気がついたら試練でした
短いですが、キリがいいのでこれくらいにしておきます。
ーーーアスモデウスSIDEーーー
「あれ?皆さんどこに行ったんですか?」
周りを見渡しても、誰かいる様子はありません。後ろは壁、前には通路が続いています。
「イヅナ様〜!ルネ〜!」
大きな声を出しますが、返事はなく、私の声が山彦のように延々と響くだけでした。近くには誰いないようです。
「取り敢えず進みますか。」
私はダンジョンを攻略するべく、前へと進みます。
「全く、皆さん早速、離れ離れじゃないですか。話し合いでしっかりと纏まって行動をするって言ってたのに、駄目駄目ですねえ。
ん?でも、この状況。よく考えれば、イヅナ様がいない今、普段言えなかったりすることを思う存分に言ってやるチャンスなんじゃないですか?
…………イヅナ様の鈍感ヤロー、バーカ、私のこともしっかり見ろ〜。」
それから私はイヅナ様の愚痴を言いながら、ゆっくりと歩きました。最初は小声で言っていた愚痴も、気分が乗って来たのか、段々とその声量が上がっています。
しかし、このダンジョンは魔物の気配が一切ありません。ただ、通路が1つあるだけです。このままだと間違いなく私は退屈になります。いくらイヅナ様に対する愚痴が山のようにあったとしても、風景も変わらなければ、どれほど進んだのかも分からないような場所では限界がすぐに来てしまいます。
私は退屈しのぎになりそうなものを探していると、通路が開け、大きな広場に出ました。
「やっとですか。」
広場は通路と全く同じ材質で、広くなっただけに過ぎません。
ただ、この広場に入ったものの、辺り一面は壁で、出口らしきものが見つかりません。
「行き止まり?あっ!もしかして私、道を知らぬ間に間違えてましたか!?」
しかし、そんなはずはありません。ここまでは一本道でしたし、流石の私でも他の道があったにも関わらず、見落とすなどありえません。多分。
ガシャン。
「へ?」
私は何やら後方で音がなったので振り向きました。すると、先ほどまで入り口があった場所が壁となっています。
「閉じ込められちゃいました。」
そんなことを言っていると、私の上から黒い粉がまるで雪のように降って来ました。
私は上を見ました。すると、そこには黒い粉を出していると思われる小さな者がいました。
「誰ですか?」
「誰でしょう。」
私の前に現れたのは体長15cm程の黒い羽を持った妖精のような者でした?髪や目もその羽のように黒く、小さいながらも幼さを感じさせない顔つきをしています。
「分からないから聞いたんじゃないですか。」
「くすくすくす……あなた、面白い。」
私が急いでいると言うのにこの妖精は呑気なものです。
「こっちは全く面白くないですよ。行き止まりで先に進めないんです。早くイヅナ様に会いたいのに。」
私はイヅナ様の付き人。いかなる時も一緒にいなくてはなりません!
例え壁が、絶壁が、ダンジョンが、有ろうとも、それを乗り越えて行きます。
「という訳なのであなたの相手をしている暇はありません。」
そう言って、私は再び出口を探します。しかし、相変わらず壁のみで他のものが全く見えません。
足の壁なのに亀裂の一つもなく、隙間がありません。壁を調査する私のもとに妖精がヒラヒラと飛んで来ました。
「しつこいですねえ。私は…。」
「イヅナ様はあなたに会いたいとおもっているの?」
妖精が突然、質問をしてきました。
「ん?何言ってるんですか?当然じゃないですか。」
「本人からそんなことを聞いたこともない癖に、そんなことが言えるの?」
妖精が近づいてくる。
「そんなことないですよ。イヅナ様だって……。」
「違う。それはあなたの願望。あなたがそうあって欲しいだけ。」
妖精はそう言うと、羽から黒い粉を放った。顔の目の前でいきなりだったため、私はその粉を受けてしまいます。
「っ!」
すると、視界が奪われ、辺りが真っ暗になってしまいました。しかし、私には『色欲之神』があります。その力は“目標、標的の掌握。妖精の位置はこれで把握できます。
「無駄。私は決して目標、標的にはならない。何故なら私はあなたから作り出されたのだから。」
「?何を言ってるんですか。」
私は構わず、『色欲之神』を使用します。
しかし、それで確認出来たのは私1人でした。この空間には他には誰もいません。
「魔法?いや、これは…。」
「そう、これは魔法ではない。ただのマスタースキル。」
マスタースキル?そんなものを使われれば私も多少は反応できていたはずですが。
「あなたがやったんですか?」
「ううん。違うよ。これは先代の勇者たちが保有していたものだよ。その名も『八咫之神』。そして、勇者はそのスキルを代償にこのダンジョンにある細工をした。つまり、あなたはダンジョンに入ったときから既に『八咫之神』の影響下にあったの。」
「…………。」
「信じられないって顔してるね。でも、気づかなかったのは仕方のないこと。同じマスタースキルを保持しているあなたとは言え、スキルを失ってまで発動する力には抵抗できない。あなたがマスタースキルを使いこなせていたとして、100%の力を出せていたとしても、このダンジョンは120%の力であなたをねじ伏せる。」
自分で対抗も出来ず、その能力さえも理解できない。流石は先代の勇者が作ったダンジョンです。
「これは試練、あなたがこの力を乗り越えられるか、どうか。」
私は五感を頼りに妖精を探します。しかし、やはりその居場所を特定することが出来ません。本当にまずい状況です。
「さあ、アスモデウス、始めましょう。」
「待っててください、イヅナ様。アスモデウスはすぐにあなたのもとへ向かいます!」
こうして私、アスモデウスの試練が開始ししました。
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このとき、試練を受けていたのはアスモデウスだけではない。それぞれの者が、それぞれの試練を受けていた。
先代の勇者が残したダンジョン“現世鏡”。ここは挑戦者を映す鏡の世界。自分を、現実を受け止めさせるため、そして、それを受け止める程の精神を鍛えるためのもの。
正確に、確実に、すり減らされていく精神。果たしてこのダンジョンを無事に帰還できる者がどれだけいるだろうか。
そして、【聖剣グラム】を手にすることは出来るのであろうか。