいですね。」
「そ、そうなのかい?僕は一口も食べてないから分からないよ。」
僕はアスモデウスさんと一緒にとある店にいる。何でもここで出てくるケーキがとても美味しいと言うことで訪れたのだ。
しかし、最初は僕の分も注文しようと思っていたけど、アスモデウスさんの注文のあまりの多さにその気は失せてしまった。
「注文しないのが悪いんですよ。自業自得ですよ。」
「ハ、ハハハハ…。」
誰のせいだと思っているのか。
「そんなルネに彼女の私からプレゼントです。」
アスモデウスはそう言ってフォークでケーキ一切れを取り、僕の口元まで持って来た。
「はい、あ〜ん。」
「え、いや、その。」
「早くしないと落ちちゃいますよ。」
「……あ、あ〜ん。」
僕は仕方なく、仕方なく、アスモデウスさんからケーキを貰った。けれど僕はケーキを口に入れてすぐにあることに気づいた。
(ん?そう言えばこのフォークってさっきアスモデウスさんが使っていたものだよね?)
今、きっと僕の顔は真っ赤になっているだろう。
「美味しいですよね?」
「う、うん。」
他のことを考えてしまい、ケーキの味が分からなかったとは言えず、僕は取り敢えず頷いた。
でも、僕は自分が今、幸せと感じているのが分かった。アスモデウスさんと過ごせる時間。このままずっと続いて欲しい。
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ケーキを食べた後も、僕とアスモデウスさんは街を歩き、たまに店に入ってを繰り返した。
服屋へ行ったり、お菓子を食べたり、靴屋へ行ったり、お菓子を食べたり、お菓子を食べたり。ほぼ食べてばかりのデートだったが、とても楽しかった。
そして、僕とアスモデウスさんはこの街の広場でベンチに座り休んでいる。
「ルネ、今日は楽しかったですね。」
「そうだね。まさか、アスモデウスさんがケーキをあれだけ食べたにも関わらず、まだ食べる何て言いだすとは思わなかったよ。」
「細かいことは気にしたら負けですよ。」
「細かくないと思うけだね。」
「「…………ハハハハ。」」
本当に楽しい。それなのに何故だろう。僕は隣に座っているアスモデウスさんを見つめる。
「何ですか?」
「……アスモデウスさん。君は僕と共に入れるならそれで良いと思うかい?例え、世界を敵に回すことになっても、僕に守らせてくれるかい?」
「何行ってるんですか?」
「……どうしても、応えて欲しいんだ。」
僕は真剣に頼んだ。アスモデウスさんなら、きっと応えてくれる。僕の知っているアスモデウスさんならきっとあの様な言う筈だ。
アスモデウスさんは少しだけ間を置き、口を動かした。
「思いますよ。例え、ルネが世界を敵に回したとしても、一緒に行きます。それに好きな人に守って貰えるなら本望ですよ。」
「………そうかい。」
これで分かった。
僕のことを考えてくれて、一緒にいてくれる。そして、守らせてもくれる。僕のことを好きな彼女。だが、そんな人物が…。」
「アスモデウスさんの訳がない。」
「ルネ?」
僕はベンチから立ち上がり、アスモデウスさんから少し距離をとった。
「君は言ったね。僕と一緒にいたいと、守って貰えるなら本望と。」
「言いましたよ。だから…。」
「アスモデウスさんはそんなことは言わない。」
「…………。」
そう。僕の知っているアスモデウスさんは僕のことを……どう思っているかは知らないが、彼女はイヅナくんに好意を向けている。
前に僕は今の質問と同じようなことを聞いた。イヅナくん、アスモデウスさん、2人の正体を知ったあの日に…。