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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら俺と鏡と可能性でした


ーーーイヅナSIDEーーー



俺はダンジョンに入ってからただひたすらに通路を進んだ。と言うかそれ以外の選択肢がなかった。分かれ道もなければ、転移などもなく、魔物すら出ない。ここは本当にダンジョンなのかと疑いたくなるレベルだ。

しかし、そんなダンジョンにもようやく変化があった。ついに通路の先が開けたのだ。そして、そこには見覚えのあるものがポツンとあった。


「また鏡か…。」


このダンジョンの入り口の鏡、それと同じ物がそこにあった。長い時間を掛けて通路を進み、やっとの思いでついた広場にあったのは鏡一つ。俺にはこのダンジョンの、先代の勇者の試練の意図が全く読めない。


「しかし、この鏡。見た目は同じようだが、まさかその性質自体も同じじゃないだろうな。」


この鏡に触れたら、また鏡面が波立って、中に入ったら振り出しからだったら流石に気が滅入ってしまう。

俺はそうでないことを祈り、鏡に触れる。


「……波立ないか。」


どうやらこの鏡は入り口の物とは違うらしい。しかし、だとしたらこの鏡は一体何なのだろうか。

俺はもう一度鏡を確認する。

造形は変わらない。俺の姿をしっかりと映している。このままだと高いだけの普通の鏡だ。


「だが、だとしたらどうやってこの先に進めば良いんだ?」


その鍵を握るのはこの鏡以外あり得ないだろう。俺は鏡を見る。すると、ここで驚くべきことが起きた。鏡に映っていた俺が笑ったのだ。

次の瞬間…。


バリィーン。


鏡は大きな音を立て割れ、中から俺が飛び出して来た。その手には剣を持ち、俺に向かって振り下ろした。俺は身体の位置を最小限動かすことでその攻撃をかわし、逆に腹に蹴りを食らわせた。しかし、鏡から出て来た俺は自ら後ろに飛び、その威力を減らしていた。


「何だお前は?」


「俺はお前だ。」


「そんなことは分かってる。さっきの蹴りは強めにいれた。あれに反応が出来るってことは俺や俺に準ずる力を持っていないと無理だ。だから、戦闘力の面では俺だろう。しかし、その本質は違うはずだ。」


「どう違うと言うんだ?」


鏡の俺は再び俺に近づき剣を振るう。俺も今度は【邪神剣ダーインスレイブ】を取り出し、一撃を受け止める。ようやく使われた【ダーインスレイブ】は感情がある訳ではないが何処と無く嬉しそうに見えた。正直言うと俺もようやく使えて嬉しかった。まあ、今はそんなことを思っている場合ではないが。

俺は更に【邪神剣エクスカリバー】を取り出し、鏡の俺に斬りつける。これはかわされたが2本と1本では部が悪いと感じたのか一旦距離を取った。

俺は先ほどの質問に答える。


「簡単な話だ。お前の本質、目的は俺を試すこと。俺自身に俺の力や心を理解させる為のものだ。どうやら、このダンジョンは挑戦者が更なる高みに到達出来るようそれぞれに試練を与えているらしいからな。」


「……そうだとして俺とお前が違うと言う訳ではないだろ?」


俺は鏡の俺の発言に思わず、ため息をつきたくなった。せめて、俺として生まれたのならこのくらいは理解出来て欲しかった。


「だから、目的が違うと言っただろう。お前は俺を倒すこと、そのために生まれ、それを生涯の目的としている。だが、俺はお前を倒すことが目的ではないし、そのために生まれた訳ではない。根本から別物って訳だ。」


「…………。」


まだ、分からないのか?


「更に言えば、お前が完全に俺ならばこんなことを説明しなくとも、俺自身の考えなのだから理解出来ないはずがないだろう?」


どんなに姿形が同じであろうと、同じものでは無い。全く同じ肉体を持とうと、生まれた時間が違えば、それは既に同じでは無い。住む場所が違えばそれも同じ。こんな世界だ、本当の意味で同じ存在などいないだろう。


「成る程な。確かに俺とお前は別だな。だが、それでもお前自身を知る為には役立つ事に変わりはない。」


「それは否定しない。だからこそ、俺はお前を倒さず、話に付き合っていた訳だからな。」


「さすが俺だな。口だけは達者だ。」


「そんなことよりも早く来い。時間は有限なんだ。」


俺がそう言うと鏡の俺は剣をもう1本取り出した。その正体は恐らく【邪神剣エクスカリバー】。そして、もう1本は【邪神剣ダーインスレイブ】だろう。同じ能力を持った異なった剣。その能力を知っているからこそ厄介だ。


「行くぞ。」


鏡の俺は『瞬間移動』を使い、俺の背後を取る。だが、それの可能性も考えていた俺はすかさず『光魔法』を使い、光線を放つ。

鏡の俺は光線を真っ二つに切る。その瞬間を狙い、後方から仕掛けるが、『瞬間移動』で回避される。


「……流石は一応俺だな。全く、終わる気がしない。」


「「それはどうかな?」」


「何?」


そこには2人の俺の姿があった。成る程、一対一では勝てなくとも、人数が増えれば勝てると思ったのか。

………アホだな。


「1つ言わせてくれないか?」


「「何だ。」」


「俺に人数を増やしたり、時間を操作しながら攻撃をするのは止めろ。意味が無い。俺も全く同じことが出来るんだ。」


「「…………。」」


俺の言葉を聞き、鏡の俺は1人に戻る。


「やはりお前は俺だが俺じゃ無いな。」


「だな。」


俺と俺は剣を構える。しかし、このまま剣をぶつけ合ったとして、戦いが終わるとはとても思えない。まあ所詮は映し出された俺だ。自分の力を弱めたりすれば効果はありそうだが、自分とは真っ向から戦いたい。だとすれば。


「なあ、このダンジョンは俺たちの全力の一撃に耐えられるのか?」


「さあな。」


「そうか。なら…。」


俺は自身と相手を囲むように全力で結界を張った。これならば俺の全力の一撃と相殺しあえるはずだ。全力を使った後に全力が出せるのか、とも思うが好きにスキルを使ったり、作ったり出来る俺だ。瞬間の回復くらい出来る。

そして、それが出来る以上言わなければならない。


「回復禁止な。」


映し出された俺とは言え、俺の性格ならば乗るはずだ。


「わかった。」


鏡の俺もそれに了承する。しかし、ここで俺たちにとって予想外の事態が起きた。

突然、鏡の俺の周りに黒い靄が現れた。


「何だそれは?」


「どうやら、ダンジョンによって試練を変更されたらしい。すまないがお前の提案に乗ることは出来なそうだ。」


鏡の俺がそう言い終わった瞬間だった。黒い靄が鏡の俺を覆い始めた。


「あがっ!?ぐっ!がっ!?」


「…………。」


流石に同じ容姿の者が苦しむ姿を見るのは嫌だな。

俺は【邪神剣エクスカリバー】を振るい、靄を切り払おうとする。だが、手遅れだったようだ。

靄は爆散し、辺りを一帯を黒く染め上げた。靄が晴れて行くにつれ、ゆっくりと動く者の姿が見えた。


「があぁ……。」


先ほどの鏡の俺の姿とは違った。皮膚は爛れ、髪は真っ暗に染まり、真っ赤な瞳でこちらを見ている。

4つの翼に、4つの腕。理性は無いに等しく、異形の存在だ。

しかし、俺はその姿を見て理解した。あれは俺の1つの可能性なのだ、と。

俺はシヴァと出会い、その力を受け取り、自我をしっかりと保ち、今ここにいる。だが、もしも力を受け取る際に、死ななかったとしても、その力に自我を保てず、限界の状態に陥ってしまった場合、俺はあのようになってしまうのでは無いだろうか。

無数に存在する可能性。その中でもより辛く、苦しいものをこの試験は俺に見せているのでは無いだろうか。


「……全く意地汚い試練だ。」


「雅風?こんなところで何してんだ?」


「!」


俺はその声に思わず振り向く。


「歩?」


「ああ、そうだぜ。それよりあれは何だ?お前の試練の相手か?」


俺は歩の質問に返答することなく、観察をした。

ここに歩が来ることはありえない話では無い。同じダンジョンに入ったのだからな。だが、このタイミング・・・・・はありえない。

この先代の勇者が残したダンジョンがこの短時間で終わる程度の試練を与えるはずがない。


「飯綱くん!それに歩くんも!」


「……横山。」


今度は横山の登場だ。

ここまでされれば俺もこいつらの正体は特定できる。


「これも試練か。そうだろ?鏡の友人たち。」


つまりはこれも俺の試練、そう考えるのが妥当だ。


「イヅナ様!」


「イヅナくん。」


「イヅナ。」


「イヅナさん。」


アスモデウス、ルネ、セリカ、リア。次々と俺の知り合いが現れる。


(これは何のためだ?俺を油断、動揺させる為か?いや違う。それなら他にもっと良い手がある。だとすると…。)


俺は先程まで鏡の俺がいた場所に目を向ける。そこには黒い靄は残っていたが、その姿はない。つまりは…。

俺は歩のもとへ『瞬間移動』を使い移動する。そして、歩を狙う剣を薙ぎ払う。


「がああぁぁぁ!!!」


「成る程。その状態になってしまったとき、こうなると言いたいわけか。」


理性を失い、力だけを持った俺は破壊の限りを尽くす。人を、国を、世界を、その存在が無くなるまで俺は力を解放する。

例えそれが親友や仲間だったとしても。


「ふざけるな。本物でないとしても俺の前でこいつらを傷つけることは許さない。」


これが試練だと言うのなら守りきって見せよう。

俺は覚悟を決め、鏡の俺と向かい合う。だが、俺は簡単なことを忘れていた。俺が守ろうとしているものがダンジョンによって作り出された存在だと言うことを。

俺が攻撃から守りきろうと、ダンジョンの意思一つで消えてしまうと言うことを。

俺が守ろうと守りきれぬと言うことを。


「…まさ……か…ぜ。」


「どうした?あゆ…む……。」


俺は歩の姿を見てしまった。四肢は裂け、体を鮮血で染め、地面に横たわるその姿を。


「歩!」


俺は歩に『回復魔法』をかける。しかし、そんなものが効くわけがない。こいつはダンジョンの一部なのだから。

本物ではない。そんなことは分かっている。だが、それでも親友が傷つき、死にかけている様子に、俺は動揺した。


(まず止血?いや、傷を塞ぐか?だが……。)


俺が歩1人に手一杯に成っていると周囲から悲鳴が聞こえて来た。


「きゃあ!」


「ぐはっ!?」


鏡の俺は俺の仲間を切りつけ、殺していく。1つ、また1つと死体を作っていく。


「止めろ!」


俺は叫ぶ。しかし、理性のない俺がその手を止めることはない。

誰かがこちらに飛ばされて来た。


「イヅナ…様。」


「アスモデウス。」


体はボロボロになり、動ける様子ではない。


「私、イヅナ様と出会えて嬉しかったです。楽しかったです。」


「………。」


試練これは試練だ。自分にそう言い聞かす。そうして、溢れてくる涙を抑え込もうとする。

こんな泣き顔をアスモデウスには見せたくはなかった。


「もっと、イヅナ様と2人で……。」


ザシュ。


アスモデウスの首が飛び、転がった。そして、俺の中の何かが切れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……俺は一体何を…。」


気が付けばダンジョンの天井を眺めていた。石造りのダンジョンだ。

俺は体を起き上げ、周囲を見渡す。鏡の俺の姿や、仲間たちの姿もない。


「…………。」


しかし、俺は考えてしまう。

この力を俺が持っていても良いのだろうかと。もともとこの力は自分が助かる為に手に入れたようなものだ。その後のことを考えず、その瞬間しか見ていなかった。今までは運良くここまで来れた。だが、あれを見せられてしまってわ……。


「………くっ。」


思い出すだけで涙が出た。あんな未来にしてたまるものか。俺がどうにかするしかない。道を作って行くしか…。

だが、もしも。もしも、俺がああ成ってしまった時は…。

俺は思い悩む。そのときだった。


(貴方なら大丈夫。1人じゃない。私がいるもの。)


どこからか声が聞こえた。とても懐かしく、暖かい声が。


(これは夢の。)


夢に出て来たあの存在。結局、何も分からなかった存在。しかし今、その言葉が心に響いた。俺のことを理解している。そう感じさせる何かがある。

だが、それが何かは分からない。まあ、何でもいい。今はそれだけでありがたい。

少し落ち着いた俺は口を開く。


「……何か理由でもあるのか?」


(私がいるから。)


「……余程の自信家だな。」


(…………。)


「だんまりか。」


俺はゆっくりと立ち上がる。


「俺はお前を思い出せていない。だが、なぜか分かっているんだ。お前が俺を分かっていて、守ってくれていることが。」


(うん。)


「本当に大丈夫何だな?」


(うん。)


「分かった。」


正体も分からないものの言葉を信じるなどどうかしている。


(貴方には理性が感情がある。それは決して失わせたりはしない。だから、安心して。私が貴方も、仲間も傷つけさせたりはしない。)


俺にはこいつに対する絶対的な信頼があるらしい。例え、記憶に無くとも、体がそれを覚えている。俺は感謝の気持ちを伝えた。


「いつもありがとな、ーーーーー。」


(!)


「……今、俺は何を言った?」


(……こちらこそありがとう、イヅナ。)


その言葉と共に謎の存在がどこかへ行ってしまった。


「…………感情か。」


俺がそう呟くと同時に先程まで壁だった場所に鏡が現れた。どうやら、先に進めるようだ。


「以外と辛い試練だったな。後、幾つあるか分からないが、もう勘弁してほしい。」


俺はそう言って、次の場所に向かうべく、鏡の中へと入っていった。



イヅナ・・・・『感情の試練』クリア








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